BOOK REVIEW 181 金益見『ラブホテル進化論』

ISBN 978-4-16-660620-7ラブホテル進化論
金 益見
文藝春秋 2008-02-20
[文春新書 620]

by G-Tools


世代が違えば物事に対する価値観もたいてい異なるものだが、
ラブホテルほど今と昔でイメージが激変する場所もないだろう。

昔のラブホテルはエッチするために存在する言わば"連れ込み宿"で、
回転ベッドや鏡張りの浴室などワイセツ度100%の部屋が発情期の男女を扇情させていた。
当然その存在はPTAから目の敵にされ、情報誌に特集が組まれることもなく、
人前でラブホテルの話題を出すなんてもってのほかという時代が続いていく。

ところが現在は違う。ラブホテルは"ラブも出来るエンタメスポット"へと変貌したのだ。
部屋はシティホテルでいうスウィートルーム並の豪華さでアメニティも超充実。
大画面で映画も鑑賞でき、最新ゲームも楽しめて、カラオケだって歌えちゃう。
マッサージでリラクゼーションした後は無料サービスの豪華な食事でお腹も満足...
(もっと言えばサザンのライブが常備されているラブホテルも私は知っている!@大阪某所)

日常会話でも当たり前のようにラブホの話題が行き交い、
私たち若者の感覚からすればラブホ=エッチをする場所ではもはやない。
まさに 「ラブホテルは、決して日陰の存在ではなく、堂々たる日本の文化」 (p17) であり、
そんなラブホテルの知られざる秘密を検証してみせたのが本書だ。

著者は博士後期課程在籍中の現役大学院生で、大学院ではラブホテルを研究されている。
しかも大変美人な方で、帯にある金さんの姿を見てクラっときた男性諸氏もいるに違いない。

さて 「ラブホテルは、常に目新しいものを追い求める流行産業」 (p28) とあるように、
昔からラブホテルにはその時代の人々の憧れが反映されてきた。

テレビが高嶺の花だった時代には全室にカラーテレビを完備し、
海外旅行が憧憬の的だった時代にはホテル名に海外を連想する名前が付けられ、
(○○エンペラーや○○チャペルなどのホテル名が多いのはその名残)
現在ではキレイになりたい女性の憧れがアメニティとして洗面所に大量に反映されている。

また"ラブホテル必須アイテム"と題して、
ラブホテルでよく見かける摩訶不思議な物体の謎に迫り、
歴史的な考察を加えている箇所もおもしろい。
性欲に踊られる人間の性というのは実に哀愁に満ちている。

さらにラブホテルであってラブホテルでないラブホテルが多い事実も非常に興味深い。
新風営法でラブホテルが明確に定義され、ラブホテルにかなりの制限が加えられた。
回転ベッドが消えたのもこの頃で、ラブホテルで認可されてしまうと経営に支障が出かねない。

そこで妙策としてほとんどのホテルが"ビジネスホテル"として申請する現実があるのだ。
そしてビジネスホテルとして認可されたらすぐにラブホテルへの改装が始まっていく。
なのでどう見てもラブホテルなのに法律上はビジネスホテルであるところが結構多いのである。

よってラブホテル建設時に住民と係争することになるポイントがここなのだ。
ビジネスホテルとして認可されているにも関わらず実際に建つのはラブホテルであり、
取消訴訟を起こしても違法ではないので結果的に施工主が勝つことになる。
(実際は行政法の法理を駆使して自治体側が建設を取り消すこともあるのだが)

つまりラブホテルと一般ホテルの境界線が法律的には曖昧となっているのだ。
また最近ではシティホテルが"休憩"とほぼ同義のデイユースプランを導入したり、
二人でイチャイチャできる個室付きのレストランなどが繁華街に登場したりなど、
ラブホテルの主権を脅かすトレンドも徐々に市民権を得つつある。

となってくるとラブホテルに未来はあるのだろうか。
このまま多機能路線を歩んで五つ星ホテルを凌ぐサービスを提供することになるのか、
それとも原点回帰として布団と浴室だけを部屋に設置したシンプルな内装になってくるのか。
欲望が細分化された現代、ラブホテルが岐路に立たされていることは間違いない。

「Walker」や「一週間」「ぴあ」では頻繁にラブホテルが特集されている。
「ラブホテル=セックスという考えから、ラブホテル=デートという意識に変わり、
 カップルにとってラブホテルをより身近な存在にしたのは情報誌」 (p191)

とあるように、カップルにとって今やラブホテルは遊園地と並ぶデートスポットだ。

故にラブホテルは決してアングラなスポットではないし、
ラブホテルがこの国に存在することを私たちはもっと誇りに思わなければならない。
なぜならラブホテルは"堂々たる日本の文化"なのだから。

そうだ ラブホテル、行こう。な気持ちにさせてくれる一冊。

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