2007年12月11日(火) in 大阪城ホール
開演:19:09 終演:21:46

「時が経つのは早いもので…」はこの時期に至る所で舞い踊る常套句だが、そんな使い古された成句をあえて強調して使わねばならぬほど私の2007年はあっという間に過ぎていった。骨が溶けるのではないかと本気で危惧したくらいに犯罪的な暑さをギラつかせていた今年の夏も気が付けば嵐のように去っていき、今では在宅時に必ずストーブを付け(関西電力は利潤増大にさぞかし喜んでいるだろう)、外出時には四枚+ジャンパーを着るといったゲリラ兵並の重装備に身を浸しながら、近所の小学生たちのわんぱくさに負けぬよう私は毎日を元気いっぱいに過ごしている(余談だがあまりに今年の夏が暑かったので、ひょっとしたら冬も半袖でいけるのではないかと少し前まで淡い期待を抱いていた)。
しかしここで独白したい。実は最近、大塚愛への造詣が日に日に深くなっていき、今までサザン/桑田がずっと死守し続けてきた”iTunes自宅オンエア率No.1”の座も黒船の如く登場した我が麗しの大塚愛に明け渡してしまう事態になっていたのだ。彼女の人間的な魅力とアルバム『LOVE PiECE』の音楽性についてはまた別の機会に論じたいと思っているが、そんな中、12月に発売された桑田佳祐のシングル『ダーリン』は大塚愛の虜になっていた私を桑田ワールドへと見事に引き戻してくれた”改心”の一作になったことは間違いない。PVでは冒頭からどこかで見たことがあるはずの夏目ナナが登場し、反射的にボリュームを下げてしまった自分に対して憐憫の情が芽生えてしまったが、PVの至る所に登場する横浜のランドマークを見ていると、数ヶ月前の光景に思いを馳せている自分がいることに気が付いた。
横浜・赤レンガパークにて小島よしおにゾッコンだった桑田の姿をこの目に焼き付け、その後に中華街で酔って朦朧した『Music Lovers』公開収録(8.20)、TOKYO FMホールにてアフタータイムのように寛ぎながら演奏する桑田に親近感を抱き、その後に半蔵門で泣いてWalkingした『夜遊びやり逃げライブ』(8.25)……端から見ればもう十分に思い出は作ったじゃないかと突っ込まれるかもしれないが、思い出に摂取制限は存在しないし、2007年の桑田はまだまだ終わらない。そう、このときすでに11月から全国ツアーを行うことが発表されていたのだ。夏が終わると散ってしまうのはラジオ体操だけで御免である。
ツアーのFC優先エントリーは9月上旬に行われ、数日後の9月20日、生意気にもNU茶屋町で会食していた私に一通のメールが届いた。その内容は12/11大阪城ホールライブの当選通知。「フッ…当たり前じゃないか」と半笑いを浮かべながらその場で「Getどぇすいぇい!」と勝利宣言を出したものの、後にファン仲間をリサーチしてみると外れた人が意外と多いことに気付く。悲鳴を上げる落選組を助けてあげたい気持ちはso much moreだったものの、エゴ全開な私は特に何のアクションを起こすこともなく、この日から”その瞬間”に向けてひたすら日々を突っ走り続けていくことになった。
風がすっかり骨に凍てつくようになった11月22日、家で鍋をぐずぐず煮込んでいると、コンコンとドアを叩く音が聞こえてきた。そこには厳封された封筒と共に運送屋のおっちゃんが立ちつくしており、思わずニヤリと不適な笑みを浮かべてしまった私(おっちゃんに対して何かを企んでいたわけではない)。おっちゃんがトラックへ戻るのを見届けてから、恐る恐る中を開けてみるとツアーのチケットが契約通り二枚入っており、気になる席の位置はなんと一列目であることが判明した。ここは汚れを知らない少年のように素直に喜びたいところだったが、2秒も経たぬうちに”スタンド”と記載されていることがわかり、希望の灯火は脆くも崩れ去ってしまう。が、スタンドの一列目はアリーナの後列よりもコンディションが良いと一般的には考えられ、遮る物体が何もないのだからかえって良席をGetしたと解したほうが妥当なのかもしれない。そう考えると一気にテンションは跳ね上がり、いつしか私は「day-○○」と毎日のように心の中でカウントダウンをしながら日々の雑務に励むようになっていった。
それからというもの今年の年の瀬はやたらと桑田をブラウン管でお見かけすることになる。「ただ、レンジの上にあっただけ」という理由でカップヌードルを食べながら鑑賞した『CDTV』(12/1)、PCで作業をしながらミュートで3時間出番を待ち続けた『FNS歌謡祭』(12/5)…など桑田のテレビ出演が続くのに比例して胸の鼓動もだんだん計測不能の域へと達していく。ライブ一週間前の12/4には待望の新曲『ダーリン』が発売され、起床の瞬間から『ダーリン』を聴きまくるのがいつしか日課となっていた。「♪いいオンナがひとり〜」のメロが聞こえてくると酸っぱい顔をしながら小指をヒロミゴーのように立てて本番に備える毎日。当日の会場の様子をシミュレーションしながら、12/11を来る日も来る日も待ち焦がれていた。
よく考えてみると大阪で桑田のライブに参加するのは実に5年ぶりのことであり、この歴史的瞬間を全身で感じるためにも絶好のコンディションで当日を迎えたい…とずっと祈念し続けていたのだが、実はあろうことにもライブ当日に2007年最大の危機が起こってしまう。なんとこの世紀の一大イベントを前にして風邪をひいてしまったのだ。日々の生活では人一倍風邪に気を付けていて、手洗い・うがいの励行などの基本的なエチケットも堅実に守っていた。が、形而上の世界にいる運命の悪魔は、悦びの絶頂にいた私に嫌がらせとしか思えないライノウイルスを献上したのだ。某スピリチュアルなんとかセラーの人間に言わせれば「前世が悪かったからそんなことになるんだ」と説教されるのだろうか。何にせよひいてしまったものはいくら嘆いても暖簾に腕押しであることに変わりなく、ここは速やかな原状回復を祈るしかない。
前日の朝に喉のイガイガ感が発現し、それでもその日はいつも通り夕方まで授業を受けて家に帰ってきたのだが、熱を計ってみると37℃台。これで翌日に本格的に熱が出てライブに参加できなくなってしまったらどうしよう…と顔面蒼白になりながらも奇跡を信じながら就寝したところ、心の奥深くに潜んでいたケセラセラマインドが功を奏してライブ当日は見事に熱が軽快していた。本番男の本領発揮だ。ただ風邪特有の感覚は否定できず、鼻水も止まらない上に喉もずっと痛かったために、槍が降っても学校を休まない”授業中毒男”であった私もさすがに危機感を感じ、念には念を押してこの日の授業をすべて欠席することにした(仕事ではないので私が勝手に休んだところで授業に何の支障も出ないわけだが)。昼は近くのお店でサンドウィッチを買ってきて、旅立ちの時間が来るまで飼い猫のように毛布にくるまり、16時前にいよいよ出発することに。
