BOOK REVIEW 194 松原謙一『遺伝子とゲノム』

ISBN 978-4-00-430815-7遺伝子とゲノム-何が見えてくるか-
松原 謙一
岩波書店 2002-11-20
[岩波新書 新赤版815]

by G-Tools


京都大学の山中伸弥教授率いる研究グループが
iPS細胞(人工多能性幹細胞)の培養に成功したというニュースは世界中に衝撃を与えた。

今まで再生医療の分野ではES細胞を用いた研究が幅広く行われてきたが、
材料としてヒトの受精卵が必要なだけに倫理的な問題が生じたことや、
韓国の学者が発表した論文に捏造が発覚したりしたことなどから
思うように研究を進めることが困難になってしまっていた。

そこに倫理的な問題をクリアした夢のようなiPS細胞が登場することにより、
一気に実用化への機運が高まり、人類は更なるステージへと一歩踏み出すことになる。
今までは臓器移植をするしか救命する手立てがなかった重篤な疾患も
iPS細胞を使うことによって容易に治癒しうる時代になっていくかもしれない--

ただ、iPS細胞の一体何がすごいのかというのがニュースだけではなかなか理解しがたい。
"何となく"のレベルでは遺伝子の世界を理解できたとしても、
細かいメカニズムまでをも完璧に理解することは至難の業である。
よって初学者にも優しい教科書的な本が必要となってくるのだが、
教科書というのは実に無味乾燥なスルメイカのような書物で、
使い方を間違えてしまったら瞬時に睡眠導入剤へと化してしまう。

そこでオススメしたいのが今回ご紹介するこの一冊だ。

本書は日進月歩を遂げる分子生物学の世界を理解するのに最適な新書で、
コンセプトとしては一応初学者向けに書かれているものの、肝心の内容は若干難しい。
だが遺伝子の世界がこれほどまでにドラマティックに構成されているのかと思うと
人類の一員として興奮を抑えることが出来なくなってしまった。

人間の身体は奇蹟と言って良いほどの見事な機能を絶妙なバランスで果たしている。
一日ぐらい不摂生しただけではそう簡単に病気になんてならないし、
血液や臓器は神懸かりと言って良いほど一瞬の弛みもなく動き続けている。
そんな身体の設計図を担っているのが本書のメインテーマでもある"ゲノム"だ。

本書ではゲノムとは何ぞやといった根本的な問いから最新の学術成果まで
ゲノムに関する一通りの基礎知識が著者の私見も交えながら整理されており、
中でも私が特におもしろいと感じたのが『Ⅵ ゲノムから生命の関係を考える』だった。

まず大前提としてDNAは一字一句違わず正確に複製されていくわけだけれども、
(一字一句違っただけでも身体に異常が生じてしまう)
何らかのきっかけでDNAに傷が付いてしまい、複製にエラーが生じてしまうことが時にはある。
この場合はもともとDNAに備えられている修復機能が作用して事なきを得るのだが、
それでも修復機能を掻い潜ってしぶとく生き残るエラーもいくつか存在する。

が、実はこれはわざと変化させているんじゃないかということが最新の研究でわかってきた。
なぜ意図的にエラーを生じさせる必要があるのかといった本当の理由は解明されていないだけに、
ジャンクなコードはただ単に意味不明の文字列ではないかとも思えてしまうのだが、
今後研究を重ねていくうちにこれらのエラーの意味が明瞭になっていくかもしれない。
そしてその意味が医療へと応用されれば革新的な新薬が登場し、
人類があらゆる病を完全に征圧していく日もそう遠くはない未来にやってくることになるだろう。

戦争が絶えず環境破壊が進む地球にとって、ゲノムは数少ない"希望の星"だ。
せっかく人間としてこの世に生を受けたのだから、ゲノムのことをもっと深く知り、
人類の壮大なる夢を"希望の星"へと託してみようではないか。

読むと頭の中がgene gene(じんじん)してくる一冊。

トラックバック(0)

このブログ記事を参照しているブログ一覧: BOOK REVIEW 194 松原謙一『遺伝子とゲノム』

このブログ記事に対するトラックバックURL: http://www.akeins.com/books/mt-tb.cgi/200

コメントする

2008年4月

    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30      

最近のブログ記事

最近のコメント

Creative Commons License
このブログのライセンスは クリエイティブ・コモンズライセンス.
Powered by Movable Type