BOOK REVIEW 151 藤堂志津子『ふたつの季節』

ISBN 978-4-344-40997-2ふたつの季節
藤堂 志津子
幻冬舎 2007-08-10
[幻冬舎文庫 と-1-16]

by G-Tools


「彼ってああいうところがサイアクで、私のことは全然考えてもくれない...あの人と早く別れたい」

こう相談されたら"じゃあ今すぐにでも別れればいいじゃん"なんて私ならば言ってしまいそうだ。
が、たいていの場合は何かに理由を付けてなかなか別れに踏み切らない。
「ふいに見せる優しさが好きだ」「あの人にも良いところがある」「男らしさには惹かれる」...
そうやって二人はダラダラと付き合い続けていく。しかしそれは愛なのか。
愛がなくても恋人同士でいれるならば、その相手は必要十分条件ではあるまい。

今回ご紹介するこの作品はそんな生々しい恋人同士の実情を浮き彫りにしている恋愛小説だ。

製薬会社に勤めていた29歳の多希は留学を決意し単身渡米することになった。
何になるわけでもない。何がやりたいわけでもない。
留学の目的は努力というものを怠って中途半端に生き続けてきた今までの自分に
別れとケジメをつけるための"自分との闘い"であった。

留学先はカリフォルニアのコミュニティ・カレッジ:DVC。
日本と違ってアメリカの大学は入学するだけならばそれほど難しくはない。
だが卒業することがかなり難しく、毎日机に向かってひたすら勉強し続ける日々を多希は送っていた。

その甲斐があってか多希はDVCでもトップクラスの成績を獲得することができ、
名門校への入学という次なるステップが見えてくる。"努力すれば私だって出来るんだ...!"
そんなときに知り合ったのが同じDVCに籍を置く8歳年下の日本人:領だった。

領からは毎日のように電話がかかってきて、そのたびに多希の勉強時間が削られる。
一分でも勉強時間に割きたい多希はそんな彼の行為を最初こそ厭っていたものの、
異国の地での重圧と孤独感が次第に彼への思慕へと変質していって、
気が付けば多希と領は男と女の関係になっていた。

お互いが切磋琢磨しあって卒業を目標に有意義なキャンパスライフを送る青春の日々......
そんな理想的かつ定石な恋愛像とは裏腹に物語は真逆の方向へと急旋回していく。

まず彼が授業をサボり始めた。就労ビザもないのにアルバイトに精を出す日々。
さらに友人の話によると白人美女・アンにも気がありデートを重ねているらしい。
キャンパスでアンに偶然出会すと人種差別的で嫌みな優越感が多希に向けられる。

私とアン、どっちがいいの?アンが好きならもう私と別れたほうがいいんじゃない?
だが返してきた言葉はダメ男特有の優柔不断な戯言だった。

「でも、おれには多希が必要なんだ。身勝手なのはわかっている。
 アンは必要とまではいかないけれど、でも手放せない」 (p97)

つまり多希は保険だったのだ。傍から見ると実に都合の良い恋愛のカタチ。
しばらくして領はアンと恋仲に発展し、捨てられた多希はDVCを卒業してバークレー校へと入学した。
放校宣告の警告を受けていた領は起死回生を賭けて進路を音楽へと転換させる。
そして「アンとは別れた」(これも後日ウソだったことが暴かれる)と言って多希を安心させ、
音楽活動にかかるカネをアンではなく多希に泣き言を言いながらせびる領。

このときから二人のパワーゲームは逆転し、
「以前は多希が領を失うことにおびえ、現在は彼が多希を手放すまいとすがりついていた」 (p170)
状態へと変わっていった。

さらに多希も領の友人であるトニーと男女の仲となり、トニーを保険に据えて領に応戦。
多希と領の間には食いつ食われつのサバイバルな関係が恒常化していく。
お金にピンチになった領はげっそりと瘦せ細るほど働き、そのストレスの捌け口が多希に向けられ、
毎晩の領からの電話で勉強時間を奪われた多希の成績は下降の一途。そして二人は.........

どんなに裏切られても、どんなに失望しても、どんなに暴言を吐かれても、二人は離れない。
お互いが詮索し合い、一緒にいることが精神に変調をきたしても、二人は別れを選択しない。
相手への感情が憎いのか愛おしいのか、それすらもわからない。

でも二人は恋人関係。定期的に会って、二人はココロを依存し合う。
その恋愛の本質をあなたは400字以内で説明することができるだろうか。
もし説明できないのならば、本書をよく読んで二人を取り巻く"微妙な空気"を感じ取って欲しい。
そこにこそ本書が提示している核が隠されているのだから。

こんな恋愛で良かったら。

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