![]() | 生態系ってなに? 生きものたちの意外な連鎖 江崎 保男 中央公論新社 2007-11-25 [中公新書 1923] by G-Tools |
どんなに強がっていても人間は一人で生きていくことができない存在だ。
...このように書くと「自分は一人でも生きられる」と反論してくる人もいるだろう。
確かに誰一人と交流を持たなくとも現代では金さえあれば生活を営めるが、
その事実は一人っきりで生きていけることを論証したことにはならない。
例えば経済的に余力が充分あると仮定して考えてみると、
インターネット経由で冷凍食品を買い込めば
昔のように食料品を買うためわざわざ外出して誰かと絡む必要もなく、
体力が続く限り誰とも会うことなく永遠に生活することができる。
が、何も冷凍食品は天から降って沸いてきた賜物ではない。
従業員が流れ作業で労働に勤しんでくれるからこそ冷凍食品が存在するわけであり、
電力会社で働く人がいるからこそ冷凍食品を温めるレンジも回ってくれるのだ。
食べるときに必要な割り箸は木があって、伐採する人がいて、運ぶ人がいて...
つまり人間社会は星の数ほどいる人たちが織り成す協同の結晶であって、
見えない誰かに支えられて私たちは今日も高度な文明社会を享受することができている。
同じことは地球全体を包み込む自然界にも言える。
地球には様々な生物が直接・間接に作用し合いながら住んでおり、
このことを生物学では「生態系」と呼んでいて、
おそらく誰もが一度は耳にした言葉であるはずだ。
だが、いざ「生態系ってなに?」と問われると答えに窮してしまう。
知っているようで実は全然知らない生態系の姿。
本書は生態系の知られざる真実についてやさしく解説した一冊だ。
専門用語で埋め尽くされた回りくどい説明や図表が一切なく、
まるで物語を語り下ろしているかのような文体で本書は終始進行していく。
「第1章 人の生命を支える生態系」では生態系の基本的な知識が綴られていて、
人間には直接的に益をもたらさない動植物でも、
生態系という枠の中で考えると非常に重要な位置を占めることに改めて思い知らされた。
見た目が気持ち悪く、一体何の役に立っているのかわかりにくい菌類も
生態系では「分解者」として死骸を分解する腐食連鎖の一翼を担っている。
ということはバクテリアなどの菌類がいなければ地球は死体の山になってしまうということだ。
また菌類がいるからこそ納豆や味噌などの発酵食品を食べることができるわけであり、
人類は忌み嫌うことなんてせずにもっと菌類に感謝しなければならない。
さて本書の中で特におもしろかったのが「第5章 生態系は共生系」だ。
道端を歩いていてよく出会す植物は一見何も考えていないようにみえる。
動くこともなければ太陽光線をただ浴びながらじっとしているだけで、
人生を楽しんでいるのかなと思わず余計なお節介を焼いてしまうが、
植物は非常に賢い生命体であり、時には我々以上の能力を発揮する。
例えば温室植物であるリママメとその大害虫であるナミハダニ,
その捕食者であるチリカブリダニの三者による共生系の例が本書に収載されている。
リママメはナミハダニによって食われてしまう運命にあるのだが、
葉の一部が食われるとリママメはなんとSOS物質を出してチリカブリダニを誘引し、
リママメの天敵であるナミハダニはチリカブリダニによって食われてしまう。
生態系をコントロールするこういった行為に私は読んでいて驚きを隠せなかった。
「植物はまさにだまって食べられているわけではありません。かじられると、
植食者の天敵を積極的に呼んで敵を退治してもらっているというわけです」 (p172)
他にもヒトデの捕食が全体の均衡を保っている例など
興味深く且つおもしろい事例が満載で、読後は生態系のイメージが変わること必至だ。
私たちの知らないところで私たちを支えてくれる小さな生きものたち。
今度から公園へ行ったら生きものたちにいたわりの言葉をかけてみてはいかがだろう。
生態系に見られる"助け合いの精神"を社会的にも生かしていきたい。
「生態系ってなに?」と聞かれたらまずこの一冊。


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