![]() | 誕生・性・遺伝子 人間とは何か 宗川 吉汪 新日本出版社 2006-05-20 by G-Tools |
私たち人間はものすごく複雑な生命体なのではないかと思いがちだけれども、
実は人間の遺伝子の数というのはたったの22,000個に過ぎない。
ショウジョウバエよりは辛うじて多いものの、シロイヌナズナよりも少ないのだ。
では人間はどのようにして少ない遺伝子から奇蹟の生命体を形成しているのだろうか。
その問いに何となく答えられる人はいるかもしれないが、
論理立てて明瞭に説明できる人は専門家でもない限りいないだろう。
しかし生物学の知識を駆使して人間を理解することは非常に重要なことである。
なのにも関わらず現代社会はあまりに人間理解を軽視しすぎている。
まるで工業用品の部品のように人間を扱い、極端に人間を数値化してシミュレートし、
人間を置き去りにした無味乾燥な政策がどれだけ立案されていることか。
そういった状況を打破するためにもせめて最低限の生物学的教養は身に付けておきたい。
そんな期待に応えてくれる一冊が今回ご紹介する本書ではないかと思う。
本書はカテゴライズするならば生物学の教養書であるが、
教科書的に無機質な専門用語がただ羅列されているわけではなく、
生命に関する興味深いトピックスがいくつか並ぶ構成となっている。
しかもまるで大学の講義をそのまま再現したかのような語り口で綴られていて、
講義を聞いている女子学生の回想も随所に挿入されるという
この種の本としてはユニークな仕掛けも魅力的なポイントだ。
例えば「第6章 血液型の秘密」では世に蔓延る血液型占いの虚構を一刀両断し、
話題はさらにDNAと遺伝子の関係からタンパク質の合成まで展開している。
結論から言えば血液型の違いは赤血球の型が物理的に違うというわけではなく
赤血球の表面に生えている糖鎖が違うだけの話なのだ。
ではその糖鎖の違いによって性格が変わるかと言われれば、
変わると考えるほうが不自然で無理のある理論であり、
血液型と性格の相関性は科学的にも立証されていない。
そんな基礎的なことを教養としてきちんと身に付けていれば、
たとえ周囲が狂喜乱舞していようとも踊らされるわけがないではないか。
これは巷で話題のスピリチュアルなんとかブームにも言えることだが、
現代人はもう少し冷静になって非科学的な虚説を見極める必要がある。
これがもし政治レベルだったら...ゾッとしてしまうのは私だけではないだろう。
また「第10章 脳がタバコを離さない」において著者は喫煙者を"病人"と断じており、
いかに喫煙が人体、いや人生を滅ぼすことになるかについて力説している。
吸って体が健康になるならばまだしも、吸えば吸うほど健康を害してしまい、
なおかつお金もたばこ税としてふんだんに搾取される。
生物学的に考えればタバコを吸うという行為は全く理に適っていない。
なのにも関わらず吸うというのはこれは病気と断ずるしかないではないか。
「タバコはおいしいから吸うのではなく、吸わざるを得ないから吸うのである」 (p199)
この章ではどうしてタバコがやめれなくなるかを理論的に解説していて、
ドーパミンが報酬回路を流れ、快楽信号がエンドレスで発信され続ける"恐怖"が
ソフトな語り口から警告されている。喫煙の裏に見え隠れする社会的要因も忘れてはならない。
他にも「兄弟姉妹はなぜ違う」「エイズとセックス」など話のネタにもなる話題が満載で、
各章の終わりには学生が書いたと想定されたミニレポートも収載されている。
サブタイトルにある「人間とは何か」を仮に問われたとしても明快に答えられるはずもないが、
そのことについて考えるヒントとして本書を読んでみてはどうだろう。
きっと何かの次元においてプラスとして働くはず。
生命の謎に迫りたい人のための一冊。


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