BOOK REVIEW 163 朝日新聞ロスジェネ取材班『ロストジェネレーションの逆襲』

ISBN 978-4-02-273177-7ロストジェネレーションの逆襲
朝日新聞ロスジェネ取材班
朝日新聞社 2007-10-30
[朝日新書 77]

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今年の参議院選挙では民主党が過半数の議席を獲得するほどの大躍進を遂げたが、
そのキャスティングボードを握ったのが『ロストジェネレーション』の存在だった。

『ロストジェネレーション』とは朝日新聞が命名した新しい世代概念で、
バブル崩壊後の就職”超”氷河期に社会へ飛び出し、
格差社会や非正規雇用などに代表される”失われた10年”によって
辛酸を舐め続けた現在25~35歳の世代のことを指す。

団塊の世代のようにヘルメットをかぶって学生運動するほどの気力はないし、
特定のイデオロギーにも支配されず、伝統的な価値観が絶対だとも思わない。
だけど不安だ。とにかく不安だ。そもそも「夢」というのはこの世にあるのか。
あまりにもモヤモヤしすぎていて未来が全く見えず路頭に迷う若者たち--

そんな『ロスジェネ』に対して今まで政治はあまりにも放置プレイをしすぎていた。
利権に雁字搦めにされた政策は若者を都合の良いよう搾取した後に切り捨て、
若者を熱狂の渦に巻き込んだ小泉内閣が盲信した新自由主義的な構造改革も、
一番改革の痛みが直撃したのは誰よりも小泉を支持していた若者だった。

『ロスジェネ』はそんな非情な仕打ちに耐えた。しかしもう黙っていることはできない。
”オレたちだって政治参加したいんだ””日本をめちゃくちゃにするな”
マグマが火口付近にまで噴き上がり、ロストジェネレーションの逆襲がついに始まったのである--
本書はその逆襲が今どんな場所でどのように起こっているのかを取材・分析した気鋭の一冊だ。

参院選の前に行われた今年4月の統一地方選挙では、
全国各地で『ロスジェネ』世代の議員が相次いで立候補し、
次々と議席をモノにして、政界に大きな衝撃を与えたのは記憶に新しい。

今まで政治家になろうと思えば、いわゆる三バン(地盤・看板・鞄)がなければ不可能だった。
親の代から地盤を受け継いだ二世・三世議員や、知名度抜群のタレント議員や、
強力なバックを持つ利権屋でなければ当選できない”透明な参入障壁”があったのだ。

ところが最近ではその構図が見事に崩れ去り、
誰でも政治家になれる時代がついに到来することとなる(p137以降の分析が大変興味深い)。
大学構内を歩いていると必ず一つはビラがある「議員インターンシップ」はそのタネの一つで、
本書では議員インターンシップの仕掛け人や、インターンシップを経験して政治に目覚め、
実際に地方議会の議員に当選した人たちのドキュメントが収載されている。

昔のように集団を形成して過激に政治を変革していくのではなく、
独立した個人が自然発生的にネットワークを形成し、じわりじわりと政治に変革を迫ってゆく--
インターネットはまさに現代型の政治運動そのものであり、
ノンポリと揶揄される若者たちは学生運動とは別のカタチで政治に盾を突きつけていた。
そんな『ロスジェネ』に戸惑う政党の姿も本書の中では映し出されている。

若者と政治との距離を劇的に縮めさせたのは何と言っても小泉内閣の功績だろう。
小泉のワンフレーズ・ポリティクスや敵味方をはっきり峻別する政治手法は
そのわかりやすさ故に今まで政治に興味がなかった人をも小泉劇場へと取り込んでいった。

2005年の総選挙で自民党が歴史的大勝をした要因は紛れもなく『ロスジェネ』で、
あれから2年を経て改めて識者が考察したインタビューが本書に収載されているのだが、
読んでいると小泉とその後の安倍がいかに対称的であったかが浮かび上がってきておもしろい。

”利権をぶっ壊す”郵政民営化というのは若者たちにとっては非情に心地よかった。
別に自分たちは利権とは関係ないし、既得権益を打ち砕くことは希望の光と感じられたからだ。
「若者が政治と思ってみているものは完全にバーチャルのほう」 (p220) だったのである。

なので嵐のように去っていった小泉”後”、若者たちは構造改革の負の遺産に苦しめられた。
今まで自分たちが熱狂していた政治は所詮バーチャルにすぎないと初めて気付いたのだ。
そこで登場したのがご存知”権力の頂点”安倍首相だったのだが、
安倍は『ロスジェネ』の真意を完全に汲み間違え、致命的なKYをしてしまう。

だいたい明日の生活すら苦しくて、何とかして欲しいと政府に懇願する人が多いのに
憲法や国防を勇ましく語って争点にしても、そもそもリアリティがないではないか。
「だから何?」「どうせお前らだけがいい思いするんだろ」「それよりも仕事くれ」の世界なのだ。
「小泉さんへの支持を右翼的な方向だと勘違いしていたのだろうか、
 安倍さんは方向を見誤ったと言わざるをえない」 (p178)

さらに危機管理能力のなさやリーダーシップの欠如も相まって
小泉を熱狂的に支持した『ロスジェネ』は安倍に露骨に拒否反応を示し、
それが参院選の自民大敗へと繋がっていった。『ロスジェネ』をナメることはもう出来ない。
そして総選挙、ついに日本は……へなっていくのか??

ロストジェネレーションは様々な側面から考察することが出来るのだけれども、
本書では政治的な側面に絞って若者たちの実情をジャーナリスティックに伝えている。
政治に興味を持つ『ロスジェネ』なあなたも、そうでない『ロスジェネ』なあなたも、
来るべき総選挙を前にぜひ読んでほしい一冊だ。

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