この日の天気はあいにくの雨模様で、肌の下へと突き刺すくらいに寒さも厳しい。当の私自身もどことなく悪寒がして、体調不良のせいか電車に乗り込んでも本に手が着かず、センセーショナルな言葉が乱れ舞う中吊り広告をひたすら虚ろな目でロックオンし続けていた。梅田の阪急そばで軽く食糧補給をして、いざ大阪城ホールへ出陣。大阪城公園駅の改札を出ると帰りのきっぷを買い求める人でごった返していて、会場へ足を運ぶ前から”まつり”の気配をいち早く察知することができ、これ以降テンションが際限なく急上昇していくことに。夜店やダフ屋を掻き分けながら城ホールへ向かって歩いていくと、噴水の前あたりで今回の相方と無事に合流。このときすでに時刻は18:00を指していた。ツアーグッズコーナーで手際よくパンフレット(\2,000)を購入し、いざ桑田が待ちかまえる会場の中へと出陣していく。前に大阪城ホールへ来たのは小学2年生のときに親に連れられテレビ番組の観覧へ行ったときなので、私にとっては実に16年ぶりの城ホールとなった。
人混みを抜けて席に着くと横浜アリーナ同様意外と会場が狭いことに気付く。また若干年季も入っており少々古い。しかし大阪ドームと比べると格段に環境が良いことは事実で、席に着いた瞬間から私の興奮は止まらなかった。ここで更にテンションを上げるべく滋養強壮の意味合いも込めて”庶民の麻薬”ことユンケルを口内投入。本当は景気よく一本4000円のユンケルスターでも一発ぶちかましたかったのだが、残念ながらそこまでのセレブではなかったので、あえなくノーマルなユンケルで我慢することに。ユンケルを飲むと気のせいか調子も上がってきて、気が付けば桑田の魔法にかかっている自分がいた。
18:20、『ダーリン』のサビと共にスクリーンにWONDA「圧力ブラック」篇のCMが流れる。その後にショコライフ→WONDAとCMが続き、次に注意事項を絡めた会場アナウンスが響き渡った。このループが18:30、18:45にも繰り返され、会場のテンションも桑田が登場するその瞬間に照準を合わせ、加速度的に上昇していくのが否応なく伝わってくる。ここでアリーナをずっと観察していると「「ダーリン」ご購入特典のバッチは、「ダーリン」演奏時から点灯してお楽しみくださいませ」と書かれた立て札が所々にあることに気付いた。ホールの入り口にもこの掲示はあり、某串カツ店の「二度漬けお断り」にも比するくらいの徹底ぶり。
18:51、ステージでは軽く音出しが始まる。ここまでくるともうすぐ始まるんだという高揚感が身を包んでいく。そして18:53、公式HPにて募集されていた「よっ!桑田佳祐、留守電応援メッセージ」に寄せられたファンの声をFM802とのコラボで紹介する企画が始まった。「がんばってください」というノーマルなメッセージから「リリーフ桑田!」などのやっぱり出たか真澄ネタ、「キャベツ食べろよ」「ラーメン食べに行こう!」などのマブダチけいちゃんネタまでその内容は多彩に富んでおり、CHARA・山下達郎・小田和正のマネをしながらTELしてきた人も紹介されていた。最後には関西弁で「中年の魂を見せつけろ!」と激励をするシーンも会場に流され、桑田が中年の期待の星であることを改めて実感。今回の客層もザッと見30代中盤以上がほとんどを占めていて、会場内は平日ということもあってか背広姿のサラリーマンも多く見かけられた。
18:57にWONDAのCMが再び流れた後、18:59からは夏目ナナ出演の『ダーリン』PVが登場。もちろん夏目ナナの映像作品を楽しみながらティッシュを大量消費した桑田の姿が最後に出てくる完全版。PV自体は何度も見ていたが、ライブ直前のPV鑑賞は格別であり、ここからテンションはレッドゾーンへ突入。PVが終わると桑田登場を待ち望む観客を焦らすかのようにキョードー大阪:田中さんによる注意事項が数分間響き渡った。「終演後にアサヒ飲料様よりコーヒーが…」とのアナウンスが流れると喚起に沸く会場。あまりにもわかりやすい反応に思わず苦笑。でも確かにコーヒーをいただけるのは非常にありがたい。桑田がWONDAのCMに出演して以降、何かにつけてコーヒーはWONDAをセレクトし、モーニングショットは時たまベンダーで買って朝に飲んでいただけに、コーヒーを飲むことがすっかりマイブームと化していたのだ。
アナウンスが終わると同時にステージは暗転していき、いよいよ待ちに待った桑田佳祐SHOWが始まっていく。白いライトが放物線を描きながら観客を照射していき、CHAGE&ASKA『WALK』のような天空イントロが斉藤誠のギターと共に舞い上がる。さらにどこかで聴いたことのあるメロディラインにのせてステージ中央のLEDには英語のメッセージが映し出されていく。「今逢いたい人はいるのかい?」「一番逢いたい人は誰だい?」…そして1・2・3のカウント後に流れてきたのは記念すべきオープニング曲『哀しみのプリズナー』だった。ステージには大きな鉄格子が出現し、貫禄ある登場を見せつける桑田。原曲よりもちょいスローなテンポが50代の桑田にぴったり合っていて無糖ブラック並に渋く、かっこよすぎるオープニングに思わず鳥肌が立ってしまった。2番から格子が外れベールが解かれると桑田の姿が玲瓏に見えるようになり、観客からは大歓声が上がることに。フルビジョンのLEDには銀河系のCGが終始映し出されていた。ちなみに私がこの曲を初めてCDで聴いたのは中学3年生のときのお正月。お年玉で買った『Keisuke Kuwata』の一曲目にこの曲が入っていて、すでに買っていた『フロム イエスタデイ』には入っていなかっただけにどんな曲なのかとドキドキして聴いたものだが、初めて聴いたときはサザンとは明らかに違うPOPの軸に言葉に代え難いほどの感動を覚えたものだ。同時にプリズナーなのだからライブでは鉄格子の中で歌うのではないかと漠然とシミュレーションもしていて、そんな少年だった頃の妄想が9年後に現実になるとは…感極まってしまった。
