![]() | イスラムに負けた米国 宮田 律 朝日新聞社 2007-07-30 [朝日新書 54] by G-Tools |
2005年11月16日、ブッシュ大統領が小泉首相(当時)と共に入洛した際に演説が行われた。
その演説で大統領は「自由」という言葉を85回、「民主主義」という言葉を16回もスピーチに織り込み、
アジア版ブッシュ・ドクトリンを熱く語っていたのが今でも印象に残っている。
なるほど確かにアメリカは自由と民主主義の国だ。
イラク戦争の表向きの大義名分は「自由と民主主義」をイスラム諸国に普及させるためであり、
正義の味方であるアメリカ様がテロやイラクといった"悪"を駆逐するという実にわかりやすい構図であった。
それならばなぜイスラム社会はあれだけアメリカを拒絶してブッシュを憎むのだろうか。
政治に蔓延る"悪"を一掃してくれるならばもっと現地で歓迎されても良いはずなのだが、
一般市民までもがアメリカにそっぽを向け、ジハードは終わる気配を一向に見せない。
その理由を探究したのが本書で、そこにはイスラムに嫌われても仕方のない知られざる超大国の姿があった。
現在のアメリカの中東政策が宗教右派とユダヤ・ロビーによって牛耳られていることはよく知られている。
故にイスラエルに対してはかなり甘いスタンスをとっており、そのことが中東諸国の反発を招いているのが現状だ。
テロ行為を行っているのはイスラエルも中東諸国も同じなのに、
なぜ中東諸国のテロだけが国際的に糾弾され、イスラエルのテロは「正義」と片付けられてしまうのか。
このことに関してブッシュ大統領はテロとは一体何なのかという定義の説明を未だに拒んでおり、
すなわち 「アメリカの意に沿わない勢力の活動はすべて「テロリズム」とされている」 (p214) 現実がここにある。
こういったアメリカのダブルスタンダードはイスラムの人々の信頼を蹂躙し続けている。
アメリカが9.11テロ後に"報復"としてアフガニスタンへ侵攻したことは今も記憶に新しい。
そのときにアフガンの政権を担っていたのがタリバンで、アメリカは"諸悪の根源"としてタリバンを攻撃したが、
そもそもタリバンを国際的なテロ組織へと成長させたのは他の誰でもないアメリカ自身なのである。
「アメリカは、イランの「イスラム原理主義」の封じ込めを唱える一方で、
アフガニスタンでは急進的なイスラム主義を助長することによって、
共産主義に対抗することを考えていたのだ」 (p118)
と本文にあるように、旧ソ連のアフガン侵攻時(1979)にアメリカはタリバンを味方につけることによって
アフガニスタンの共産化を阻止し、エネルギー資源の権益を確保しようとしていたのだ。
タリバンがアメリカと戦った際に使用された武器は過去にアメリカから供与されたものなのである。
さらに言えば、イラン・イラク戦争(1980-1988)のときにアメリカが支援したのは後に天敵となるイラクであり、
(イラク戦争の大義となった大量破壊兵器の脅威は実はアメリカが撒いた種であるという笑止千万)
イラン革命(1979)で転覆された当時の腐敗した王政を全身全霊でサポートしていたのは他ならぬアメリカであった。
また中東の地で行われる「自由」で「民主主義」的な選挙で躍進するのはいつもイスラム原理主義勢力であり、
この事実からまさにブッシュの思惑通り中東でも「自由」や「民主主義」が機能しているはずなのだが、
なぜかアメリカはこの民意を認めず、「民主主義」とは相対する権威主義的な政権を作り出そうとしている。
あらぬ濡れ衣を着せられてアメリカに国連の合意を得ず勝手に攻撃されたイラク。
ビン・ラディンとは何の関係もないのに9.11テロの報復の対象とされたイラク。
報道されない片隅でイラク市民を大量に殺戮している米兵。
「石油が欲しい」「利権が欲しい」「イスラム教が憎い」...本能剥き出しのアメリカの暴走は止まらない。
「イラク戦争は国際テロリズムを一掃できなかったばかりか、テロをいっそう増加させてしまった」 (p248)
そんな現実を前にして日本は一体何をやっているのだろう。
イスラムを植民地化したり戦火を交えたことがない日本だからこそ出来る役割がたくさんあるはずなのに、
現実を見ると理念を捨ててアメリカに盲従して、それを国益と思い込んでしまっている機能不全な政府がいる。
もともと日本には外交戦略の支柱など皆無に等しいが、それにしてもこの有様はひどすぎる。
何のために自衛隊を派遣しているのか。そもそも自衛隊を派遣する必要があるのか。
イスラム社会から見ると資源を求めて侵入してきたアメリカはテロリスト以外の何物でもない。
そんなアメリカだけにいい格好をして自衛隊を派遣することが国益に適うとは私には到底思えない。
イスラムvsアメリカの現在と未来を知るために読んでおきたい一冊。


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