![]() | 高学歴ワーキングプア 「フリーター生産工場」としての大学院 水月 昭道 光文社 2007-10-20 [光文社新書 322] by G-Tools |
「ワーキングプア」が社会問題となっていることは以前にもこのブログで紹介した。
しかしワーキングプアはいわゆる底辺層に限った問題ではなく、
近年では一見そんな問題とは無縁な層からもワーキングプアに陥る人たちが激増している。
その正体とは博士号を取得している「高学歴ワーキングプア」だ。
本書はマスコミではほとんど報道されていない高学歴ワーキングプアの知られざる実態を暴き、
そんな人々を生み出した教育政策を指弾しつつ構造的な病巣に斬り込んだ意欲的な一冊だ。
著者自身が「ポスドク」と呼ばれる”一寸先は高学歴ワーキングプア”という身分に置かれており、
来年春からの身分は未定という崖っぷちさがこの本のリアルさを増幅させている。
さて、現在の日本の失業率は概ね4%前後を推移しているが、
博士卒に限った失業率を見てみるとその値はなんと50%以上にも上る。
医・理系ならば就職口を比較的見つけやすいものの、文系は極めて絶望的で、
文系の大学院博士課程に進もうものならその行為は自爆テロに等しいと言っても過言ではない。
なぜ学歴ピラミッドの頂点を極めた彼らが底辺で生活をするハメになってしまったのか。
本書では大学院重点化政策を強力に推し進めてきた当時の文部省の功罪を追及している。
そもそも昔の大学院は本気で研究職に就きたいと思う学生しか”入院”せず、
教授の裁量一つですべての意志決定が成されていた非常に閉鎖的な空間だった。
しかし1990年代に入ったと同時に当時の文部省と東大法学部は、
「教育の高度化」の美名の下で補助金を餌として各大学にどんどん大学院生を増やしていく。
バブルが弾けて就職氷河期に苦しんでいた学生たちを大学院へ取り込み、
専門職大学院やサテライト教室を作って社会人をどんどん大学院生へ仕立て上げ、
その結果、少子化の影響で大学生は漸減しているにも関わらず
大学院生だけは毎年のように増加するという”ねじれ”現象が起こってきた。
ところが少子化の煽りを受けて教員市場はすでに縮小の一途を辿っており、
さらに大学の教員にはリストラがなく、いつまで経ってもポストに空きが巡ってこない。
民間企業へ就職しようにも博士という学歴が邪魔をして首を縦に振ってくれないのが現状なのだ。
とすれば結果として彼らは構造的にフリーターにならざるを得なくなる。
教員になりたくても絶対数が圧倒的に不足しているのだから個人の努力ではどうにもならない。
研究者になることを夢見て日々勉強を積み重ね、博士号という名誉ある称号まで取得し、
その果てに待っていた職がコンビニのレジ打ちしかないというのはあまりにも醜いではないか。
「博士の専門知識を生かさず、本来得意とはしないような分野で働かせ、
その能力を眠らせてしまうのは、社会的投資をまったく無駄にしている」 (p136)
第5章「どうする?ノラ博士」ではこういった惨状を打開するための施策が考察されているが、
どれも現実性に欠けていて今ひとつパンチに欠ける。つまり現状を打開するのは難しいということだ。
では一体どうすれば良いのか。博士というシンクタンクを社会にどのように生かしていくべきなのか。
第6章「行くべきか、行かざるべきか、大学院」にその答えが逆転的な発想によって綴られている。
大学院重点化によってそれまで大学院へは進学しなかった層が次々と”入院”したわけだが、
逆に言えばそれは広く社会に門戸が開かれたという証左でもある。
学閥や縁故がモノを言う一昔前のような内輪運営は鳴りを潜め、
実力さえあれば誰だって意中の大学院へ入れる時代が到来したのだ。
が、先述したようにこれ以上の教員ポスト増はもはや望めない。
ならば「教員になるため」ではなく「スキル向上のため」に博士号を取得するのはどうだろう。
日本における修士・博士の価値は現在極めて低いと言わざるを得ないが、
米国ではかなりのステータスであり、会社経営者は全員が経営学博士を取得している。
それに文化立国・日本を目指すためには学術のエキスパート:博士の役割が重要だ。
「博士号は、大学院で学んだ若者が専任教員の口を得るためのキャリアパスとしての位置づけから、
市民社会における豊かさを個々の市民が実現していくことを間接的に助けうるものとして、
その姿を変化させていく過渡期に現在あるのかも知れない」 (p191)
もちろんこれには社会全体の意識改革が早急に求められる。
それを実現するためには国のチカラを借りるしかない。
国は過去の国策の過ちを認め、政策を転換すべき時期にきているのではないのか。
「末は博士か大臣か」という言葉が戦前にあった。
博士は憧れの大スターであり、当時は誰もが認めるエリート中のエリートだったのだ。
そんな博士も今や社会からNOを突きつけられる存在…
博士の未来を考える際に読んでおきたい一冊。










最近のコメント
ほめ屋 on BOOK REVIEW 131 五木寛之『夜明けを待ちながら』: はじめまして。 私も 2008:02:16:02:48:31
Kei on BOOK REVIEW 172 岡田光世『ニューヨークの魔法は続く』: >kozyさん 書き 2008:02:11:18:11:07
kozy on BOOK REVIEW 172 岡田光世『ニューヨークの魔法は続く』: 面白そうな本ですね。 2008:02:10:21:15:31
Kei on BOOK REVIEW 154 米原万里『米原万里の「愛の法則」』: >サザン大好きさん 2007:09:26:21:16:30
サザン大好き on BOOK REVIEW 154 米原万里『米原万里の「愛の法則」』: 以前ぜひ米原万里さ 2007:09:26:20:48:35
Kei on BOOK REVIEW 144 豊下楢彦『集団的自衛権とは何か』: foresight1 2007:08:19:01:42:25
foresight1974 on BOOK REVIEW 144 豊下楢彦『集団的自衛権とは何か』: foresight1 2007:08:18:08:50:05
Kei on BOOK REVIEW 120 阿辻哲次『近くて遠い中国語』: >ゆちゃさん そうで 2007:06:14:21:52:05
ゆちゃ on BOOK REVIEW 120 阿辻哲次『近くて遠い中国語』: 確かに音重視なんだけ 2007:06:14:09:08:27