曲が終わると間髪入れずに『BAN BAN BAN』のイントロが流れてきた。原曲とは違うもののライブでは'80年代以外すべて同じイントロで演奏されているのでファンなら『BAN BAN BAN』と認識できるはずだが、心なしか他の客は気付いていない様子。しかし画面に『BAN BAN BAN』と大きく表示された途端、歓喜の声と共に観客は総立ちへ。さすがは1986年のナンバーワンソング。-♭1キーで歌いながら桑田はステージ上部から生還者のようにヨレヨレの格好で降りてきた。間奏に入ると今度は全速力でステージ右側へ走っていき、急遽設営されたほとんど見えない(はずの)ステージサイド席とコミュニケーションを積極的に交わしている桑田がいた。観客はここぞとばかりに桑田を触りまくり…桑田はサルの次郎ちゃんではない。
余韻さめやらぬ中『哀しみのプリズナー』をもっとスカイブルーにしたovertuneから照明もLEDも対流圏へ突入していき、このまま成層圏まで突き抜けてしまってランナーズハイになってしまうのかと思っていたら、突き抜けた先に待っていたのが『いつか何処かで』だった。川端康成『雪国』の書き出しにある「トンネルを抜けると、そこは雪国であった」とまさに同じ感覚。サビでは今までの桑田ソロワークスで使われた宣材写真がLEDに総登場。写真の中の桑田と今ここで歌っている桑田を比べつつ、時間の重さを改めて感じる。思いに耽っていると曲も後半戦に差し掛かり、ラストサビの「♪涙も〜」とワンクッション置く歌い方がトドメを刺すようにグッときてしまった。実はツアー初日(福岡公演)の模様を伝えたスポーツ紙の記事を事前に読んでいて、ほとんどの記事には『ダーリン』や『明日晴れるかな』といった推測容易な曲名が載せられていたのに対し、一紙だけ『いつか何処かで』を記事に載せている新聞があった。それほど強調せねばならぬほど代表的な曲でもないのにどうしてこの曲が記事に載っているのかとかえって邪推してしまったが、カウントダウンの位置にくる曲だったからとわかり一安心。
「どうも〜生まれ故郷の大阪へ帰ってきたよ〜!!」…いつから大阪出身になったのであろうか桑田の偽装トークは本日も舌好調。続く「富田林出身だからね」には会場大爆笑。数ある大阪の地名の中から比較的マイナーな富田林をチョイスする桑田のかわいさに首ったけ。「今日は忘年会楽しんでいい?」…始まる前にパンフレットを少しだけ読んでいて、そのインタビューを読めば今回のライブが大忘年会になろうことは想像が付いた。そう、今日は桑田と関西のサザンファンによるドンチャン騒ぎであり、城ホールは白木屋なのだ!「今年の大阪恐かったね…船場吉兆とか!あと、NOVAとか!」…今や大阪人の仇敵である船場吉兆だが、どうも初日の福岡でも吉兆ネタを連発していたらしく、船場吉兆になぜか食いつきの良い桑田。さらに「昨日の会見でテーブルの下まで頭を下ろして謝ってたよね〜」とライブ前日に行われた謝罪会見までも何気にチェックしていたようだ。「久しぶりの城ホールなんで…みなさん座ってもいいですよ〜」…去年のAAAもそうだったが、50を超えたあたりから桑田はやたらと観客の体力を気遣うようになり、それに応じてかMC中は座りで聞くのがデフォと化していった。「今年51になりまして…」と桑田が言うと会場からは「ウソ〜〜」との声が。この人たちは桑田を一体何歳だと思っていたのだろうか。
そして話はお馴染みのあの話題へ…「最近ね、トイレは座ってやれって言われてるんだけど、やり終わって三歩歩くとチュルって出ちゃうんだよね」と本日も前立腺機能低下による残尿ネタが全開。「前立腺に優しいコンサートを目指しまぁす!今日はよろしく!!」と一通り大漁の笑いをとったところで桑田はギターを持ち出した。「がんばるよ!アマ出身だから!」…さっき富田林って言ったんちゃうんかい!とツッコミを入れたくなったが、もう一つ”アマは大阪ではない”ことを誰か桑田にいい加減進言していただきたい。「今日は長くやるよ〜8時間やっていい?」…おぉぉぉ!と思わず声を上げる私をよそに「じゃあ7時間ぐらいで?」とさり気なく時間を値切る桑田。さあ、ここからがライブの本汁。深呼吸を大きくして次の曲に備えた。
まず始まったのはダンディ・ハウスでお馴染みの『男達の挽歌』。事前のライブ予想ではMC開け一曲目を『男達の挽歌』と予想していたので見事に大正解。Mラバライブで聞いたときから年末のツアーでも絶対にこのポジションで演奏されると確信を持っていた(ちなみにオープニングは『THE COMMON BLUES』だと思っていたのだがカスリともしなかったのが無念)。気負わずラフな感じにプレイできる曲で、LEDも万華鏡のような模様がループしている映像がずっと流されていて、「♪闘魂のRocket」での決めポーズは今回も健在。ラストは二人のコーラスが決めポーズをしながら妖艶に幕を下ろしていき、この曲と二人のコーラスは絶対不可分な関係であることが証明されることに。小島よしおにはもう飽きたのかそんなの関係ねぇ!のフリは残念ながらなし。この曲を聴くとニッポンダンディな桑田の顔と共に少し温かくなってきた2007年のGWを思い出す。
次に鳴り響いてきたのはライブ後半にやるのかとすっかり思い込んでいた『NUMBER WONDA GIRL』。アレンジは原曲に忠実であり、アルバム『ROCK AND ROLL HERO』の曲にはない大人の余裕を背後135度の角度からぶちかましている。ラストサビではスクリーンにWONDAの今までのCM映像が流されていた。このように企業CMがライブ中にストレートに流されるのは桑田ライブの歴史の中でも大変珍しい。私的にはこの曲を聴くと猛暑の中、部屋で扇風機を回しながら鑑賞したNHKの特番ライブのことを思い出す。とにかく蒸し暑いときに聞いた曲だけに、私にとっては真夏のイメージが非常に強い曲だ。
やけに軽快な片山敦夫のキーボードイントロに呼応してLEDでは蚊取り線香のようなマル模様がたくさん出現したと思ったら、『MY LITTLE HOMETOWN』が聞こえてきた。CDではレゲエ色が強かったが、ライブではさらにふにゃふにゃなアレンジに。サビでは昔の海水浴場や浜降祭などの茅ヶ崎の風景が映し出され、ニヤリと微笑む私…実はMラバライブの翌日にこの曲の歌詞にも出てくる茅ヶ崎のレコードショップ『CHIYAMA』へファン仲間と共に集合して、その時に今回のツアーでの演出で「茅ヶ崎の風景と共に演奏されるに違いない!」と断言していたのだ。それだけに予想が当たったときは嬉しかった。間奏時にはコーラス二人によるオーバーアクションと言っても良いくらいの激しい手振りにつられて会場全体も楽しく手をフリフリ。サザンファンにとって茅ヶ崎は特別な感情を抱く街であることを再認識し、茅ヶ崎の香りを全身で感じることも出来て大満足だ。
