![]() | 官能小説の奥義 永田 守弘 集英社 2007-09-19 [集英社新書 410F] by G-Tools |
AKEINS THE WATERSのジャンル分けでは「小説」と一括りにされているが
現代文学には当ブログがメインに扱っている純文学以外にも様々な形態の「小説」が存在する。
中でも「官能小説」は文学界の異端児そのものであり、
独特の地位を築き上げて数多くのファン(というよりも下半身)を魅了し続けているものの、
根強い偏見からか文壇では冷遇されているのが実情だ。
本書はそんな官能小説の知られざる世界を紐解くためのガイドブックであり、
一万冊を読み込んだ官能小説評論の第一人者が魅力の源泉を辿っている。
そこには豊饒な日本語と淫猥な世界観が織り成す“完成された芸術”があった。
故に官能小説を単なるエロ小説として切り捨てるのはあまりにももったいないことであるし、
それは同時に人生における大きな喪失と断じても良いだろう。
さてそもそも官能小説とは一体どういった小説のことを指すのだろうか。
著者は本書で以下のように定義している。
「読者の性欲を刺激し、オナニーさせる小説であり、
さらに重要なのは、人が心の底に持っている淫心をかきたて、
燃え上がらせるための小説」 (p11-12)
ただ単に性描写がオムニバスに羅列されているだけでは読者の性欲を完全に満たすことはできない。
淫心をかきたてるストーリー性があるからこそ人々は物語に没入できるわけであり、
ストーリーに織り込まれたフェティシズムと読者の嗜好がぴったりとフィットしたとき、性感は絶頂を極める。
つまり官能小説とはアダルトビデオのような即物的な作品とは本質的に異なるものなのだ。
性愛の持つ悲哀さが人間性の深部に浸透していく描写こそ官能小説の核といえるのである。
ここでポイントとなってくるのはセックスシーンをいかにして描くかだ。
「男性器を女性器に挿入するという、単純な行為を、
いかに濃密に、いかに淫靡に、いやらしく描くかが、作家によって競われる」 (p74)
これが欧米ならば 「Oh,yes. woo,yeah. Come on,yeah. Oh,yes. Oh,yes・・・」
などの野獣のような叫びが延々と続いて、表現の奥行きにも構造上の限界を認めざるを得ない。
しかし日本語のエロ表現は世界の言語の中でも最先端を突き進んでおり、
長年にわたって官能小説家たちは様々な表現を苦心しながらも作り上げてきた。
本書ではその表現がタイプ別、シーン別に細かく分類されていて非常におもしろい。
例えば女性器一つとっても「植物派」「魚介派」「動物派」…に分けられ、
挿入音や射精音にも専属の言葉があるというのだから驚きだ。
(ちなみに純文学では禁じ手となっているオノマトペは官能小説ではむしろ多用される傾向にある)
「肉棒が牝壺へずりゅずりゅと貫通して、充血しきった竿はヒクンッと痙攣していた」
・・・この文章を視覚的に眺めているだけでも充分にエクスタシーが脳を突き抜ける。
日本語とはなんて素晴らしい言語なのだろう。
さらに官能小説ではセックスの形態も実にバラエティに富んでいる。
読者の多種多様なニーズに応えるため、時にはSM、時には陵辱、時には近親相姦と
日常生活ではタブー視されるアブノーマルなセックスが頻繁に登場するが、
幸か不幸か妄想の範囲内ならば犯罪に問われることは決してない。
しかしあまりに過激に暴走し過ぎると今度は読者側が一歩引いてしまって、
単なる不快な小説に朽ちてしまう危険性も出てくるので、官能小説家はそのバランスに日々腐心している。
その他にも乳房から太腿、腋窩に至るまでのフェチ別にまとめられた表現体系や、
官能小説における登場人物のパターンとキャラの傾向、
そして最後にはご丁寧にも「官能小説の書き方十か条」まで収載されているので、
この本を読み終えた後は書店の官能小説コーナーへ走るしかない。
日本の文学の始まりである『源氏物語』だってそもそもエッチな小説だった。
日本語とは切っても切れないエロい世界をあなたも覗いてみませんか。
電車の中で読んではいけない一冊。



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