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ISBN 978-4-00-430815-7遺伝子とゲノム-何が見えてくるか-
松原 謙一
岩波書店 2002-11-20
[岩波新書 新赤版815]

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京都大学の山中伸弥教授率いる研究グループが
iPS細胞(人工多能性幹細胞)の培養に成功したというニュースは世界中に衝撃を与えた。

今まで再生医療の分野ではES細胞を用いた研究が幅広く行われてきたが、
材料としてヒトの受精卵が必要なだけに倫理的な問題が生じたことや、
韓国の学者が発表した論文に捏造が発覚したりしたことなどから
思うように研究を進めることが困難になってしまっていた。

そこに倫理的な問題をクリアした夢のようなiPS細胞が登場することにより、
一気に実用化への機運が高まり、人類は更なるステージへと一歩踏み出すことになる。
今までは臓器移植をするしか救命する手立てがなかった重篤な疾患も
iPS細胞を使うことによって容易に治癒しうる時代になっていくかもしれない--

ただ、iPS細胞の一体何がすごいのかというのがニュースだけではなかなか理解しがたい。
"何となく"のレベルでは遺伝子の世界を理解できたとしても、
細かいメカニズムまでをも完璧に理解することは至難の業である。
よって初学者にも優しい教科書的な本が必要となってくるのだが、
教科書というのは実に無味乾燥なスルメイカのような書物で、
使い方を間違えてしまったら瞬時に睡眠導入剤へと化してしまう。

そこでオススメしたいのが今回ご紹介するこの一冊だ。

本書は日進月歩を遂げる分子生物学の世界を理解するのに最適な新書で、
コンセプトとしては一応初学者向けに書かれているものの、肝心の内容は若干難しい。
だが遺伝子の世界がこれほどまでにドラマティックに構成されているのかと思うと
人類の一員として興奮を抑えることが出来なくなってしまった。

人間の身体は奇蹟と言って良いほどの見事な機能を絶妙なバランスで果たしている。
一日ぐらい不摂生しただけではそう簡単に病気になんてならないし、
血液や臓器は神懸かりと言って良いほど一瞬の弛みもなく動き続けている。
そんな身体の設計図を担っているのが本書のメインテーマでもある"ゲノム"だ。

本書ではゲノムとは何ぞやといった根本的な問いから最新の学術成果まで
ゲノムに関する一通りの基礎知識が著者の私見も交えながら整理されており、
中でも私が特におもしろいと感じたのが『Ⅵ ゲノムから生命の関係を考える』だった。

まず大前提としてDNAは一字一句違わず正確に複製されていくわけだけれども、
(一字一句違っただけでも身体に異常が生じてしまう)
何らかのきっかけでDNAに傷が付いてしまい、複製にエラーが生じてしまうことが時にはある。
この場合はもともとDNAに備えられている修復機能が作用して事なきを得るのだが、
それでも修復機能を掻い潜ってしぶとく生き残るエラーもいくつか存在する。

が、実はこれはわざと変化させているんじゃないかということが最新の研究でわかってきた。
なぜ意図的にエラーを生じさせる必要があるのかといった本当の理由は解明されていないだけに、
ジャンクなコードはただ単に意味不明の文字列ではないかとも思えてしまうのだが、
今後研究を重ねていくうちにこれらのエラーの意味が明瞭になっていくかもしれない。
そしてその意味が医療へと応用されれば革新的な新薬が登場し、
人類があらゆる病を完全に征圧していく日もそう遠くはない未来にやってくることになるだろう。

戦争が絶えず環境破壊が進む地球にとって、ゲノムは数少ない"希望の星"だ。
せっかく人間としてこの世に生を受けたのだから、ゲノムのことをもっと深く知り、
人類の壮大なる夢を"希望の星"へと託してみようではないか。

読むと頭の中がgene gene(じんじん)してくる一冊。

ISBN 978-4-7973-4179-9ネコ好きが気になる50の疑問 飼い主をどう考えているのか? 室内飼いで幸せなのか?
加藤 由子
ソフトバンク クリエイティブ 2007-06-24
[サイエンス・アイ新書 025]