曲が終わると桑田のミニトークが始まった。「みんな友達になってね。オレとも周りの人ともね」…おっしゃる通りだなと心の中で同意していると、鈴の音が聞こえてきて『MERRY X'MAS IN SUMMER』のイントロが流れてきた。リズム的に前曲と変わらず、私にとってのこの曲はサマーソングなので『MY LITTLE HOMETOWN』からの流れに妙に符合していたのが印象的。この曲になると桑田の腰振りが懐かしのHGを彷彿とさせるくらい激しくなっていた。「そんなの関係ねえ!」もこの曲から解禁。いつにも増してステージを左右へ動きまくっていたが、心なしかステージ右へ行く機会が多かったような…ファンとのコミュニケーションを年々さらに強めていく桑田の姿勢に好感を抱いた。間奏ではラップが登場し「今大阪がすごい!(Yeah!!) 今大阪が熱い!(Yeah!!)」とスクリーンにも大きく表示されていたのだが(ちなみに今回は全曲に歌詞が表示されていた)、当の桑田もその時は動かずに歌詞モニターを凝視。そのラップでは、今大阪が熱い→顔が怖い[師匠]→胸がない[安奈]→剥けてない[桑田]→子どもの頃と変わらない[桑田]、と伝達リレーでまたまた包茎ネタが登場したものの、タイミングはバッチリだったにも関わらずあまり観客にウケていないというオリエンタルラジオ状態に陥ってしまった。それを打開するために天下の宝刀「オッパッピー」を反射的に叫ぶも時すでに遅し。やってしまったムードを引きずりながらラストサビを苦笑いで歌い出す桑田に芸人としての好感度がさらにアップした。このチャレンジ精神を多くのファンはもっともっと学ばねばならない。
今度はまたろうにピンスポが当たり完璧といって良いほどの素晴らしいパーカッションプレイがホール内に鳴り響く。そしてMラバライブで披露されたときと同じようなジャングル調overtuneから急転直下に『スキップ・ビート』のイントロへと繋がっていく流れはまさに絶品。まるでジェットコースターで上から下まで一気に降りていくような爽快な感覚を抱いた。ナイトクラブを彷彿とさせるくらいにバラエティな配色で彩られた照明が、KUWATA BANDの時には出せなかった大人の渋さを皮下に浮かび上がらせて照射する。曲が終わったときに「ありがとよぉ!」と野太く声を出す桑田はもうここにいない。が、51歳の桑田が放つ吐息にも似た歌声はセックスシンボルそのものであり、つくづく桑田佳祐は良い年の取り方をしていると感じてならない。私にとって桑田佳祐は永遠の憧れなのだ。間奏前の「♪I love your guitar〜」の絶叫は今回なく、「♪Woman Say〜」(ラスト2回は「♪Everybody Say〜」)はMラバライブと違って息を潜めながら歌ういつものバージョンに変わっていた。
次に流れてきたのは原曲と違うアレンジにフィックスされた『BLUE』。前回はドラキュラが大挙として押し寄せる幻妖的なアレンジだったが、今回はブラスがピリリと効いたザッツ歌謡曲アレンジに仕上がっている。ただ20年前にミュージックステーションで歌われたようなド歌謡曲な雰囲気とはまた違ったオーラを醸し出しているのが特徴的で、桑田ワールドの深淵さが無限大であることに改めて気付く。あえて原曲と同じアレンジで残された間奏にかえってドキっとしてしまったのもきっと私だけではないだろう。LEDでは一つの画面毎に別々のダンサーが独立して踊り狂っており、これがコンピュータならば確実に処理落ちを起こしているだろうなとなぜか理系的思考を振り翳しながら、映像と歌声と桑田の「三位一体」に酔い痴れていた。
曲が終わってもそのままドラムは続けられ、ここで賛美歌である『O come all ye faithful』が登場することに。サポートメンバー全員が熱唱していて、今にもワールドカップが始まりそうな雰囲気を醸成しつつあったが、曲自体は1分少々で終わってしまい、ろうそくが映し出されたLEDも闇の中へと消えていった。そして鐘の音が鳴り、鈴の音も轟き、次の瞬間に奏でられたのが待ちに待った『白い恋人達』。キレイな雪景色が大きなビジョンを覆い、クリスマスムード満開に染められた城ホールは一気に幻想的な空間へと模様替え。街もこれから本格的なクリスマスシーズンへ突入するだけに、この演出はとても嬉しかった。前回のツアーではロック色の強いナンバーが延々と続いた後にこの曲が演奏されたせいか非常に違和感を感じたが、今回は自然な流れでむしろ月寒を超えたと言っても良いくらいのベストテイクになったのではないかと確信している。ちなみに今年は北海道のウソつき『白い恋人』が何かと話題になったが、この曲とは何の関係もないのであしからず。
次から次へと降り注いだ名曲の数々にウットリとしていると「みんなありがとね〜」と庶民的な桑田の声が聞こえてきて一安心。さあここからは一癖も二癖もある「めんばーしょうかぃ〜〜!!」のコーナーが始まっていく。まず最初に紹介されたのはDrums:河村“カースケ”智康。ひ弱そうな身体から叩き出される絶妙のドラムは毎回実に味を締めており、愛ちんの曲のドラムを担当していることも知ってさらに好感度アップ。次に米米CLUBよりも桑田を選んだらしいPercussion:三沢またろう。どうやら今回も小咄があるそうだ。「昨日なんばで飲んだんっすよ。大阪の女性は美人が多いですねぇ!」…とこの時点で無理やり感が否めなかったが、静かに見守る桑田と観客。「なんばでナンパ…なんちって!なんばワンダーガール!」と言って掲げられたまたろう自作の絵には桑田の顔をしたロン毛の女がひとりポツンと…そして後ろには大阪人ならば知らぬ人がいないほど有名なひっかけ橋横のグリコネオンが描写されていたのだが、「おいしさと健康 glico」と書いてあって然るべき場所になぜか「MEIJI」の五文字が…”Supported by ショコライフ”の権力を感じた瞬間。さてSax:山本拓夫では今回も虫好きのことが軽く話題となり、続くTrumpet:西村浩二ではその巨体を誇示するかのように腹を大きく叩いていた。するとポンという音が鳴ったので、それに対抗して(?)桑田がアレを叩くと今度はチンという音が鳴り響く。苦笑する観客をよそに「(今触ったのは)タマではなくサオ」という丁寧な解説を入れるも余計に微妙な空気となってしまい、次の紹介へと逃げていく桑田だった。
