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ISBN 978-4-00-331193-6代表的日本人
内村 鑑三/著  鈴木 範久/訳
岩波書店 1995-07-17
[岩波文庫 青119-3]

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『もうニュースは見たくない---!!!!!』
そう思ってしまうほどモラルの低い事件が後を絶たない。
政治に目を向けると憤りたくなるほどの政策が平然と国会をまかり通って、
今日もどこかで政治屋に愚弄された国民が辛酸を舐めている。

日本はこんな国だったのだろうか。
いや、違う。もっと素敵な国であったはずだ。
相手を思い、自らを律し、皆のために真面目に働く...
そんな誇り高き日本人の姿は一体どこへいってしまったのだろう。
今の時代だからこそ先人の智慧を借りて次の世代へ生かしたい--

本書は和の「魂」を抱き続けた古き良き日本人5人の伝記をオムニバス形式でまとめたものだ。
登場する日本人は西郷隆盛、上杉鷹山、二宮尊徳、中江藤樹、日蓮上人で、
日本人の作者ながら原文は英文で書かれており、刊行当時は日本だけでなく世界各地で読まれた。

この本、実に様々な角度から考察することができる。
キリスト教、明治時代における日本人のアイデンティティ、
封建制度と民主制、内村の愛国心、道徳と倫理...
先に断っておくが私は学者ではないので飽くまでも主観的な感想を述べるに留めておきたい。

私自身が読んでいて一番印象に残ったのは"農民聖者"二宮尊徳の物語だ。
世間には二宮金次郎という名で知られており、
本を読んでいるあの銅像は誰しもが一度は目にしたことがあるだろう。

貧しい農村で生まれて、本一つ読むにも苦労した少年時代。
読書をしていたら「学問は役に立たない。灯油の無駄遣いはやめろ」と伯父に叱責されたこともあった。
それでも尊徳は何とかして自力でアブラを買い、ひたすら読書に勤しんだという。

やがて尊徳の誠実さと勤勉さは村民の間で評判になり、
数々の政策においてリーダーシップを任されるようになった。つまり権力を得たわけだ。

権力というのは持てば持つほど腐敗するものであることは永遠の摂理であるはずなのだが尊徳は違った。
どうしてそこまで謙虚に無欲になれるのか?と現代人から見れば疑念に駆られてしまうほど、
己に対して絶え間なく厳しく律し続け、ひたすら至誠であり続けた。

"根っこ掘り"という卑しい仕事を人よりも遅いペースで一生懸命にやるおじいさんに尊徳はこの上なく感激し、
他の誰よりも破格の賃金を与えてやっておじいさんが涙で袖を濡らすエピソードは
現代社会において忘れられている「小さな徳」「真面目」を尊ぶ精神を私たちに想起させてくれる。

尊徳は真面目・勤勉・誠実の3つのファクターだけで、
荒れ狂った村を富と栄光に満ちた村へ見違えるくらいに変えてみせた。
(もちろん書物から蓄えた知性もそれなりにあったとは思うが)
この3つが重なってこそ平和と発展が初めて望まれるのであり、
本書は現代人が忘れてしまった"大切な何か"を切実に伝えてくれる。

ゴールデンウィークに手にとって読んで欲しい一冊。

ISBN 978-4-16-660457-9ヴェネーツィアと芸術家たち
山下 史路
文藝春秋 2005-08-20
[文春新書 457]

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イタリアの北東部にヴェネーツィアという水の都がある。
今でこそイタリアの一地域に過ぎないが、
かつてはヴェネーツィア共和国として地中海に君臨していた。
(シェイクスピアの『ヴェニスの商人』は共和国最盛期に描かれた作品)

水上都市だけあって街には車が一台も通っておらず、
小さな島と島の間には無数の細い運河が流れており、
"華麗なる一族"の匂いが漂う建物もあちこちに建立されている。

別に現在進行形の何かがあるわけではない。
悪く言えばいつまでも過去の栄光に縋る時代遅れの退廃的な街だ。

しかしこの街が持つ美しさはたくさんの人々を魅了し続けてきた。
中でも芸術家にはこの街に完膚無きまで魅せられた人が多く、
この街の存在が彼らの人生や作品に多大なる影響を及ぼしてきたことは言うまでもない。

本書は世界的に著名な8人の芸術家たちの足跡を辿り、
芸術家たちとヴェネーツィアの関係を当時の時代背景と共に再検証し、
この街が持つ魅力を改めて考えてみようという意欲作だ。

ひとえに"芸術家"といっても人生のカタチは人それぞれである。
イタリアの画家:ティツィアーノのように順風満帆すぎる人生を送った者もいれば、
ドイツの文豪であるゲーテのように波乱に満ちた女性遍歴を重ねた者もいる。

音楽の天才:ワーグナーに至っては人格が完全に崩壊しており、
死ぬまで周囲に迷惑をかけ続けた"偉人"であったことを私は本書で初めて知った。
「8人の芸術家達の知られざる伝記集」としても本書は充分におもしろい。

この8人がどのようにヴェネーツィアを愛したかはぜひ読んで確かめていただきたいが、
私だって本書で非日常空間であるヴェネーツィアに大きな憧憬を抱いたものだ。
自分の存在を切りつめて創作に勤しむ芸術家たちがこの水都に惹かれるのも
考えてみれば至極当たり前のことなのかもしれない。

他のヨーロッパ諸国と違ってイタリアは底抜けに開放的な風土が遺伝子レベルで根付いている。
イタリアは"ナンパの国"と揶揄されることもあるように
自由で開放的で快楽志向を持つ美的感覚に優れた国だ。
日本とイタリアを幾度となく往復し続ける著者はこの街に住む人についてこう評している。

「また、いつまであるかないか分からないような未来を計画することより、
 今という瞬間を非常に大切にする人種のようである。
 生き切ることがとても得意な人々に見える。
 ヴァカンツァを大切にし、一回しかない人生を思う存分謳歌するのも、
 その表われではないか。」 (p148)

人生は楽しんでナンボ。笑ってナンボ。思い出を作ってナンボ。
今宵はピザでも食べながら水都ヴェネーツィアに思いを馳せてみるのはいかがだろう。

2008年4月

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