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「あなたはイヌ派?それともネコ派?」

日頃の鬱憤を吐き散らすように居酒屋で歓談し始めて数時間。
そろそろ話すネタが尽きてきて次はどうしようかなと思っていた矢先に
突然こういった質問を投げかけられたとしたら、あなたはどう答えるだろうか。
私ならば間違いなく「ネコ派」と答えるに違いない。

よく知られているようにイヌは群れ生活を主軸とし、飼い主にも大変忠実だ。
社会性に長け、芸も覚え、肝心な時には人間を助けることも忘れない。
それに対してネコは単独生活を好み、自分勝手に生きる動物だ。
自分中心に世界が回っていて、わがままに甘えて一生を過ごしていく。

そんな両者を比べて共感を覚えるのがやっぱりネコなのだ。
私自身の性格もネコに極めて近く、人間関係はいつもクールで、自分が一番かわいい。
気まぐれに行動し、常識やルールにあまり束縛されず、いつもにゃあにゃあ鳴いている...
だからこそネコに対して友情に近いものを抱いてしまうのかもしれない。

おまけに今、巷ではちょっとしたネコブームも巻き起こっている。
ニコニコ動画に投稿された「ねこ鍋」はDVD化されるほどのヒットとなり、
YouTube発のねこバンド「MUSASHI'S」もネット上の話題を席捲しつつある。
他にも和歌山にいる「ねこ駅長」やネコと戯れることのできる「ネコカフェ」などもあり...
いつまで経っても成長せずに争い毎ばかり繰り返している人類を差し置いて、
ついにネコが全世界を制覇する日が着々と近付いているのか!?

本書はそんなネコにスポットを当て、その生態の謎を解き明かした一冊だ。
ネコにまつわる疑問の中でも特に気になる50の疑問が精選され、
とてもキュートなイラストと共に専門家がやさしく解説している。
これからネコを飼おうと思っている人からネコに興味があるだけの人まで
幅広いニーズを満たしてくれるに違いない魅惑の一冊だろう。

余談だが、本書に描かれているネコのイラストがどのページも大変かわいく、
立ち読みでパラパラ済ませようと思っていた私も気がつけばこの本を購入していた。
購入の決め手となった本書のイラストをぜひ皆さんにも味わっていただきたいものだ。

さて先ほども述べたように本書には50の疑問が収載されているが、
例えば『なぜイヌのようにものを覚えないのか』の疑問はネコの本質を見事に突いている。
イヌは余程間違った躾け方でもしない限り飼い主をリーダーであると認識するものだが、
ネコにはそもそもリーダーという社会的概念がない。

「ネコは飼い主にほめられたいとは思っていませんし、
 そんなことはどうでもよいことでしかないのです」 (p86)

なので飼い主のために覚えるといった行為はネコにとって理解不能な概念であるし、
どれだけ躾けたとしてもその行為がDNAにインプットされることもないのだ。
つまりネコは人間とは違った独特の世界を築いているわけなのである。

「ネコの世界は、順位とか秩序とは関係なく、
 それぞれが気ままに、その日の気分でやっているといったところです」 (p110)

人間社会もネコのように各々がテリトリー内で気ままに生活していけば、
案外上手くいくかもしれないと思うのは私だけだろうか。

また著者は本書を通じて室内飼いの重要性についても説いている。
人間的な感覚からすれば、ずっと家に閉じこめておくのは可哀想とつい思ってしまうが、
ネコは本来意味もなく動きたがる動物ではない上に、
トイレ・寝場所・エサさえ安全に確保されていればネコが外に出る必要性は全くない。

むしろ室内飼いをすることによってネコを様々な危険から護ることができ、
飼い主とのコミュニケーションが密になるため、ネコと人間はさらに甘い関係で結ばれる。
「ネコは社会に出る必要はないのですから、甘やかして育ててかまいません」 (p167)
こうして私たちはますますネコの虜になっていくというわけだ。