「今回のメンバーに実は30代はいなくて、ひょっとしたらダブルスコアの人も…」と言われオレ?オレ?との空気が流れ、「世界中の音楽を知り尽くした人です!」と賛辞の言葉を捧げられたKeyboads:深町栄ではモノマネ三段ショーが行われた。まずはフランスの俳優:スティーヴン・セガール。元ネタが誰なのかわからなかったために似ているのかそうでないのかの判別が残念ながら付かなかったが、続いてのふかまっちー十八番である高見盛の土俵入りのモノマネは観客にもバカ受けしていた。それで気を良くしたのか今回はもう一段重ねてマレーグマのツヨシくんのモノマネもやり、こちらも人が羨むほどの大爆笑。今回のショーは2勝1敗で勝ち越しに持ち込むことができた。桑田曰く「自分からモノマネやらせろってうるさいんだよ〜」とどうやらネタの仕込みに余念がないらしい。次回ライブのときのパフォーマンスが今から楽しみだ。
さて続いては今日も誘惑ボイスが魅力的なChorus:安奈陽子、そしてお馴染みのChorus:清水美恵師匠。手を挙げるとき、なぜか師匠は脇の下を毎回欠かさず隠している。「先ほどMY LITTLE HOME…いや、MERRY X'MAS IN SUMMERにて、巻き戻し、巻き戻し、先ほどMERRY X'MAS〜」と自分でツッコミを入れる姿に苦笑する桑田をカメラは決して離さなかった。「怖い顔をしてしまい謹んでお詫び申し上げます」と謝罪の言葉を述べると「あの怖い顔やってよ〜天王寺区に住んでたんだろ?」と仕込み色全開で桑田が言葉を投げかける(本当は西成区出身)。するとノってきた師匠は「ボインで髪が長かった頃、声をかけてきた痴漢・変態をギャクタイするためにやる顔」と言って「ギャクタイじゃなくてゲキタイだろ」とまたもすかさずツッコミを入れる桑田。さまぁ〜ず並の速さにツッコミの才能を感じた。「姉ちゃん、ええケツやろぉ」と桑田に問いかけるよう師匠が呼びかけ、「ええケツやのぉ」と桑田が言った瞬間、「なんじゃわれぇ!」といってメンチ切りまくりの師匠の顔が…謎の多い人だ。
芸人並にヒトネタやる人が多い中でBass:角田俊介はミュージシャンらしく芸には走らなかった。角田さんも大阪出身で、画面には藤井寺市出身と表示され、一気に親近感が沸く。続くKeybords:片山敦夫の顔をよく見てみると目の下に何かをつけた変装をしていた。パっと見では一体誰を演じているのかがわからない。実際にモノマネもやっていたが、反応があったのはアリーナ席にいた一人だけ(思いっきり笑っていた)。凍てついた空気を察知した桑田は無視して次へいこうとするが、さすがにこのままスルーするのはまずいということなのか「いいんですか??」と問う斉藤誠にしぶしぶ応じ、誰のマネをしていたのかと片山に尋ねる。すると小声で「ギャル曽根」との答えが………これにはさすがの辛抱強い私もノーコメント。さてラストはカウボーイな帽子とヘッドマイクが今日も格好良いGuitars:斎藤誠。実は宝塚にも住んでいたことがあるそうだ。桑田が「来月にアルバム出ます!」と紹介していた通り、5年半振りのオリジナルアルバムを完成させたばかりの誠さんは桑田の全国ツアー中にもソロライブを数回こなすなどハードスケジュールが続けていた。あと少しで50の大台を迎えるだけに体力面が心配だが、ファンの一人として誠さんには永遠のギターボーイでずっといてほしい。POP ROCK SHOPな爽やかなメンバー紹介だった。
そんな誠から「くわたけいすけ〜!」と紹介され、ライブは後半戦へ。「聞いてください、こんな僕で良かったら」と桑田が発した後にあのセレブなイントロが流れてきて、今年アメックスのCMソングとしても大量オンエアされた『こんな僕で良かったら』が始まる。中央LEDでは赤い緞帳が左右に開けていき、まるでVIP席から舞踏会を眺めているような感覚に苛まれた。”振り向けばヒルズ”と言って良いくらいブランド物が波打つセレブ色全開な一曲なのに、そういったことを一切感じさせない自然体の桑田はさすがの一言。間奏ではコーラスの二人のお姉さんが桑田に腕組みし、「♪真夜中のベッドで踊りましょ〜」なダンスを披露していた。「♪彩か虹を見る〜」でスクリーンにレインボーが出現し、ラストサビ直前では今や桑田の専売特許と化しつつあるドゥーン×3。一番最初にCMがネット公開された日(3月)が雨だったせいか、私の中でのこの曲は雨のイメージがとても強く(土砂降りではなく小雨)、歌っている間は心の中に雨粒が当たるような擬似的な質感をずっと抱いていた。
『SEA SIDE WOMAN BLUES』を思い出してしまいそうなメロディに乗せて、コーラスの二人が「♪Just never to me〜」と畳み掛けていく。そしていつの間にやら始まっていた隠れた名曲『遠い街角』。スクリーンには街ができ、道ができ、子どもが大きくなっていく紙芝居調な手書き映像が織り込まれていた。前回(2001年12月のX'MAS LIVE)プレイされたときのテーマはクリスマス前に別れることになってしまった恋人たちだったが、今回は言うならば友情に包み込まれた思春期の恋情。間奏では鳥が鮮やかに飛んでいき、着地点を求めて終わりなき旅を彷徨い続けていく。断片的なポエジーとメロディだけで情景がスクリーンに刻まれ、豊饒な感情が形成されて愛に舞う…これこそがまさにTOP OF THE POPSの真骨頂。
だが次では先ほどまでの幻想的な雰囲気を切り刻んでいくかのように挑発的なオルガンイントロが鳴り響いていった。西洋とアラブが核融合するかのようにどことなく危険な香りが充満し、紫に染められた神経が鋭敏に交錯していく。そんな中で始まった『地下室のメロディ』は今回のライブで確かに異彩を放っていたものの、ヒット曲祭りの桑田佳祐SHOWとバランス良く調和しているという奇蹟のハーモニーも同時に生み出している。Bメロが始まるとスクリーンには紫煙を漂わせた幻覚が現れ、私の感覚も平行線をズラされたかのように錯綜していった。間奏での桑田による「よっ、タバコ持ってこい」的なブルージーなギターソロは精管をも刺激し、それをすかさず捉えた場内スクリーンのカメラワークに至ってはもはや製品クオリティ。文句なくかっこ良いポップモンスター桑田のもう一つの顔がここにあり。前回ライブのときはカウントダウン曲に抜擢されたせいか世俗的な喧噪に呑み込まれた感がしたので、今回はじっくりとこの曲の持つ魅力に触れることが出来て幸福だ。
