![]() | パラレル 長嶋 有 文藝春秋 2007-06-10 [文春文庫 な-47-3] by G-Tools |
『なべてこの世はラブとジョブ』
挑発的な帯コピーが私の目の中を駆け抜けていく。
なるほど一見複雑な形相を呈しているこの人間社会も
蓋を開けてみればラブとジョブの二元論に帰結してしまうってわけだ。
アフターファイブに居酒屋で愚痴を吐くサラリーマンやOLの話題なんて
まさにラブとジョブのフィーリングカップル5×5ではないか。
貰えるかどうかわからない年金よりも今晩ホテルで"挿入"出来るかのほうが遥かに死活問題であり、
コムスンのジュリアナ社長は介護を食い物にする血も涙もない鬼畜だと激しく瞋恚しつつも、
実は誰よりもヒルズ族の一員を狙ってチョメチョメなウルトラCを画策している---
オトナって本能剥き出しの粋なバカではあるけれど、不思議と人を惹きつけるロマンだけはたくさんあって、
本書はそんな絶妙な世界観を見事に体現した問題作だ。
主人公の七郎はただいま失職中の30代バツイチ♂。
元はと言えば妻の浮気が原因で向こうが勝手に出て行ったのだけれども、
離婚する前に別居というインターバルをきちんと置いていたせいか決して険悪な関係ではない。
むしろ馴れ馴れしいメールが毎日のようにケータイへ入り込んでいる。
でも新しい彼氏いるんだろ?復縁を望んでるわけじゃないんだろ?
なのになぜ自分は元妻が風邪をひいたら真っ先に看病へ行ってしまうんだろう。
好きや嫌いという区分を超えた微妙な男女関係がここにあり。
また、独り身生活になってからますます昔からの友人である津田にコミットしている自分もいた。
仕事はなかなか出来る奴らしい。しかし女癖が悪く、津田にとっての彼女はイコールセフレだ。
そんな典型的なラブとジョブ人間でも結婚式のスピーチでは結婚とは何たるかを牧師風に説く。
それが世の中。建前さえよければ中身は発泡スチロール、それがこの世界。
本書では村上春樹的な手法を用いてストーリーがパラレルに交錯していく。
さしたる展開もないのに物語の世界観にこれだけ入り込ませる筆力はすごい。
そして常に底流に流れている冷めたピザのような視線のクールさもたまらなくいい味を出している。
30代ともなると少年少女のような青い夢を抱くことがだんだん出来なくなってきて、
迫りくる老いに嫌悪感に似た戦慄を感じ出してくる時期であると思うが、
そんな限りなく曖昧で本能を燻るフェロモン全開なこの時期特有の"脂"が
この物語には非常に濃く放出されている。それだけに内容がリアルすぎる。
主人公、元妻、色男の津田、キャバ嬢...
あなたの周りの人間関係だって演繹すればこの物語で描かれている村雨なカンケイではないだろうか。
一筋縄ではいかない重量感のある人間ゲームを描いた梅雨の季節にぴったりな一冊。


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