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ISBN 978-4-00-342095-9職業としての学問
マックス・ウェーバー/著  尾高 邦雄/訳
岩波書店 1936-07-15(改:1980-11-17)
[岩波文庫 白209-5]

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大学へ入学した当初、私は学問を究めようと真剣に意気込んでいた。
せっかく大学へ行ったのだからただ遊んで終わるだけじゃあまりにもったいないではないか----
しかし学んでいるうちにある一つの疑問が眼前に浮かび上がってきた。

学問を究めて、結局何になるの?
というよりも、そもそも究められるものなのか?

世の中を一変させるような法則や論文を何か一つでも発表できたならまだしも、
研究室という社会と隔絶された空間で学問が完結してしまうのは自己満足の範疇に過ぎないのではないか。
学問で食べていく以上はそれなりに社会へ還元せねばならないと思うのだが、
特に政治・行政では学問の成果がほとんどといって良いほど還元されていない。

こんな閉塞的な状況の中において学問の意味とはこれ如何に。
そのヒントが今や古典の領域に入ったこの名著に隠されている。

本書は社会学者のウェーバーが1919年にドイツにて行った講演をまとめたものだ。
当時の大学生に向けて発せられたメッセージが収められているのだが、
正直言って完全には理解できないほど内容が難しい。いや、難しすぎる。
1980年に一度わかりやすく改訳されているものの、それでも難解だ。

難しい言葉を使っているというよりも、言い回しや論理構成がとんでもなく入り組んでいて、
それが読み辛くさせている一番の要因として私たちに降りかかっている。
しかし分量的には薄い本にも関わらず、肝心の内容は非常に濃い。

さてこの本は全体として一体何を主張しているのだろうか。
まず最初に当時のドイツの教育環境について苦言を呈すウェーバーの姿があった。
当時の大学における教育システムについて問題点を論じているわけだが、
これは今の時代にも通じる内容で、いつの時代も理想的な環境を構築するのはなかなか難しいことがわかる。

次に"学問をするときの心構え"としてウェーバーは様々な訓戒を発している。
「専門に籠もれ」「日々の仕事へ帰れ」などといった主張が学生へ向けて語られているわけだけれども、
この裏には当時の時代背景が色濃く滲み出ていることにまずは着目すべきであろう。

1919年のドイツは第一次世界大戦に敗れて政治的に混乱期にあった。
社会が混乱していると「オレにも一言言わせろ」としゃしゃり出てくる学生達も当然のことながら続出してきて、
彼らはしばしば学識よりも行動を先行させて急進的な方向へと舵を取っていった。

が、それではダメだとウェーバーは主張するのである。流行に追われるだけじゃ単なる一過性の病気ではないかと。
学生たちは政策云々を掲げる前にもう少し鍛えられなければならない----
窒息しそうなほどに鬼気迫る文体は当時の混乱した社会状況を如実に物語っている。

さらに本書で印象的なのは学問の意義を究極的に否定している箇所だ。
全く役に立たないわけではないが、決して全知全能とは言えない----
学問をやることによって少しばかり視界が明瞭になるものの、それ以上はない----

神聖さを武器に絶対不可侵の領域にまで学問を押し込めた今の学者たちを見て
もしウェーバーがこの時代に生きていたら何を思い何を語っただろう。
まだ近代的な学問が確立しきっていないこの時代において、
学問の意義から未来に至るまでこれだけ明晰に語れるウェーバーに思わず敬服の念を抱いてしまった。
大学で学ぶ者ならばぜひ一回は読んでおきたい一冊だ。

ISBN 978-4-10-118106-6マキアヴェッリ語録
塩野 七生
新潮社 1992-11-25
[新潮文庫 し-12-6]

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先日NHKスペシャルを見ていると、ある旅行会社の社長をカメラが密着していた。
その社長は「コストダウンと安全は両立できる」との持論を標榜し、
下請けバス会社に低賃金で仕事を請け負わせ、運転手に想像を絶する過重労働を強いて、
自分たちは汗を流さずに甘い蜜だけ中間搾取していたのが番組を見ていてやけに印象に残ったものだ。

儲かりさえすればその手段はなんだってかまわない---
ライブドアにせよこの会社にせよ「成金的な勝ち組」にはこのような傾向が特に強い。
しかし何も近代になって突然沸いてきた新興思想というわけでもない。
実はルネサンスの時代からこういったホリエモン的思想は存在していたのだ。

こういった思想は俗に「権謀術数」と言われるけれども、
この言葉を聞くとある思想家の名前が浮かび上がってくるのではないだろうか。
そう、イタリアの思想家:ニッコロ・マキアヴェッリである。
あるミュージシャンがヘヴィなロックソングの歌詞に
『マキアベリの書いた理想郷の世界は今の政治家にゃアイロニー』
と書いていたが、この「マキアベリ」こそニッコロ・マキアヴェッリのことなのだ。

