![]() | 夜逃げ屋 羽鳥 翔 幻冬舎 2006-12-10 [幻冬舎アウトロー文庫 O-81-1 ] by G-Tools |
人生山あり谷あり。何が起こるかわからないからこそ人生はおもしろくて時に残酷だ。
しかしどうしようもない苦境に陥ってしまったとき、あなたならどんな行動をとるだろうか。
たいていの人は家族・友人・行政などの連携プレーで危機に対処していくだろう。というか普通はそれしかない。
だが世の中にはいろいろな考え方があるというもので、
自主的に徳政令を発令して雲隠れしてしまうやり方も決してないではない。
そう、それこそが「夜逃げ」である。
連帯保証で膨大な借金が嵩んでまともな日常生活が送れなくなってしまったり、
男女関係のもつれで今にもストーカーが襲ってくるような境遇に身を置いてしまったり、
ヤクザ絡みで自分の命が危険に瀕したとき、まさにこの世は生き地獄と化す。
どんなにがんばって生きようとも地獄ならば、いっそのこと逃げたほうが幸福を掴めるのではないか。
今までのすべてを捨てて、第二の人生を着実に歩みたい---
本書は理由あって夜逃げに手を染めた人たちの"夜逃げ劇"を描いたノンフィクションだ。
著者は引越業を営んでいて、副業的に夜逃げのアシストをしているのだけれども、
実際にあった話を元に構成されたノンフィクションだけに描写が実にリアルなのが印象的だ。
夜逃げというとものすごくマイナスなイメージが付きまとう。
ただ単に逃げるだけならまだしも、草木も眠る丑三つ時に人知れず逃走するなんて
世間様に顔を出せないくらいの余程やばい事情があるに違いない。
実際に本書を読んでみるとまさしくその通りで、真っ当な夜逃げ依頼はもちろんない。
そうなると引っ越し業者のほうもいろいろと神経を尖らせてしまう。
ただ単に深夜に物を運ぶだけでは危険な外部要因が多すぎて夜逃げが成立しないのだ。
時には法すれすれの離れ業を駆使してでも、まずは依頼者の安全を守らねばならない。
それだけに実際の夜逃げはまさにVシネマのような派手な世界だ。
尽くした男が実はヤクザで今も四六時中見張られている女の夜逃げ劇が本書に出てくるのだが、
依頼者の女を化粧品会社社長に仕立てて壮大などっきりカメラのように何日にも渡りシナリオが練られ、
ベンツの猛追をかわしながら夜逃げを決行するその様子はスリリングそのものだ。
「逃げることが決していいことだとは思わない。
だが、それが彼らの再出発になるならば、私は喜んでそのお手伝いをしたい」 (p178)
夜逃げの経験者でもあり夜逃げ屋の社長でもある著者は夜逃げについて本書でこう語っている。
夜逃げしたからといって必ずしも人生バラ色になるとは限らない。
むしろ夜逃げしたことによってさらに傷口を深める結果になることだってあるだろう。
ただ、再スタートのヒントになるのでは...幸福になって欲しいと願う著者の眼差しが人間的で、
夜逃げにもこんな人生ロマンがあるのだということを改めて思い知らされた。
今日も街のどこかで人知れず夜逃げが行われている。
夜逃げのマテリアルワールドへ足を踏み入れたいあなたへこの本を贈りたい。



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