BOOK REVIEW 125 園田英弘『忘年会』

ISBN 978-4-16-660540-8忘年会
園田 英弘
文藝春秋 2006-11-20
[文春新書 540]

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季節外れも甚だくて申し訳ないのだが、今日は忘年会に関する本をここにご紹介したい。
といっても忘年会にて披露する宴会芸の極意について綴られたハウトゥーものではなく、
忘年会を学術的見地から考察していった"史上初"の本格的な試みだ。

忘年会は今やほとんどの国民が何らかのカタチで参加する国民的行事であると言って良い。
しかしその定義は非常に曖昧で、そもそも何を持って忘年会と呼ぶのかが今一つよくわからない。

同じ伝統的行事であるお正月やクリスマスならば性格や風習などが聢りと人々に定着していて、
まかり間違っても成人の日におせち料理を食べたり大晦日にサンタさんがやってくることはないが、
忘年会の場合は日付の縛りもなければ宗教的な性格もない。もっと言えば別になくたって支障もない。

なのにも関わらずどうして日本人は忘年会の魅力に取り憑かれているのだろう。
そんな謎を数多くの文献から歴史的に解き明かしていったのが本書であり、
その考察たるや実に秀逸で完成度は名著の域に達しているといっても過言ではない。

忘年会の起源は室町時代にまで遡る。
当時は「忘年会」という言葉がまだ生まれておらず、意義もはっきりとしていなかった。
(「年忘れ」のために会をするという概念すら当時の人々は持ち合わせていなかった)

その傾向は基本的に江戸時代にも継承されていき、
明治時代になって初めて現在の忘年会の姿へと劇的に変貌していく。
まさにそれは全国民を巻き込んだ 「広範な文化革命」 (p73) であり、
今まで一部の富裕層のみの宴会だった忘年会も徐々に市民権を勝ち得ていくこととなる。

これだけでも丹念に資料を整理して適切な思惟をしていかないと導いていけない結論だが、
本書は背景にも鋭いメスを入れ、忘年会の性質変化についても一考を加えている。

「江戸時代の忘年会が、既存の人間関係を維持させるための集まりだとするならば、
 新しい近代の忘年会は、近代化を急ぐ時代の人々のために、
 人間関係の開拓という役割を期待されていたといえるだろう」 (p56)

士農工商から四民平等へと政策が転換され、同時に人間の動きも流動的となり、
対人関係や経済的地位の安定を図るためには何らかの社会的なファクターが必要となってきた。
そこで最も活用された安定化装置が当時は忘年会だったというわけだ。

しかし女性や子どもを蚊帳の外へ置いて"酒と女"にまみれた乱痴気忘年会が当時の主流であったことも事実である。
そんな中で公然と飲酒をするのはクロだったこの時代の女性にスポットを当て、
男の忘年会に対抗した"女たちの忘年会"について画期的な事実を照射している箇所は見事であり必読だ。
嗚呼 男とはいつの時代もなんと我が儘な生き物なのだろう。

その後、戦中は自粛されたものの戦後は更に忘年会ブームが加速していく。
だんだん忘年会が巨大化していき、地位も単なる宴会ではなく会社にとっての公的行事へと昇格していったのだ。
近年は 「大衆忘年会が「分衆」忘年会へと、豊かな時代にふさわしく変化した」 (p158) ので、
かつてのような社員全員が入り交じってのドンチャン騒ぎはあまり見られなくなったが、
忘年会パワーは部課や人間関係ごとに分節されて未だに健在である。

ちなみに「忘年会は日本独自の行事」という世間でよく聞く風説は全くのウソで、
もともとは中国からやってきて、長い年月をかけて日本流にアレンジされたのが現在の忘年会のカタチとなっている。
また東アジアの漢字文化圏(特に韓国)では日本以上に忘年会が活発である上に、
アメリカだって見方を変えれば忘年会大国であると言えてしまうのだ(詳しくは本書第五章を参照)。

しかしこれだけ時代が変わって、これだけ西欧ナイズされた日本の文化に身を浸していても、
未だに忘年会の会場に和風居酒屋や座敷が大いに支持される現実は興味深い。
忘年会はイメージ的にワインではなく酒であり、ナイフにステーキではなく箸に刺身ではないだろうか。

今年の忘年会に備えて夏から読んでも損ではない一冊。

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