![]() | 石油を読む<第2版> 地政学的発想を超えて 藤 和彦 日本経済新聞出版社 2007-02-15 [日経文庫 A52] by G-Tools |
原油価格が猛烈な勢いで急騰している。
トイレットペーパーが街中から消えた第一次オイルショックの時(1973)は
原油価格が一気に4倍も跳ね上がって($3→$12=1b)市民生活を直撃したが、
今や原油価格は$90=1b前後という極めて高い水準を推移しており、
3年前に比べて原油価格は約4.5倍も上昇した。
その影響は私たちの日常生活にじわりじわりと影を落としつつある。
レギュラーガソリンの価格が1リットル当たり150円を軽く超え、
毎日のように新聞紙上を賑わしているのはその代表例だろう。
余談だが行きつけのうどん屋も原油価格高騰に伴う小麦価格の上昇でついに値上げが断行され、
私はそれに対抗すべくサイドメニューであるおにぎりの注文を現在自粛している。
石油は政治的にも生活的にも非常に重要な物資であることには間違いない。
ただ、専門家以外には石油の仕組みがいまいち理解しにくいのも実情である。
最近セルフスタンドで軽油を誤って給油してしまうトラブルが多発しているが、
これは「軽油は安いし、軽自動車に軽油を入れても問題ないじゃん」という
誤った基本的認識を持っているからであり、それほど石油に関する感覚は疎い。
本書は中央省庁でエネルギー政策を担当してきたその道の”プロ”が
世に蔓延る誤った石油認識を正し、今後のエネルギー戦略をマッピングした一冊だ。
サブタイトルの「地政学的発想を超えて」がこの本を貫く大きなテーマであることに着目したい。
石油は国際石油市場で取引される「市況商品」だが、
未だに旧来的な地政学的発想が幅を利かす「戦略商品」でもある。
第二次世界大戦で日本が戦争へ走ったウラの理由は”石油供給の確保”だったが、
今でも戦争スレスレの資源外交を世界各国は積極的に展開しており、
そのアグレッシブさが逆にリスクを高めているという悪循環に陥っている。
さて我が国に目を向けてみると石油輸入の9割を中東に依存しているのが現状だ。
また、中東産油国の防衛を担当しているのは他ならぬ米国であり、
日本のシーレーン防衛も制海権も事実上米国が”世界の警察”として掌握している。
故に米国を怒らせてしまっては中東からの原油が途絶えてしまう危険性が現出してしまう。
なのでパワーゲームの観点から日本は米国の国際戦略を追従していくべきであり、
自衛隊の給油活動を中止するなんて米国の機嫌を損ねるだけに言語道断だ…
…これが資源・エネルギー政策を巡る国際政治の専門家の大勢を占めるオピニオンである。
しかし著者はこのような意見とは少し違った考え方を本書にて提起している。
地政学的視点だけに捕らわれた狭い視点から日本のエネルギー戦略を構築するなという考えだ。
「やみくもに自給率向上や特定産油国との特別な同盟的関係の構築を考えるのではなく、
多様化・リスク分散・バランスの取れたポートフォリオのためには
何が適切なのかを考えるべきである」 (p176)
つまり中東だけに依存を集中させるのは万が一の時にあまりにリスクが高すぎるのである。
ご近所であるアジア太平洋地域にも石油資源は潤沢に眠っているわけであり、
アジアへの資源開発を促進していけば日本にも国益としてリターンがくることを忘れてはならない。
それに中東地域が万が一政治的な危機に陥って、世界中に戦争の機運が高まったとしたら、
非常事態のために原油供給は却って争点ではなくなるという何ともリアリストな意見も痛快だ。
そこで著者は我が国が採るべき新しい戦略として天然ガスの重要性について提言している。
天然ガスは豊富に埋蔵されている化石燃料であり(ただし石油より採掘しにくい)、
CO2の排出量も少ないために環境負荷の軽減も期待されている。
世界的にも石油から天然ガスへとエネルギーの趨勢はシフトしていて、
「石油企業」という呼び名は死語に近づきつつあるのが実情なのだ。
ただ本格的に天然ガスを導入するとなると、現行のLNGですべてを賄うのには限界があるため、
パイプラインの敷設を全土に遍く行うことは避けられそうにない。
そうなってくるとインフラ敷設には膨大な資金が必要となるので、
天然ガスをエネルギー政策の中枢に据えるか否かは政治の判断を待ちたいところだ。
「中長期的な将来は予測できないとの謙虚な態度が不可欠であり、
経済合理性が前提であるのは言うまでもないものの、
将来に向けての保険的な施策は、いつの時代にも必要なのである」 (p169)
また本書を読んでいると我々が抱いている石油認識がいかに誤っているかも再認識させられる。
今回の原油価格高騰の原因は政治的要因というよりも投機マネーの過剰流入にあると言えるし、
教科書にも登場するメジャーに価格決定権などは全くないし、
世間では”最強の談合組織”として知られているOPECにカルテルを組む力はもはやない。
もっといえば石油自体も当分枯渇することのない潤沢な資源なのだ。
一つの市況商品として石油の動態を観察しているとその性質は実に奥深いことがわかる。
あなたもそんな石油について本書で深く知ってみませんか?


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