今回ご紹介する本は『君主論』や『政略論』でお馴染みのマキアヴェッリの思想を
エッセンスだけ抽出した言わば"いいとこどり"な格言集で、
格言を一つ一つ引用した後には著者による詳細な解説が付け加えられている。

マキアヴェッリに関しては賛否両論があるだろう。
国語辞典で「マキャベリズム」という語を検索してみるとネガティブな意味が出てきてしまう。
(しかし実際は『君主論』でも権謀術数的な思想はそれほど色濃くなく、
 マキアヴェッリの思想は長い間世間に誤解され続けてきた)

確かに『君主論』などを読めば倫理的・宗教的見地からすると異議を唱えたくなるものがいくつかある。
が、一切の僻見を排してひたすら合理的かつ科学的に現実を見つめ続け、
激動の時代を生きる処方箋を示したマキアヴェッリの思想はもっと現代に見直されても良いのではないだろうか。

つまり倫理や宗教というある程度バイアスのかかった視座からいくら鳥瞰しても、
高度文明社会には上手く適応していけないのではないか、と言うことだ。
中核にあるエッセンスは21世紀である現代でも充分に通用するに違いないし、
「組織論」の原型は意外にもここに隠されている。

マキアヴェッリの思想に触れてみたい人に捧ぐ一冊。

ISBN 978-4-00-331101-1三酔人経綸問答
中江 兆民/著  桑原 武夫 島田 虔次/訳・校注
岩波書店 1965-03-16
[岩波文庫 青110-1]

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憲法が施行されて今年で60年を迎える。
この60年間、一度たりとも戦渦に巻き込まれることがなく、
未曾有の経済発展を享受できたのは紛れもなく今の憲法が存在したからであり、
そこは日本人として深く認識してもっと感謝しなければならないところだ。

ところで憲法は国家の大枠を規定した最高法規である。
日常生活において憲法を意識することはまずないが、
(それが理想の状態ではある)
憲法なしで我々のありとあらゆる生活が円滑に成立することはない。

それだけに憲法を変えるときは慎重に慎重を重ねて議論する必要がある。
一部の人たちの独りよがりな利益ではなく、全国民が人生を楽しむことが可能な憲法...
なかなか理想を現実とするのは難しいが、国民レベルでの熱い議論が放棄されては決してならない。

ところで今からちょうど120年前の明治20年。国家のあるべき姿を論じたある思想書が話題となった。
今回ご紹介するのはその政治思想書で、著者は明治の思想家:中江兆民だ。

タイトルからしてわかるように、3人が酒を交わしながら自らの思想を問答し合うという
思想本としてはかなり粋な設定となっているのが特徴的な本である。
明治中期の本を今さら読んで一体何になるんだ、と思う方もおられるかもしれないが、
政治思想書の体裁をとっていながらも文学的なおもしろさがここに加味されており、
そのユーモアさと今日の日本を予測したかのような先見の明は現在でも全く色褪せていない。

とにかく理想、理想で理論を精緻に適用する紳士君。
行け行けどんどん日の丸帝国と言わんばかりに、とにかく攻めの姿勢を崩さない豪傑君。
そしてその2人を現実的な視点から見つめ直して教導する南海先生。
この3人が自らの理想とする国家観を正面からぶつけ合っていて(但し酔っぱらい)、
読んでいると思想書らしからぬダイナミックな筆致を感じることが出来る。

実際にその後日本はどういった道を辿っていったのかというと、
豪傑君の思想のようにあれよあれよと言う間に野蛮な国へと変貌していき、
結果としてかなりの汚点を歴史上に残すこととなってしまった。

その反省が日本もそうだが世界の他の国にも生かされているかどうか...
「喉元過ぎれば熱さを忘れる」で今日もどこかで爆弾が鳴いている。
理想ばかり追い求めて厳しい現実を見ようとしない政治姿勢は問題だが、
現実ばかりを直視して過去を軽視し、理念なき政治利益だけを追求し続けるのもまた問題だ。

「天下の事は、皆理と術との別有り。力を議論の境に逞しくする者は、理なり。
 効を實際の域に収むる者は、術なり」 (p187)

「術なり」...つまりは大衆を奮起させ、善導していくリーダー的資質のこと。
そんな資質が今の総理大臣に果たしてあるのか否か。私には疑問に感じてならない。

ここで一つ思ったのだが、日本もこの本の紳士君の思想のように、
オンリーワンな文化立国を目指していったほうがいいのではないだろうか。
日本の文化は世界でも類い希なる「柔」な文化なのだから、
その特色を世界へアピールして、人々が世界中から癒しを求めるために日本へやってくる...

そんな国って魅力的かつ素敵だと思わない?

2008年4月

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