ネコがどれだけわがままな動物であっても、人間はネコを飼い続けることをやめない。
愛くるしいネコは現代社会の"癒し"そのものであり、
ネコと幸福な日々を過ごすためにも正しい知識はぜひ身に付けておきたい。

ネコとあなたを繋ぐ出会い系な一冊。

ISBN 978-4-12-101923-3生態系ってなに? 生きものたちの意外な連鎖
江崎 保男
中央公論新社 2007-11-25
[中公新書 1923]

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どんなに強がっていても人間は一人で生きていくことができない存在だ。
...このように書くと「自分は一人でも生きられる」と反論してくる人もいるだろう。
確かに誰一人と交流を持たなくとも現代では金さえあれば生活を営めるが、
その事実は一人っきりで生きていけることを論証したことにはならない。

例えば経済的に余力が充分あると仮定して考えてみると、
インターネット経由で冷凍食品を買い込めば
昔のように食料品を買うためわざわざ外出して誰かと絡む必要もなく、
体力が続く限り誰とも会うことなく永遠に生活することができる。

が、何も冷凍食品は天から降って沸いてきた賜物ではない。
従業員が流れ作業で労働に勤しんでくれるからこそ冷凍食品が存在するわけであり、
電力会社で働く人がいるからこそ冷凍食品を温めるレンジも回ってくれるのだ。
食べるときに必要な割り箸は木があって、伐採する人がいて、運ぶ人がいて...
つまり人間社会は星の数ほどいる人たちが織り成す協同の結晶であって、
見えない誰かに支えられて私たちは今日も高度な文明社会を享受することができている。

同じことは地球全体を包み込む自然界にも言える。
地球には様々な生物が直接・間接に作用し合いながら住んでおり、
このことを生物学では「生態系」と呼んでいて、
おそらく誰もが一度は耳にした言葉であるはずだ。
だが、いざ「生態系ってなに?」と問われると答えに窮してしまう。

知っているようで実は全然知らない生態系の姿。
本書は生態系の知られざる真実についてやさしく解説した一冊だ。
専門用語で埋め尽くされた回りくどい説明や図表が一切なく、
まるで物語を語り下ろしているかのような文体で本書は終始進行していく。

「第1章 人の生命を支える生態系」では生態系の基本的な知識が綴られていて、
人間には直接的に益をもたらさない動植物でも、
生態系という枠の中で考えると非常に重要な位置を占めることに改めて思い知らされた。

見た目が気持ち悪く、一体何の役に立っているのかわかりにくい菌類も
生態系では「分解者」として死骸を分解する腐食連鎖の一翼を担っている。
ということはバクテリアなどの菌類がいなければ地球は死体の山になってしまうということだ。
また菌類がいるからこそ納豆や味噌などの発酵食品を食べることができるわけであり、
人類は忌み嫌うことなんてせずにもっと菌類に感謝しなければならない。

さて本書の中で特におもしろかったのが「第5章 生態系は共生系」だ。
道端を歩いていてよく出会す植物は一見何も考えていないようにみえる。
動くこともなければ太陽光線をただ浴びながらじっとしているだけで、
人生を楽しんでいるのかなと思わず余計なお節介を焼いてしまうが、
植物は非常に賢い生命体であり、時には我々以上の能力を発揮する。

例えば温室植物であるリママメとその大害虫であるナミハダニ,
その捕食者であるチリカブリダニの三者による共生系の例が本書に収載されている。
リママメはナミハダニによって食われてしまう運命にあるのだが、
葉の一部が食われるとリママメはなんとSOS物質を出してチリカブリダニを誘引し、
リママメの天敵であるナミハダニはチリカブリダニによって食われてしまう。
生態系をコントロールするこういった行為に私は読んでいて驚きを隠せなかった。

「植物はまさにだまって食べられているわけではありません。かじられると、
 植食者の天敵を積極的に呼んで敵を退治してもらっているというわけです」 (p172)

他にもヒトデの捕食が全体の均衡を保っている例など
興味深く且つおもしろい事例が満載で、読後は生態系のイメージが変わること必至だ。
私たちの知らないところで私たちを支えてくれる小さな生きものたち。
今度から公園へ行ったら生きものたちにいたわりの言葉をかけてみてはいかがだろう。

