![]() | フリーペーパーの衝撃 稲垣 太郎 集英社 2008-01-22 [集英社新書 424B] by G-Tools |
『出版不況』の時代と言われて久しい。
本や雑誌がかつてほど売れなくなり、老舗出版社や中小書店も次々と倒産し、
手軽に情報を取得できるインターネットの発展も出版界にトドメの一撃をさした。
が、こんな時代でも"ある分野"の出版に関しては飛ぶ鳥を落とす勢いで成長が続いている。
その分野こそが最近やたらと街で目に付くようになった「フリーペーパー」だ。
ターミナルやショッピングモールにはフリーペーパーを積載した夥しい数のラックが設営され、
今やフリーペーパーは現代人の日常生活へ確実に浸透したと存在と言えるだろう。
もちろん一昔前にもフリーペーパーがなかったわけではない。
ただ当時の内容は周辺地域の求人・不動産・飲食店情報などが主体であり、
マス媒体として有料で売り出すには利益的に適さないコンテンツが多かったのも事実である。
ところが最近では今まで有料雑誌のテリトリーだったコンテンツに
無料雑誌が進出しているという質的変化が顕著に見られるのだ。
例えば首都圏で配布されている「R25」の競合雑誌は「SPA!」であると言えるし、
大阪南部で配布されている「NATTS」は内容的にも「Kansai Walker」と被る。
またフリーペーパーの波は情報誌だけでなく文芸誌にまで及んでいて、
伝統ある「早稲田文学」までもが今やフリーペーパーの時代なのだ。
なぜこれほどまでにフリーペーパーが隆盛を極めているのか。
その知られざる秘密を探ったのが今回ご紹介する本書だ。
フリーペーパーは現代社会を論じる上で欠かせないトレンドの一つにも関わらず
適当な書籍が今までなかっただけに、この本が発表された意義はとても大きい。
さて手始めの第一章では『異業種出身の成功者たち』と題して、
「ぱど」「地域新聞」「月刊ぷらざ」のサクセスストーリーが創業者と共に紹介されている。
特徴的なのはいかにもギョーカイジンっぽい人がセレブに起業したわけではなく、
メディアに関してはド素人な異業種出身の創業者が非常に多いことだ。
これは裏返せば「経験がなくても誰だって出版できる」ということでもあり、
第六章『だれでも出せる「紙のブログ」』では高校生が株式会社を設立して、
実際にフリーペーパーを発行するまでのドキュメントも収載されている。
そして私が非常に興味深く感じたのは第五章「日本に『メトロ』が登場する日」だ。
現在日本で発行されているフリーペーパーのほとんどすべては週刊か月刊であり、
あれだけフリーペーパーが乱立している首都圏でさえも肝心の"日刊"が見当たらない。
ところが戸別宅配制度が確立された日本では感覚的に理解しにくいが、
「多くの先進国では、「新聞は無料で読むもの」という常識が定着している」 (p91) のだ。
そこでかつて日本でもニュースを中心に編集された日刊無料誌が発行されたことがある。
鳴り物入りの新規参入となったこの新聞のタイトルは「ヘッドライン・トゥディ」で、
目指したのはスウェーデンから発祥して今や世界中で読まれている『メトロ』の日本版だった。
しかし突然の異端児来襲に新聞業界はかなり冷淡で、脅迫電話までかかってきたという。
通信社は記事提供を拒み、印刷会社も新聞の印刷を拒否し、
駅も売店の売り上げが減るとして場所の提供を許さなかった。
そうなるとヘッドライン・トゥディは必然的に外電記事ばかりの構成とならざるをえず、
通勤客が取りにくい周辺のコンビニなどにラックを置くしか配布方法がない。
これでは浸透するはずもなく、結局たった四ヶ月で日刊紙市場から撤退してしまうことになった。
現在ではフリーペーパーの利益効果が認知され、駅も進んで場所を提供するようになったが、
それでも日本において日刊無料誌が発刊されるにはクリアすべき問題点が数多い。
その一つがジャーナリズムとの整合性で、情報誌とは理念を峻別しなければならない。
「新聞ジャーナリズムという信頼性、信憑性を旗印にした報道分野で、
受益者から一切お金を取らない無料ビジネスが
その言論性をどこまで本当に守れるのか」 (p115)
フリーペーパーは読者から一切お金を取らないので収益源は自ずと広告収入に依存してしまう。
既存メディアで言うならば地上波テレビのモデルとほぼ同じと考えればわかりやすい。
ただ地上波テレビとフリーペーパーの広告効果には歴然たる差があることにも着目したい。
著者の定義を借りるならばフリーペーパーは商品の「理解」に貢献するメディアで、
テレビは商品や企業の「印象」に、新聞は「信頼」につながる広告効果がある。
それ故にフリーペーパーがテレビや新聞を駆逐することは理論的に考えるとありえない。
ならば既存のメディア企業もフリーペーパーを生かしていかなければ損ではないか。
「商品情報を消費者に伝えるために、いろいろなメディアを使い分けることで、
大きな広告効果が期待できる。
広告媒体として、フリーペーパーが新聞やテレビと共存し、
相乗効果を発揮する可能性が見えてきた」 (p81)
フリーペーパーのすべてがわかるオススメ本。


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