数学の最近のブログ記事

ISBN 978-4-12-101912-7数学する精神 正しさの創造、美しさの発見
加藤 文元
中央公論新社 2007-09-25
[中公新書 1912]

by G-Tools


大学へ入ってすぐの頃、私は自分の専攻する学問の専門書を求めて図書館へ足を運んだ。
私が大学で専門としている学問は世間的に極めてマイナーな存在で、
学部名を言ってもほぼ必ず「一体何をやっているの?」と聞かれてしまう。
それ故に専門書の数も少なく、私の知る限りにおいては現在でも10冊前後だ。

そんな数少ない専門書の一つを手に取ったとき、思わず私は仰天した。
その本には数学の専門書かと見間違える程に難しい微積分の式が延々と羅列されていて、
仮にこの学問を究めようとするならば、
これほどまでに高度な数学を修得しなければならぬのかと考えると
当時は荘厳たる思いを抱いたものだ。

一般的に数学は”数字がただ機械的に並んでいるだけ”といったどことなく冷徹な印象がある。
しかし数学とは数が織り成すサーカスのようなもので、本来は極めて美しい存在なのだ。
全く違う概念が一つの式に集約されるオイラーの公式はその最たる例だろう。
そんな「美しい」数学の魅力を紹介しているのが今回ご紹介するこの本である。

本書は帯コピーに『豊饒にして無限、自由にして深遠』とあるように
世間一般にはほとんど知られていない数学の知られざる世界をガイドしている教養新書だ。
ただしこの手の新書にしては内容が若干難しく、本文中には大学レベルの概念まで登場している。
かといってマニアックになりすぎず、回りくどいような説明に終始することもなく、
「ありのままの数学の美しさ」をストレートに伝えているところが特筆すべきポイントだろう。

冒頭に 「数学のような一見極めて抽象的で、
 この世の真理の一端を厳密にかつ論理的に記述せんとする学問も、
 時代背景や社会的状況と無縁ではいられなかった」 (p23)

とあるように、数学は自然の一風景を機械的に切り取ってきた産物ではなく、
飽くまでも人間がその時々の社会的背景を鑑みながら
人工的に生成してきたものだということをまず頭に入れておかなければならない。

ピタゴラスの時代の数学は「量」と密接に関係していた。
2といえば1と1を合わせたもので、その数は線分で表すことが出来る。
この時代にとっての「数」とは123456789の組み合わせのことを指していて、
その事実がすなわち数学の存在証明でもあった。

ところが人間は新たなる数を作っていく。
「自然界にすでにある数を人間が観察し記述するのではなく
 「人間が数を作る」のだという発想の転換」 (p231)

をして、数字をどんどん「記号化」していくのである。

例えば一辺が1の正方形の対角線の長さは定規では正確に測れない。
(この事実を発見した当時の人々はパニックに陥ったそうだ)
そこで人間は平方根という概念を用い、この長さが√2であることを作り出す。
決して自然界にもともと√2という概念があったわけではない。

さらには複素数(二乗して-1になる数字)という冷静に考えると常軌を逸した数も登場し、
p進数ともなると数の概念はもはや無限大にまで拡張されていく。

こういった流れを踏まえつつ、著者は「記号化された数学」の美しい世界を探究していて、
特に「パスカルの半平面」という著者独自の理論で二項定理がいかに美しいかを
証明している箇所は圧巻であり、一種の感動すらも覚える。
(一見普通の建物のように見える二項定理が実は億ションだったという驚愕の事実!)
また日常的に使われる身近な数学に美しさが潜んでいることもこの本は教えてくれる。

例えば1を3で割ると答えは0.9999999999999999・・・となり、
0.00000000000000・・・が一体どこへ行ってしまったのかが謎に包まれてしまう。
それは「極限」という美しい概念で説明が可能なのだが、
この概念を人類が作り出すに至るまでにはおもしろいエピソードがあり、
興味のある方はぜひ本書を手にとって読んでいただきたい。

そして本文中のこの言葉にも読者諸氏は耳を傾けておくべきだろう。

「作り手が神や自然本体でなく人間である以上、
 そのモデルにはなにがしかの暫定的要素が必ずある。
 そしてそれは将来また別のモデルや発想によってとって代わられる可能性を
 常に持っているのである」 (p84)

”昔の非常識が今の常識”な世界。非常識さがなければ革新的理論は生まれない。
100年後の教科書に現在と全く違ったことが書かれてる可能性だって大いにあるわけである。
数学とは夢と希望に満ちたおもしろい世界であることを知れただけでも私は幸福だ。

数と戯れたい人に贈る一冊。

2008年4月

    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30      

最近のブログ記事

最近のコメント

Creative Commons License
このブログのライセンスは クリエイティブ・コモンズライセンス.
Powered by Movable Type