BOOK REVIEW 127 歌田明弘『ネットはテレビをどう呑みこむのか?』

ISBN 978-4-7561-4933-6ネットはテレビをどう呑みこむのか?
歌田 明弘
アスキー 2007-06-26
[アスキー新書 16]

by G-Tools


『放送と通信の融合』が各所で叫ばれるようになって久しい。

10年前のナローバンド全盛時代においては放送と通信の間に明確な壁が可視化できた。
テレビのような鮮明な映像を通信技術が映し出すことは当時不可能であったし、
パソコンもそれほど普及しておらず、何よりもWeb2.0的な考えを持つ者が誰一人としていなかった。
なのでテレビは茶の間の一等席を独占し続けて、我が世の春を謳歌していたのである。

が、ブロードバンドが全国規模で敷設された現代において両者の区別はもはやないに等しい。
光ファイバーはデジタルテレビ並の高精細な映像配信を可能にしてテレビ放送の意義を薄れさせつつあるし、
昔のように人々の意識がテレビ一辺倒に向けられた時代もとっくの昔に終焉を告げている。
GyaoやYouTubeなどといったネットコンテンツが茶の間のテレビから恒常的に視聴できるようになったら、
殿様商売で扇情的な番組をひたすら垂れ流す地上波テレビ局は果たして生き残れるだろうか。

そうなのだ、ネットがテレビを呑みこむ日は刻一刻と迫りつつあるのだ。
本書はネットがテレビをどのようにして呑み込んでいくかの流れを様々な角度から検証し、
『放送と通信の融合』の先にある未来像を描出した意欲作である。

このまま融合が進んでいけばテレビ番組が単なる一つのWebコンテンツに成り下がってしまうことは確実だろう。
動画編集ソフトを用いて個人的に作成した映像と予算数千万のテレビ番組が同じ商品棚に陳列されるのである。
そうなったときに今のテレビ番組は既存の視聴者を繋ぎ止めておくことができるか否か。

グルメ情報やタウン情報は地元が取り上げられている番組を見るはずであろうし、
個々人の趣味嗜好に応じて細分化されたマニアックな番組が次々とWeb上で制作されて
動画表示装置としてのテレビにオンデマンドで映し出すことを可能にすれば、タイムテーブルの意味は全くなくなる。
限りある時間をわけのわからない番組を視聴することに費やすほど人々は暇ではないのだ。

だからこそテレビ局の抵抗は尋常でないほど激しく、放送と通信が融合したらテレビ局は単なる番組制作会社に過ぎなくなる。
しかし皮肉にも既存のビジネスモデルの崩壊は日に日に進行しており、テレビ局も焦燥と迷走を繰り返して出口が掴めない。
この一部始終は第3章にて詳述されているので"改革の矛盾"を理解するためにもぜひ読んでみていただきたい。

さらに深刻なのは広告収益に関するビジネスモデルの変革だろう。
御託宣のように電波で注がれたテレビCMを大多数の人がすでに見ていないという衝撃的な事実が近年明らかになったのだ。
(本文にて著者は調査結果を自分たちに都合良く曲解している電通を徹底的に批判している)

HDDの登場によってCMを完全カットすることがすでに可能となり、
ある調査に寄れば実に半数以上がこのシステムを使ってCMを全く見ていないという。
さらにテレビをリアルタイムで視聴していてもCMになると席を立つ人も少なくなく、
実際にCMを番組と同じようにきちんと視聴している人の割合はもはや一桁に過ぎないのだ。

そうなればテレビを介して数千万円を出して不特定多数に広告を流すよりも、
ネットでピンポイントに広告を出したほうが遥かに有益でコストも圧縮できる。
詳細は第2章で書かれているが、テレビCMの価値がなくなったらテレビ局はいよいよ廃業せねばならない。

さて他には第4章にて政治レベルで放送と通信はどのように扱われているかを詳説していて、
最後の章では《"群衆の叡知"の真実》と題して大衆レベルでどのような影響を与えるかを考察している。

ブログがあれば誰でも評論家になれ、ネット主導で世論がどんどんと形成されていく。
しかし一次情報はほとんどが既存のメディアによる報道に依拠している上に、
日本特有の「長いものには巻かれろ」的な付和雷同ポピュリズムが真実を歪める危険性も出てきた。

ネットはそう遠くない未来にテレビを100%呑み込んでいくだろう。これは間違いない。
技術レベルにおいて私たちにとって非常に恩恵があることは確かなのだけれども、
その一方で政治レベルにおいてネットが全権を掌握する状況は果たして良いことなのだろうか。
衆愚政治が復活して権力の暴走を許し、「いつか来た道」を再び歩んだりはしないだろうか。

ネットを題材にした本はどうしてもビジネスや技術の視点だけで議論が収斂してしまいがちだが、
本書は普段あまり触れられない政治的な問いも提起していて非常に鋭い。故におもしろい。

ネットとテレビの未来を知りたいあなたに必読な一冊。

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