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ISBN 978-4-344-40892-0夜逃げ屋
羽鳥 翔
幻冬舎 2006-12-10
[幻冬舎アウトロー文庫 O-81-1 ]

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人生山あり谷あり。何が起こるかわからないからこそ人生はおもしろくて時に残酷だ。
しかしどうしようもない苦境に陥ってしまったとき、あなたならどんな行動をとるだろうか。

たいていの人は家族・友人・行政などの連携プレーで危機に対処していくだろう。というか普通はそれしかない。
だが世の中にはいろいろな考え方があるというもので、
自主的に徳政令を発令して雲隠れしてしまうやり方も決してないではない。

そう、それこそが「夜逃げ」である。

連帯保証で膨大な借金が嵩んでまともな日常生活が送れなくなってしまったり、
男女関係のもつれで今にもストーカーが襲ってくるような境遇に身を置いてしまったり、
ヤクザ絡みで自分の命が危険に瀕したとき、まさにこの世は生き地獄と化す。
どんなにがんばって生きようとも地獄ならば、いっそのこと逃げたほうが幸福を掴めるのではないか。
今までのすべてを捨てて、第二の人生を着実に歩みたい---

本書は理由あって夜逃げに手を染めた人たちの"夜逃げ劇"を描いたノンフィクションだ。
著者は引越業を営んでいて、副業的に夜逃げのアシストをしているのだけれども、
実際にあった話を元に構成されたノンフィクションだけに描写が実にリアルなのが印象的だ。

夜逃げというとものすごくマイナスなイメージが付きまとう。
ただ単に逃げるだけならまだしも、草木も眠る丑三つ時に人知れず逃走するなんて
世間様に顔を出せないくらいの余程やばい事情があるに違いない。

実際に本書を読んでみるとまさしくその通りで、真っ当な夜逃げ依頼はもちろんない。
そうなると引っ越し業者のほうもいろいろと神経を尖らせてしまう。
ただ単に深夜に物を運ぶだけでは危険な外部要因が多すぎて夜逃げが成立しないのだ。
時には法すれすれの離れ業を駆使してでも、まずは依頼者の安全を守らねばならない。

それだけに実際の夜逃げはまさにVシネマのような派手な世界だ。
尽くした男が実はヤクザで今も四六時中見張られている女の夜逃げ劇が本書に出てくるのだが、
依頼者の女を化粧品会社社長に仕立てて壮大などっきりカメラのように何日にも渡りシナリオが練られ、
ベンツの猛追をかわしながら夜逃げを決行するその様子はスリリングそのものだ。

「逃げることが決していいことだとは思わない。
 だが、それが彼らの再出発になるならば、私は喜んでそのお手伝いをしたい」 (p178)

夜逃げの経験者でもあり夜逃げ屋の社長でもある著者は夜逃げについて本書でこう語っている。
夜逃げしたからといって必ずしも人生バラ色になるとは限らない。
むしろ夜逃げしたことによってさらに傷口を深める結果になることだってあるだろう。
ただ、再スタートのヒントになるのでは...幸福になって欲しいと願う著者の眼差しが人間的で、
夜逃げにもこんな人生ロマンがあるのだということを改めて思い知らされた。

今日も街のどこかで人知れず夜逃げが行われている。
夜逃げのマテリアルワールドへ足を踏み入れたいあなたへこの本を贈りたい。

ISBN 978-4-16-771725-4僕らが働く理由、働かない理由、働けない理由
稲泉 連
文藝春秋 2007-03-10
[文春文庫 い-65-1]

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10代の頃、好奇心の趣くままに一人で東京へ行って、
意味もなく平日朝ラッシュの品川駅で突っ立っていたことがあった。

そこで私は非常に不気味な光景を目にする。
みんな同じスーツを着てまるで軍隊のように出口に向かって一直線に整列行進しているのだ。
誰一人として喋らず、誰一人として笑っておらず、皆が皆不機嫌に顔を歪めて、
寸分の狂いもなく足並みを揃えて改札の外へと出ていくのである。

一日の始まりである爽やかな朝からなんでそんなにみんな不機嫌なのか。
ちょっとは笑顔の人がいたっていいじゃない。余裕があったっていいじゃない。
そんなに社会という場所は恐ろしいところなのか?
異境の地で抱いた暗雲たる気持ちを私はあの時どうしても払拭することができなかった。

もう30分ぐらいはあの場所にいただろうか。人が減る気配は一向にしない。
人々の齷齪とした波が数分おきに私のアイデンティティまでをも呑み込んでゆく。

しかし没個性な彼らも決して「石ころ」ではない。一人一人に一つ一つのドラマがある。
多くの人々に知られることはないけれども、そこには確かな"物語"がある。
映画にまではならないにしても、"物語"の数々にはその人が歩んできた人生ロマンが凝縮されている。

本書は「社会」や「働くこと」に何かしらの不安や不満を抱きながらも
混沌とした社会を懸命に生きようとする若者8人にスポットを当て、その深層心理に迫ったドキュメンタリーだ。
著者は執筆当時21歳の大学生で、これから社会へ出ることに対して自らの心は迷いに満ちていた。
実はそんな著者自身の不安感を慰撫する意味でも本書は執筆されていて、
タイトルが「彼ら」ではなく著者含めての「僕ら」となっているのがこの本の特性を何よりも象徴している。

すでに働いている若者、ある理由から働かないという選択肢をした若者、
自分の殻を破ることが怖くていつまで経っても働けない若者...
青さが残る等身大の若者たちの社会と向き合う姿がとにかく眩しい。

「素直に従うことが、言い換えればルールに従順であることが、
 社会に適応するということであるのなら、はたして自分は何なのだろうか?
 それならば、それに逆らってしまう自分は頭がおかしいのだろうか?」 (p130)

「楽しいとも思わない場所にい続け、したくもないことを我慢して続けることこそ、
 逃げることになるのではないだろうか」 (p264)

少しぐらいはズルをする、それが大人の証明。
社会なんて適当に適当を上塗りした道化師のようなものだ、それが大人の真実。
...こんな大人達がいつの間にか大勢を占めて社会が澱んでいることには間違いない。
しかし別に本書は政治色が強いシュプレヒコールをあげているわけでもなければ、
社会に対しての恨み辛みや不満を単純に書き殴っているわけでもない。

「社会に適応できないとは一体どういうことなのか。彼らとそうでない人との違いは何なんだ。」
という答えられそうで答えられない現代特有の難問をダイレクトに読者へ提起しているのである。

「それが社会ってもんなんだよ」と偉い人が一喝して講釈すればそれで話は終わりなのかもしれない。
しかし"社会不適応"な若者はそんな割り切りだけでは無視できないほどに深刻な数となっている。
今の若者がどんなキモチで社会と向き合っているか--
ブログやSNSでは絶対に顕わにならない心の叫びが蕭やかなようで刺々しい。

就職活動を始める人も終わった人もぜひ一度は読んでおきたい一冊。

2008年4月

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