![]() | 公務員クビ!論 中野 雅至 朝日新聞社 2008-02-28 [朝日新書 96] by G-Tools |
今年に入っても公務員の不祥事は絶えることなく世を揺さぶり続けている。
こういったニュースがワイドショーなどを通じて報道される度に
公務員に対する国民の眼はますます厳しさを増し、
タックスイーター化する鬼畜公務員に対する怒りはもはや爆発寸前だ。
だがその割には親が子どもに就かせたい職業の一位は現在でも公務員であるし、
国家によって地位が絶対的に保証されている上に給料も安定していて、
公務員はオイシイ職業であるという固定観念が日本人に根付いているのも事実である。
しかしながら公務員の未来はこれから日を増す毎に厳しくなっていくに違いない。
公務員間の給与格差は今よりも否応なく拡がっていくだろうし、
民間企業でいう"解雇"にあたる分限免職も広範に行われていくと予測されるからだ。
つまり公務員が民間企業に比して安泰だった時代は過去の遺物なのである。
本書は公務員を取り巻く現状を元官僚が詳説した概説本で、
今話題の公務員制度改革を斬り込む上でまずは読んでおくべき必須の一冊と言えるだろう。
著者は市役所職員からキャリア官僚へ転身したユニークな経歴をお持ちの方で、
それだけに厳しい時代を生きていくことになる現役公務員に対してのエールも大きい。
さて偏に公務員と言っても、一般的には国家公務員と地方公務員に大別される。
また国家公務員は試験種別によってキャリア(Ⅰ種)・ノンキャリア(Ⅱ種・Ⅲ種)に分けられ、
霞ヶ関の本省で出世コースに乗ることができるのは基本的にキャリアだけだ。
(最近ではノンキャリアも積極的に重要ポストへと登用される傾向あり)
なので公務員を取り巻く問題も職種によってずいぶん性格が違うのが実情である。
キャリアでは天下りが問題となっているし、地方公務員では職員の資質が問われがちだ。
本書ではマスコミを踊らせている公務員バッシングネタが職種別に整理されており、
今、公務員の何が問題となっているのかが丁寧に解説されているのでポイントを掴みやすい。
そもそも今の公務員制度は非常に硬直的で、良くも悪くも平等主義が蔓延しすぎている。
本省では深夜まで残業というのがもはや当たり前の光景と化しているが、
多くの出先機関ではきちんと定時に仕事を終えることができ、
それでいて両者の給料はほとんど変わらないのである。
真面目に働く公務員も怠けて働かない公務員も給与や労働環境は同じが原則なのだ。
さらにこのご時世にも関わらず未だに年功序列が強く機能しているため、
個人にどれだけ実力があったとしてもなかなか昇進へとは結びつかない。
これでは民間企業のようにもっと汗水流そうというインセンティブが働かないではないか。
となるとある一つの極論が眼前に浮かび上がってくる。
"公務員なんてすべて民営化してしまえ!"
"役所は効率性だけを重視して顧客重視主義に転換しろ!"
だが本書を読めば上記のような新自由主義的な構造改革が
公的な組織には馴染まないことが即座にお解りいただけるであろう。
そう、自治体とはもともと慢性的赤字経営を強いられる運命なのである。
市場では採算が成り立たないが誰かがやらねばならない事業が世の中にはあり、
(ex.生活保護,高齢者医療,過疎地のインフラ整備...etc.)
そういった事業は役所が採算度外視で引き受けざるをえないのだ。
効率性さえ長けていればそれですべて良しという理論は公的な分野では通用せず、
「役所は民間企業に比べて考慮すべき価値基準があまりにも多い」 (p247) ことを忘れてはならない。
また何でもかんでも民間にアウトソーシングしたとしても、
「コスト削減の陰で、非正規雇用の人たちを大量に働かせて人件費を浮かせたり、
商品の品質を偽装したりするケースが後を絶たない」 (p186)
ことからわかるように、効率性の抜本的な改革には何の効果も持たない。
このせいで非正規雇用の人たちが仮にワーキングプアへと陥ってしまったら、
最終的には行政で救済していかなければならない結果となるのは自明であり、
そうなると余計に非効率な行政運営を強いられることになってしまう。
さらに格差社会が拡大すれば公的部門の受益と負担の概念もより明確になっていくだろう。
社会保障は充実されて然るべきだが、その財源は富裕層からの税収によって成り立っている。
故に社会保障ばかりに目を向けると、富裕層に対して不公平な利益配分となってしまい、
要するに受益と負担の関係が著しくアンバランスとなってしまうのだ。
富裕層にもある程度利益を還元しないと、次第に彼らは他の自治体へと逃げていくだろう。
すると街には社会保障財源のスポンサーがいなくなり、被扶養者ばかりが溢れかえる。
その結果、貧困に起因するイメージ悪化から人材が流出して地価も下がり、
財政も破綻してしまい、廃墟と化した街を前にして国直轄を請うて身投げする...
そんな社会になったとき、公務員は今まで通りの仕事ぶりで果たして対応できるのか。
第七章では来るべき未来に対応するための新しい公務員像を提言しているのが興味深い。
平等主義のぬるま湯に浸かりすぎていると、これからの時代は致命的な転帰を辿ること必至だ。
その他にも公務員制度改革として世界各国のNPM(新公共経営)の例が紹介されていたり
「官民統一」から「官民流動性」への公務員制度改革のビジョンが打ち立てられていたりするなど、
やや専門的な話も織り交ぜながら、本書は公務員問題の核心に迫っている。
テレビの扇情的な特集番組を見るならば本書を読む方が有益であると太鼓判を押せるし、
だからこそみなさんにもこれを機会にぜひ読んでいただきたい。
公務員を知るための最初の一冊。


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