生態系に見られる"助け合いの精神"を社会的にも生かしていきたい。
「生態系ってなに?」と聞かれたらまずこの一冊。

ISBN 978-4-406-03248-3誕生・性・遺伝子 人間とは何か
宗川 吉汪
新日本出版社 2006-05-20

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私たち人間はものすごく複雑な生命体なのではないかと思いがちだけれども、
実は人間の遺伝子の数というのはたったの22,000個に過ぎない。
ショウジョウバエよりは辛うじて多いものの、シロイヌナズナよりも少ないのだ。

では人間はどのようにして少ない遺伝子から奇蹟の生命体を形成しているのだろうか。
その問いに何となく答えられる人はいるかもしれないが、
論理立てて明瞭に説明できる人は専門家でもない限りいないだろう。

しかし生物学の知識を駆使して人間を理解することは非常に重要なことである。
なのにも関わらず現代社会はあまりに人間理解を軽視しすぎている。
まるで工業用品の部品のように人間を扱い、極端に人間を数値化してシミュレートし、
人間を置き去りにした無味乾燥な政策がどれだけ立案されていることか。

そういった状況を打破するためにもせめて最低限の生物学的教養は身に付けておきたい。
そんな期待に応えてくれる一冊が今回ご紹介する本書ではないかと思う。

本書はカテゴライズするならば生物学の教養書であるが、
教科書的に無機質な専門用語がただ羅列されているわけではなく、
生命に関する興味深いトピックスがいくつか並ぶ構成となっている。
しかもまるで大学の講義をそのまま再現したかのような語り口で綴られていて、
講義を聞いている女子学生の回想も随所に挿入されるという
この種の本としてはユニークな仕掛けも魅力的なポイントだ。

例えば「第6章 血液型の秘密」では世に蔓延る血液型占いの虚構を一刀両断し、
話題はさらにDNAと遺伝子の関係からタンパク質の合成まで展開している。

結論から言えば血液型の違いは赤血球の型が物理的に違うというわけではなく
赤血球の表面に生えている糖鎖が違うだけの話なのだ。
ではその糖鎖の違いによって性格が変わるかと言われれば、
変わると考えるほうが不自然で無理のある理論であり、
血液型と性格の相関性は科学的にも立証されていない。

そんな基礎的なことを教養としてきちんと身に付けていれば、
たとえ周囲が狂喜乱舞していようとも踊らされるわけがないではないか。
これは巷で話題のスピリチュアルなんとかブームにも言えることだが、
現代人はもう少し冷静になって非科学的な虚説を見極める必要がある。
これがもし政治レベルだったら...ゾッとしてしまうのは私だけではないだろう。

また「第10章 脳がタバコを離さない」において著者は喫煙者を"病人"と断じており、
いかに喫煙が人体、いや人生を滅ぼすことになるかについて力説している。

吸って体が健康になるならばまだしも、吸えば吸うほど健康を害してしまい、
なおかつお金もたばこ税としてふんだんに搾取される。
生物学的に考えればタバコを吸うという行為は全く理に適っていない。

なのにも関わらず吸うというのはこれは病気と断ずるしかないではないか。
「タバコはおいしいから吸うのではなく、吸わざるを得ないから吸うのである」 (p199)
この章ではどうしてタバコがやめれなくなるかを理論的に解説していて、
ドーパミンが報酬回路を流れ、快楽信号がエンドレスで発信され続ける"恐怖"が
ソフトな語り口から警告されている。喫煙の裏に見え隠れする社会的要因も忘れてはならない。

他にも「兄弟姉妹はなぜ違う」「エイズとセックス」など話のネタにもなる話題が満載で、
各章の終わりには学生が書いたと想定されたミニレポートも収載されている。
サブタイトルにある「人間とは何か」を仮に問われたとしても明快に答えられるはずもないが、
そのことについて考えるヒントとして本書を読んでみてはどうだろう。
きっと何かの次元においてプラスとして働くはず。

生命の謎に迫りたい人のための一冊。

2008年4月

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