BOOK REVIEW 124 桜井亜美『チェルシー』

ISBN 978-4-06-275757-7チェルシー
桜井 亜美
講談社 2007-06-15
[講談社文庫 さ-89-1]

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統計によると日本での自殺者は年間3万人を超えているそうだ。
交通事故で命を落とす人が年間約7000人なので、自殺が現代社会においていかに多いかがよくわかる。

中でも最近俄に増え出してきたのが自殺サイトを舞台とした集団自殺だ。
一人で死ぬのは心細いということなのか掲示板で自殺願望のある同志を募り、
車に乗り込んで練炭等を燃やして一酸化炭素中毒で自らを殺めるこのやり方は
血を見ずに死ねる手軽さからか事件が頻発して社会問題ともなった。

心に何かしら悩みや問題を抱えているから彼らは自殺の衝動に駆られるわけだけれども、
本気で心の底から死にたいと思っている人はほとんどいない。
本当に死にたいならば新幹線へ飛び込むなり猛スピードを出してガードレールに突っ込んだりなど
今すぐにでも一瞬で確実に死ねる方法がたくさんあるにも関わらず、
大量に服薬したりリストカットをしたり等の未遂率の高い寸止めの方法をわざと選ぶのは
「死にたい」のではなく逆に「生きたい」という何よりの証拠ではないか。
さらに言うならば「生」への欲求が強いからこそ生や死を対比してあれこれと思索を巡らせるのではないだろうか。

そうなのだ、結局みんな生きたいのだ。
生きづらい世の中かも知れないが、生きることを放棄するほど残酷な世の中でもない。
それでも死のうと思っている若者たちがここにいた---

今回ご紹介する本書は自殺サイトの掲示板で出会った若者4人が
富士山の山麓で備長炭を用いて集団自殺を決行しようとする物語で、
登場する4人の男女はそれぞれに大小様々な悩みを抱えている。

主人公の「チェルシー」は高校生の女の子で、幼き頃から周囲との見えない軋轢を感じていた。
日常生活でも独りで行動することが多く、存在を心から受け入れてくれる人もいない。
家でも学校でもひたすら自分を取り繕ってもう一人の自分を偽装する毎日。
これから歩んでいく人生を思うとき、ふと彼女は底無しの絶望感に心を支配されてしまう。

「人間という生命形態を憎むあたしが、そんな重いノルマを果たしてまで
 生き続ける理由はどこにあるんだろう?」 (p39)

やがて彼女は自殺サイトに入り浸るようになり、自殺決行のためのツアーを企てる。
そしていざツアーが始まって大自然の中で自殺を敢行しようとするのだが、
自然の畏敬さや「生」の息吹に直に触れてだんだん彼女の中に生きる希望が目覚めていく...
獣に堕ちた物理的行為にしか感じていなかったセックスですら悦びを情懐し、
初めて目にした死体を前にして「死」の本質というものを彼女は知覚し始めた。

老衰による大往生は別として、穏やかな死というのはありえない。
苦しんで苦しんで、涙という涙を流しきって、人はこの世から去っていく。
特に人生で最も生気に満ちた若者の死は負の反動が強いせいか悲愁そのものだ。
そんな悲惨なことに向かってエネルギーを使う勇気や労力があるのならば、
現実の困難を乗り越えるほうに振り分けてみてはどうか。それが人間たる条件ではないのか。

表現がとてもきれいで、樹海が眼前に思わず現れたかのような活写が瑞々しい。
本書を取り巻く透明感のある澄んだ文体が死に附随しがちなダークさを払拭していて、
あるがままの生死の姿が顕露されている。それだけに鬱屈な描写もあまりなく全体を貫くトーンもどこか美しい。

「自殺と生」について大いなるヒントを与えてくれる一冊。

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