妖しげな雰囲気を引き摺りながらとどめの一撃として角田のベースから始まる『東京ジプシー・ローズ』が演奏された。サビではデジタル数字と歌詞がマシンガンのようにワードブレイクしていくLEDと、三台のカメラで桑田を広角から追っていくカメラワークに完全にイってしまい、あまりに格好良すぎて呆然と立ちつくしている私がいた。確かメンバー紹介後は『こんな僕で良かったら』から始まったはずなのに、いつの間にかジプシーな曲へとパラダイムシフトを起こしている桑田マジックにも脱帽。ステージでは炎が絶え間なく噴射され、外は真冬なのにホール内は物理的にも熱感を帯びてきていた。前回ライブでは地味な曲という印象がどうしても拭えなかったのだが、5年の時を経て別人のように生まれ変わったのは特筆に値する。
ハイスピードで駆け抜けたエンジンに冷水を浴びせるかのように今度は『東京』が始まっていく。LEDには雨と共に東京の夜の情景が映し出され、世界観はまさにPVの雰囲気そのもの。が、映し出されたタクシーが揺れながら行き着く先は1000万人の情愛が絡み合った大都会東京の魂の屍……間奏終わりにピストルで撃たれたのかスクリーンが一気に赤く染まり、ピアノ連打の時には暗転して、「♪東京は〜」と歌い出すと東京タワーが映し出されていく演出は鳥肌モノ。「♪父よ母よ〜」の前には雷が落ちてきた。全体的に間違いなく5年前よりも重厚感が増していて、ベストテイクと断じても過言ではないだろう。会場で体感できてファンの一人として絶頂感を抱いた。ただラストの「♪雨よこのまま〜」という畳み掛けの箇所がカットされていたのは誠に残念。曲が終わるとあまりのすごさに興奮を抑えきれず、しばらく意味もなくガッツポーズを連発したものだ。
魅惑的なovertuneが聞こえてきて、『東京ジプシー・ローズ』→『東京』ときたのだから次は東京つながりで『現代東京奇譚』がくるのではないかと勝手に想像を膨らませていたが、聞こえてきたのは今回のライブのハイライトとなる『月』だった。山本拓夫がハーモニカを吹いていたせいか荒っぽいイメージが今回はない。それだけに洗練されていて、この曲の魅力と桑田の声に入り込んでしまった。皮膚呼吸に切り替えたかのように私は直立不動でずっと立ちすくんでいて、ふと隣を見るとネクタイを締めたリーマンらしきおじさんも同じように直立不動で立っていた。なぜにこれほどせつなく、これほど哀しい気持ちになってしまう?一番のサビが終わると同時にでっかく映った月が情感を増幅させ、「♪啼きながら鳥は〜」で本当に飛んでいく鳥に自分を投影する…あらゆる音楽シーンを乗り越えてきた今の桑田だからこそ出せるこの貫禄と観客を圧倒する存在感。幾度となく聞いてきたこの曲なのに、今回は特に震えが止まらなかった。桑田佳祐の魅力がすべて詰まった名曲だ。
一転してスクリーンには浜辺が映し出され、中央LEDには純な青で煌めいた美しい海のパノラマが。すると波の音と共に静かに『風の詩を聴かせて』が聞こえてきた。今年の夏に発売された曲だけに、この曲を聴くといろんな風景と共に2007年の夏が思い出されていく。Mラバライブにて海の香りを感じながら聴いたこの曲、至近距離の桑田を見ながら半蔵門で聴いたこの曲、そして何と言っても映画『Life 天国で君に逢えたら』…今では映画の内容のみならず、鑑賞したシチュエーションまでをも思い出してしまうほどになったぐらいだ。伊東美咲の「夏樹!」という掛け声に笑みを浮かべる大沢たかおの姿も忘れられない。そんな思い出に浸っているとラストサビから飯島夏樹さんの姿がステージ中央に映し出されてきた。そこで私は思った。この曲は夏に聴くサマーソングではなく、夏が終わって静寂を取り戻した海で夏の思い出を回想するために聴く曲なのではないだろうか、と。毎年同じように夏は巡ってくるが、西暦というロットナンバーを冠された夏は二度と戻ってこない。そんな一度きりの夏の思い出を解凍するのがこの曲の役目であり、過ぎ去りし夏はこの曲を介して息吹を取り戻す。曲が終わった後に三方向へ丁寧におじぎをする桑田がとても印象的だった。『風の詩を聴かせて』がある限り、僕たちの夏は終わらない。
そして今年を代表する名曲『明日晴れるかな』が始まったとき、私は自然と溢れゆく涙を抑えることができなかった。今やこの曲は桑田ソロで三本の指に入るほどのフェイバリットソングとなったが、この曲を聴くと1年半のブランクを経て大学へカムバックした頃の自分を思い出す。つまり2007年4月のことだ。エイプリルフールに突如として現れた桑田サルに散々振り回された挙げ句、やっと流れてきた新曲のサビは一気に私の心を鷲づかみにし、それからはずっとこの曲と共に春〜夏を過ごしてきた。あまりに久しぶりな下宿生活に様々な不安が襲い、現実の厳しさから生じる戸惑いと葛藤し、身も心も押し潰されそうになった時も『明日晴れるかな』は私のそばにいた。あの頃に抱いた複雑な感情は、12月にもなるとすっかり忘れてしまっていたが、ライブで改めてこの曲を聴くと一気に当時の思いがフラッシュバックしてきてしまい…よくがんばったぞ自分!負けずに挑み続けたからこそ道が開けてきたじゃないか!と思うと涙が止まらなくなってしまった。曲が終わるまでずっとずっと泣いていた。LEDにはフォトフレームの中に優しい風景が描かれ、桑田の屈託のない笑顔がスクリーンに映し出される。最後の「♪明日晴れるかな〜」は精一杯の感謝の気持ちを込めて桑田に聞こえるよう叫んだ。明日…晴れるんだよ、大丈夫。
センチな気分となってしまったが、次はいよいよ真打ち『ダーリン』の登場だ。ここから私のトゥインクルバッジもスイッチオン。会場を見渡すとたくさんのトゥインクルバッジの点滅で埋め尽くされていて、その風景はまさに幻想的でもあった。今年三部作を締め括る名曲で、耳にたこができるほど聴いてきたベース音が鳴り響くと、待ってましたとばかりに会場に精神的ウェーブが起こっていく。私的には今月聴きすぎたせいか年末のイメージが大脳の奥深くに刷り込まれ、この曲を聴くと一生2007年12月を思い出してしまいそうだ。スクリーンには船が映り(船名には大きく「ダーリン」と書かれていた)、ここにきても桑田のパフォーマンスは衰えを知らぬほどの絶好調振り。間奏のドゥーン×4も完璧に決まり、いつしか私の顔には笑顔が戻っていた。
