BOOK REVIEW 187 垣根涼介『君たちに明日はない』

ISBN 978-4-10-132971-0君たちに明日はない
垣根 涼介
新潮社 2007-10-01
[新潮文庫 か-47-1]

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学生の時はラディカルであっても社会に出ればなるべく平穏に生きていたいものだ。
遊びを優先するために授業への出席を放棄しても直ちに卒業に影響してくることはないが、
理由なしに会社へ出勤しなかったらそれはクビにも関わってくる一大事となる。
つまり社会人になると素行不良は生きることとリアルに直結してくるのだ。

ただ社会人が実に理不尽なのは、一生懸命働いてもクビになる可能性があることであり、
いくら業績が絶好調な企業と雖も、絶対に解雇されないという保証は決してない。
誰だって好き好んでクビの二文字を突き付けられたくなんてないが、
もし不幸にも「おまえはクビだ」と切り捨てられたとき、あなたならどんな思いに苛まれるだろうか。

日本の労働基準法ではやみくもに指名解雇することが禁じられている。
なので"クビキラー"は巧みな話術でそれとなく自己都合退職を唆すことになり、
「新しい可能性に挑戦してみませんか」との美辞麗句でトドメの一撃を射していく。
とは言いつつも内容は"社会的死亡宣告"そのものであり、
告げられた立場の人間からすると冷静さを失って憤懣も募る一方だ。

どうしてオレ?あれだけ働いていた自分がなんで辞めなきゃいけないの?

本書はクビ切り請負人である主人公が様々な企業のリストラを手掛け、
そこで出会う人間たちとの繊細な心の駆け引きを描いた人間ドラマだ。

「日本ヒューマン・リアクト」というリストラ代行会社に努める村上真介は
イケメンチックな容貌とクールな思考を併せ持つ30代半ばのサラリーマン。
そんな一介のリーマンに過ぎない真介が名だたる大企業のクビキラーとして
数十人単位を豪快にリストラしていくわけだが、これほど非人道的で酷な仕事はない。

それでも真介はこの仕事に誇りを持ち、やり甲斐も感じている。
もちろん自分がやっている行為に対しての疑問がないわけでもないが、
人間の最もデリケートな部分が露呈されていく仕事だけに、
人生経験を積むという観点から見れば最高の職場であろう。

そんな真介を支えるのが8つ年上の芹沢陽子だ。
もともとは真介が面接をしたリストラ候補者の一人であり、
危うくクビを切られる寸前まで追い詰められたものの、
ひょんな事から真介と逢瀬を楽しむこととなり、今では恋人の関係となった。
(→「File 1. 怒り狂う女」参照)

そんな陽子との戯れとリストラの現場風景を交叉させて物語は展開されていく。
面接される立場の人間からしてみれば、真介=犯罪者と断じて良く、
本書でもこれ以上考えられない希望退職の要件を真介から提示されているというのに、
真介に悪態をついて頑として最後まで食い下がるリストラ候補者が頻繁に登場する。

素晴らしい製品を作っているとの自負はあるが
部下を管理する能力に決定的に欠けている主任のケース。
(→「File 2. オモチャの男」参照)
面接者が実は真介と高校時代の同級生で、
同級生の人脈が結果的に面接者を救い出すことになるケース。
(→「File.3 旧友」参照)
家業を継ぐのか彼との結婚をとるのか仕事を続けるのか...
30を目前にして自分の将来について思い悩む女性社員のケース。
(→「File.4 八方ふさがりの女」参照)

それぞれの人たちにそれぞれの人生がある。
かげがえのない家族がいて、一度きりの未来があって、
恵まれた給与と身分を永久保証してほしいと誰もが願うばかり。

全員が勝つということが自然界の法則ではあり得ない以上、
厳しい社会を勝ち抜くためには誰かに犠牲を強いなければならない。
それが綺麗事を抜きにしたこの世の中の摂理なのだ。

そういった絶望的なテーマを扱っているにも関わらず、本書を貫く空気は終始明るく、
だからといってコメディタッチすぎないのも本書の魅力的なポイントであると言えるだろう。
今日も会社でがんばるあなたにぜひ捧げたい一冊だ。

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