BOOK REVIEW 170 村上春樹 佐々木マキ『ふしぎな図書館』

ISBN 978-4-06-275948-9ふしぎな図書館
村上 春樹 佐々木 マキ
講談社 2008-01-16
[講談社文庫 む-6-33]

by G-Tools


本を愛する者にとって図書館はまさに楽園である。
棚に陳列された本たちは皆仲間のように思えてくるし、
出来るだけ多くの本たちと出会うためにも、
一秒でも長く生きたいという気持ちに駆られてくる。

なので見知らぬ街を歩いていて図書館を見つけると、
まるで何かの魔法にかかったかのようにふらっと中へ入っていってしまう。
ノリとしては顔見知りの常連客がいるバーに入るのと同じ感覚で、
たとえ何時間拘束されたとしても図書館ならば飽きることがない。

実はそんな図書館に大きな秘密があることを私は知っている。

"図書館の裏側には閲覧室を凌駕するほどの書庫があることを!"

一度だけ何かの機会に大学図書館の書庫へ入ったことがあるのだが、
閲覧室以上とも言えるくらいの面積にたくさんの本が収納されていて、
思わず書庫以外にも何か隠れ部屋があるのではないかと探してしまう自分がいた。

館内地図に全く記載されていないどころか存在すらも公にされていなかったせいか
楽園の裏にこんなにも大きなもう一つの楽園があったのかと衝撃を受けたものだ。
ただし書庫にいた本の仲間たちは一線を退いていたせいか覇気に欠けていた。
性格的に気難しそうで、友情を育むにはちょっと御免被りたい相手かもしれない。
もしだだっ広いだけの書庫に一人取り残されてしまったらどうしよう...

この小説の主人公「ぼく」はオスマントルコの税金の集め方を調べるため、
図書館の奥にいた老人に何か良い本はあるかと尋ねてみた。
そこで老人は「ぼく」のリクエストに応えて本を3冊持ってくる。
ただし3冊とも赤いラベルが付いている貸し出し禁止本だ。

でももうすぐ閉館時間だし、早く帰らないとごはんを待っているお母さんが心配する。
なのでせっかく持ってきてくれた老人には申し訳ないけど、「ぼく」は帰ろうとした。
が、「時間なんか気にせずにここで読みなさい」と逆に老人は激昂してしまう。
別にどうしてもってわけではなかった。ただ何となく調べたいだけだった。
なのに老人は半ば強引に話を進め、さらに奥の部屋へと「ぼく」を案内していく。

迷路のような道を通り抜け、目的の部屋に辿り着くとそこにいたのは何故か羊男。
ここはどこ?なんでここに「ぼく」はいるの?
「読書室」と称された部屋に案内された「ぼく」は部屋に鍵を掛けられ、
足首には鎖も繋がれて、気が付けばすっかり拘禁状態となってしまった。

どうやらここで死にもの狂いになってオスマントルコについて勉強しろということらしいが、
勉強して賢くなった脳みそは最終的にあの老人によって吸われる運命にあるようだ。
羊男は「ぼく」の今後についてこのように言った。
「はっきり言うと、君はのこぎりで頭を切られちゃうんだよ。
 そして脳みそをちゅうちゅう吸われてしまうんだ」 (p36)

そんなの聞いてないよ。あまりにもひどいじゃないか。
「ぼく」は一体どうなってしまうんだろう。脳みそなんか吸われてたまるもんか。
そこで「ぼく」に待ち受けていた出来事とは...?

世界観がたとえ著者名を伏せていても村上春樹とわかるぐらいで、
いつものように独特な読後感に襲われること必至だが、
佐々木マキのイラストがその世界観を上手い具合に中和し、
なおかつ子どもでも解釈できるぐらいの潤滑油として働いている。
(だからといって子どもが読んでも本当の意味での理解は難しいと思うが)

日常生活の裏側に合わせ鏡のように潜むもう一つの「日常」。
子どもにとってこの世の中は絶対的に統合されている存在ではなく、
セグメントに分けられたパラレルを接着剤で繋げ合わせたジグソーパズルにすぎない。
なのでどこかに必ず繋ぎ目はあり、気になると言われれば気になってしまうが、
どうして現実世界に繋ぎ目が出来てしまうのかがわからない。それだけに怖い。

例えば学校を一歩離れて、校区の違う学校へ行けばそこはパラレルだ。
学校という社会的存在は同じなものの、「ぼく」を知っている先生はどこにもいないし、
教室もどことなく違うし、「ぼく」と遊んでくれる友達もいない。
だけど「ぼく」が知らない児童たちも同じ教科書を使って同じ事を勉強している。
自分の学校とパラレルなことが何食わぬ顔で時空と共に進んでいる不思議な感覚。

自我を身に付け行動範囲も拡がる大人になればそのからくりも自ずとわかってくるが、
子どもにはそれが気付かない。その捻れに耐えきれなくなるのが思春期。
パラレルな恐怖感を図書館という日常的な場であえてファンタスティックに表現したのが本書で、
主人公の「ぼく」は現実とパラレルの間で悩み続けて答えを出していく。
どこか懐かしい感覚と芳香が物語の中に密閉されていて、
光の見えないクールな文体が幼少時に抱いた恐怖感をフラッシュバックさせる。

ふしぎな図書館にあなたも溺れてみる?

トラックバック(0)

このブログ記事を参照しているブログ一覧: BOOK REVIEW 170 村上春樹 佐々木マキ『ふしぎな図書館』

このブログ記事に対するトラックバックURL: http://www.akeins.com/books/mt-tb.cgi/213

コメントする

2008年6月

1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30          

最近のブログ記事

最近のコメント

Creative Commons License
このブログのライセンスは クリエイティブ・コモンズライセンス.
Powered by Movable Type