笑顔で全身が満たされたところで、続いては悲しい曲のはずなのに盛り上がり度Maxな『悲しい気持ち』がステブレなしに奏でられていく。『さのさのさ』の時はあまり楽しくなさそうに縦横無尽に動き回っていたが、あれから13年を経た今回のライブでは楽しそうにはしゃぐ桑田を見て私も嬉しくなってきた。初期の頃はそれほど会場が一体となる曲ではなかったはずなのに、今ではライブで欠かすことが出来ないほどこの曲は存在感を増している。「♪いついつまでも君は〜」で聞こえないぐらいに声を潜め、「♪My sweet babe〜」で爆発させる歌い方は今回も健在。この曲で会場の盛り上がりはピークに達し、サビでの独特の手振りもほとんどの人がやっていた。「悲しい気持ち」どころか「楽しい気持ち」になっていた自分を再認識。
次もステブレなしに『波乗りジョニー』のイントロが聞こえてきて、その瞬間会場はこの日一番のスペシャルな歓声に包まれた。そうなのだ、みんなが波乗りジョニーを待っていたのだ。今回の桑田はファンとのコミュニケーションを最重視していて、近年のアリーナ級ライブでは考えられないぐらいにATSが作動するほどファンと接近していた。こればかりは私も本当に羨ましく思ったものだ。映像にはサーフィンが映し出され、曲が持つ青い雰囲気をさらに盛り上げるのに一役買っていた。ラストサビ前にはまた股間にマイクを当てていて、最後の最後は欽ちゃん走りでステージへ戻っていくお茶目な桑田……大人になった今、この曲を聴くと逆に恥ずかしくなってしまう時も実はあり、年々この曲との距離感が出来てしまう自分が哀しくもある。もちろん誰もが大人になり、やがて老いていくことは自然の摂理として避けられないことなのだが、『波乗りジョニー』の世界観だけはいつまでも離したくない。18歳の時にこの曲を聴いてメガトン級の衝撃を受けた”青春の瞬間”を凍結保存しておきたいのだ。
そんな淡き思いも次の曲に関しては全く逆で、年を重ねる毎に距離感が近くなってくる。そして歌詞の意味もリアルな波と共に胸へ押し寄せてくる。その曲こそが『真夜中のダンディー』だ。カースケのドラムから始まったのだが、そのリズムが『祭りのあと』と似ていて、これでライブが終わってしまうのかと一瞬嘆いてしまった自分がいた。Aメロでの「♪色気の・の・の・中で〜」といったリフレインする歌い方や「♪夢と希望の〜」からの音程外しバージョンなど全体的にMラバライブと重なるところが多かったのだが、何気に2番が完全カットされていたことにマニアとしては着目しておきたい。なぜならばフルコーラスが原則の桑田ライブにおいて途中カットは極めて珍しいことだからだ。間奏では桑田の後ろにコーラスの二人などがジェンカのようにタッグを組みながら斉藤誠を追い詰めていき…この曲を聴いているとつくづく自分の人生は桑田の曲と共に歩んできたのだな、と痛感する。そんな存在のアーティストがいるなんてどれだけ素敵なことなのだろう。ありがとう、よっ、桑田佳祐。
『真夜中のダンディー』で自分という存在を自省した後は、社会を憂いてみようということなのか次にプレイされた本編ラストの『ROCK AND ROLL HERO』はいつになく説得力を増していた。5年前に書かれた歌詞のはずなのに鮮度が全く落ちていないというのが驚異ですらある。Bメロ独特の躍動感からサビでの重低音が心臓に突き刺す一体感までこの曲はあらゆる意味ですでに完成された曲であると言えるだろう。スクリーンには最初こそ日の丸と星条旗のルーレットが回されていたが、以降に政治的な描写は出てこない。また迷彩服を着たギタリストが途中からステージに紛れ込んできたのだがこの人は一体誰だったのだろう?モニターを離れた途端に歌詞が途切れ途切れとなってしまう桑田もライブならではの醍醐味。ラストは全員の息のあったタイミングできちんと締めることができ、メンバーはステージ裏へと一目散に退散していった。
…アンコールまでの束の間の休憩時間は倒れ込むように座り、ひたすら水分補給をしていた。ライブ中はまさに夢を見ているような錯覚を常時抱いていて、あれだけ体調不良だったのにも関わらずライブ中にしんどいと感じたことは一度もなかった。が、急に現実に戻るとユンケル切れを起こしていた自分に気付く。だけども桑田からたくさんのエネルギーをいただいて、すでに体内でATPとして合成されたため興奮が止まらずに、疲れ果てた身体から桑田を渇望していた。そして意気揚々と拍手を繰り返している自分もいた。再登場を待ちに待っていたところ、照明がパッと明るくなり、桑田やメンバーが元気いっぱいにステージへ戻って来たときにはすでに私は元気良くその場に突っ立っていた。さあ、これからアンコールが始まる。
終盤はヒット曲オンパレードだった本編を終え、一体何の曲をやるのだろうかと思っていたら、いきなりAAA'06の『Up On Cripple Creek』のようなリズムが聞こえてきて、画面には『漫画ドリーム07』との表示が出てきた。ん?漫画ドリーム??あまりに原曲とアレンジが違っていて、なおかつ一瞬記憶から外されていたせいもあってか、この曲のデータを脳内ダウンロードするのに多少のタイムラグが起きてしまった。そう、『孤独の太陽』の一曲目だ。13年振りに日の目を浴びたこの曲はブルージーなアレンジに変貌を遂げており、「♪みんな無茶なノリで〜」の一番こそ同じ歌詞なものの、二番以降は最近のニュースを牛耳った社会風刺に歌詞が変えられていた。スクリーンではワープロ調に縦書きで歌詞が表示され、その無機質さから怒りの根深さが汲めてしまう。二大政党制、年金問題、防衛省不祥事などの歌詞が桑田から発せられたが、中でも一番盛り上がったのが大阪府知事選。「♪中川、ノック、太田〜」と歌っていて、ノックと太田はわかるにせよ、中川が誰なのかが自分にはわからなかった…(中川=ノックの前の知事のこと)。「♪Ma Ma Ma 漫画ドリーム〜」の時に必ず桑田を捉えるカメラもずっと見てるとクセになる。間奏ではまこと→たくお→こうじ→ふかまっちー→あつおとミニソロがリレーされていった。「♪週に十日はボケた日本〜」の原曲通りの歌詞が哀しくてやりきれなくて…日本丸はこれからどこへ向かおうとしているのだろう?
