BOOK REVIEW 178 山崎ナオコーラ『人のセックスを笑うな』

ISBN 978-4-309-40814-9人のセックスを笑うな
山崎 ナオコーラ
河出書房新社 2006-10-20
[河出文庫 や-17-1]

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恋愛はオトコとオンナが織り成す最高級のエンターテイメントだ。
故に恋愛は楽しむものであるし、セックスだってたくさん楽しみたい。

が、現実問題として楽しいばかりが恋愛ではないのも事実である。
"慣れ"は感情の耐性を生み、お互いを知り合えば知り合うほど反発の度合いも増していく。
第三者的な視点から見ればそれらを含めて"恋愛はエンターテイメント"なのだが、
当人同士はそんな悠長なことを言っていられるほどの余裕なんてない。

だけど恋人同士である限り僕たちはセックスを楽しみ続ける。
たとえどんなに心の奥底に有耶無耶を抱えていても、
唇と唇が触れた瞬間、恋人たちは動物へと脱皮を遂げてオスとメスになっていく。
セックスをするということは恋人同士であるというアイデンティティそのものなのだ。
常日頃から人様に(物資的ではなく精神的な意で)笑われないセックスを心掛けたい。

...人のセックスを笑うな!

今回ご紹介する本書は年の差20歳の男女が恋に落ち合うラブストーリーで、
せつなさにせつなさを重ねたような苦い読後感が特徴的な作品だ。
タイトルはストレートであるもののそれほど激しい性描写は登場せず、
全体的にかなりシンプルに描写されていて、所々において著者のセンスも光っている。

主人公の「オレ」は美術専門学校に通う19歳の男の子で、
そんなオレはこの学校で講師をしていた39歳のユリに出会い恋をした。
別に若さを過度に強調しているわけでもなければ、
女らしい芳香を全身から漂わせているわけでもない。
だけどもユリは生徒に人気があり、みんなから「ユリちゃん」と呼ばれ親しまれていた。

ある日、クラスの飲み会の帰りにオレはユリに突然思いを告げられる。
「私、君のこと好きなんだよ。知ってた?」 (p17)
が、自分より恋愛経験が遥かに豊富な39歳の人妻にホイホイと騙される自分ではない。
からかい半分なのだろうか。それとも真剣なのだろうか。

後日、今度は彼女のアトリエに誘われた。
微妙な関係の男女が密室で二人きり...もしかしたらもしかするかもと期待を寄せるオレ。
けれども予想に反してこの日は結局何も起こらず、
空振りのような気持ちでオレはアトリエを後にしていった。

しかし二度目にアトリエに誘われた時、オレはユリとセックスすることになる。
熱情に負けて襲ったわけでも終始リードされたわけでもない。
そんなムードになったから、ちょっと勇気を出してシャツのボタンを外してみただけだ。
それからというもの二人はデートとセックスを楽しむ日々を送っていくが...

年上の女性からすればユリに惚れる主人公のオレは"かわいい男"だろう。
常にユリのコントロール下に置かれ、絶対不可侵な領域にも侵してこない上に、
好きなときに愛を確かめてさえおけば愛は繋ぎ止めていられる。
そして気が向かなければいつでも愛を放り投げることだって出来るのだ。

その余裕さとは裏腹にオレは絶えず自問自答を続け、恋の病と共に煩悶する。
「恋だとも、愛だとも、名前の付かない、ユリへの愛しさがオレを駆り立てた」 (p62)
クラスの女の子との間では決して味わうことの出来ないbittersweetな恋愛。
完熟した大人のキスはとろけてしまうほどに頬が痺れ、
ダメ押しのように脳神経へ降り注ぐ「大好き」の声で再生産される抑えきれない恋情。
言わばオレはすっかりユリの魔法にかかってしまった状態なのだ。

恋人同士の間に浮遊する得体の知れない物質で結ばれるオレとユリ。
その物質を巡って絶えずオトコとオンナの駆け引きに講じる二人の男女。
この小説には恋愛の素敵さと無情さと残酷さが一つに丸ごとパッケージングされている。
そのパッケージを紐解く時、あなたはどういった思いで二人の行動を受け止めるだろうか。

恋愛教科書検定合格の一冊。

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