次に『ONE DAY』という文字を視認した瞬間、私は思わず目を疑ってしまった。確かこの曲は桑田が嫌いと公言している数少ない曲で、KUWATA BAND解散以降は存在諸共封印されてきたことが公然の事実であったからだ。なので実に約21年振りの演奏ということになり、ここでも思わずガッツポーズをしていた私。あまりに久しぶりに演奏されるせいかかえって新鮮にも感じた。KUWATA BAND唯一のDVD『ONE DAY』では最後にこの曲がBGMとして流れるが、マイナーコードで曲が終わることもあってか楽しかったライブのはずなのに心が地中の奥深くへ沈殿してしまう。それは今回でも同じだ。無機質な映像が続くLEDが'80年代の画質を想起させ、シンプルな曲なのに思索に耽なければならぬほど意味深な世界観が拡がっていた。
気分はガラリと変わり、今度はファン人気の非常に高い『可愛いミーナ』が登場。最初はアコースティックオンリーに演奏され、この曲が持つふんわりとした優しい魅力を再発見した後は、二番からの骨太のバンドサウンドが鼓動を鷲掴みにしていく。「♪薔薇の花束を〜」で大きく表示されたバラもすごくキレイだった。Cメロ直前には画面に大きく「みなさんご一緒に!」との文字が出て、「♪タバコの煙が〜」からはみんなで大合唱。特に「♪サヨナラしたのは〜」から演奏はドラムだけとなり、5年前のツアーでは諸般の事情により断念してしまったアカペラがここにきてついに復活の運びに。ノリノリだった大阪城ホールの観客は特に何の指示も受けずに自然と手を横振りしていたのだが、これは予想外の反応だったらしく何回もマイク越しに『ありがとね』という桑田がとても印象的だった。個人的にはワールドカップに燃えた19歳の夏を思い出す大切な一曲。
ミーナと逢瀬を楽しんでいるといつの間にやらノーステブレで『祭りのあと』が始まっていた。このイントロを聴くと「ああ、ライブも終わりなんだな」としんみりしてしまうのは私だけではないはずだ。ラストのサビでは「♪大阪への慕情〜」と大阪へのファンサービスも忘れないきめ細やかさも桑田らしい。が、大トリ曲なのに今回は出だしを思いっきりミスっていた。ここまで27曲ずっと聴いてきて桑田の熱唱を余すことなく五感で受け止めていると、どうして桑田がこれほどまでに長い期間支持され続けているのかがよくわかる。桑田佳祐は「桑田佳祐」という一つの音楽ジャンルをすでに確立しているのだ。最後は10回ジャンプをして夢のような祭りは終結していった。大阪ドームと違って何の躊躇もなく飛び跳ねることが出来るのは嬉しい。
すべての曲が終わり、桑田によるメンバー紹介が始まると全員がステージ真ん中へと集結した。栄養過多になるくらいお腹いっぱいの2時間40分。歌はもちろんのこと、映像や演出もファンのことをとても考えてくださっていることが骨の髄までよくわかり、大満足のライブだった。私の笑顔が途切れることもライブ中一度もなかった。最後にメンバー全員がバンザイをしてBGMに『ダーリン』が流れ始めると楽しかった夢もこれで終わりかと現実を見つめ直して寂しくなってきた自分。すると桑田が一人だけステージに残り、「大阪・関西地区のみなさま、今年ももうすぐ終わりと言うことで、万歳三唱しましょう!バンザーイ!×3」と最後の締めをしてくださった。そして最後の最後に桑田が観客へ投げかけたメッセージが「死ぬなよ!!!」。そうだ!死んでたまるか!!まだまだ桑田のライブを楽しまないといけないのだ!!…こうして”夢”は”幻”と化していった。
魔法の効力が切れてしまったのか半分ヨレヨレになりながらも私は大阪城ホールを後にした。大人数を収容している割にはそれほど混雑が醜くないのが大阪城ホールの魅力的なポイントの一つであり、入り口近くで配られていたWONDA(モーニングショット+圧力仕立てブラック)も無事にGetすることができた。噴水前で少し休憩していると、何のアポも取っていないのに知っている人とたくさんお会いできるのもライブならでは……今回のライブはTOP OF THE POPSのエッセンスをこれでもかというほどふんだんに盛り込んだライブであり、桑田佳祐のあらゆる魅力が詰め込まれた”素晴らしい”の一言に尽きるライブだった。今まで見たライブの中でも限りなくベストオブベストに近く、翌日もライブへ行きたい衝動にずっと駆られたほどだ。
なぜ私たちは決して安くないお金を払ってまでもライブ会場へ足を運ぶのだろうか。それはライブは「感じる」ものであることを無意識の内に実感しているからである。ブルーレイディスクなどの記憶メディアがどれだけ発達したとしても、会場で得ることのできる興奮を完全に代替することはできない。周囲の熱狂、会場の熱気、全身くまなく浴びせられる音楽の洪水…それらが複合し化学反応を起こすことによって、曲が持つ魅力は無限大へと昇華していき、曲を構成するDNAのシークエンシングが初めて可能となる。今回のライブで”桑田佳祐”という存在にさらに触れることができ、私は幸福だ。この場を借りて素晴らしいステージを披露してくださった桑田佳祐,そしてサポートメンバーの皆様に”胸いっぱいの”感謝の意を表したい。ありがとう。