BOOK REVIEW 117 重松清『卒業』

ISBN 978-4-10-134919-0卒業
重松 清
新潮社 2006-12-01
[新潮文庫 し-43-9]

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『VERY GOOD だいぶイケそうだ 旅立ったら消せそうじゃん
 今度は何を歌おうか? 卒業おめでとう ブラブラブラブラ』

THE YELLOW MONKEYの『プライマル。』を聞くと「卒業」という言葉がいつも脳裏をかすめる。
別にこの曲が流行っていた時期に学校を「卒業」したわけではない。
ただ、あのとき私は「卒業」をした。人生における一つのフェーズから確かに「卒業」を果たした。

何かが終わり、何かが始まる--
「卒業」という言葉にはそんなニュアンスが含有されていて、
寂しさや悲しさと共に力強さや希望が現前に湧き上がってくる。

「卒業」を前にして人は自分の人生をどう述懐するのだろう。

本書は人生のそれぞれのシーンでの「卒業」を描いた作品集だ。
といっても「みんなで競った 運動会(うんどーかい)」と体育館でこだまさせる「卒業」ではなく、
各作品の底流を貫くメインテーマは"親の死"であり、
遺された主人公たちは家族、親、人生について深い思索を巡らせながら答えを見つけ出していく。

『まゆみのマーチ』ではどんなに悪いことをしても娘だけには決して怒らなかった母の死。
『あおげば尊し』では死ぬ間際になっても誰一人として教え子が来なかった堅物な父の死。
『卒業』ではお腹の中に命を宿した妻を置いて突然決行された父の自殺。
『追伸』では病身であるにも関わらず一人息子へ愛情を注ぎ続けた母の死。

それぞれの「死」の現実が、遺された主人公に重くのしかかる。
人は誰しもがいつかは必ず「死」を迎え、もっと言えば死のうと思えば今すぐにでも死ねるのだが、
かといって放っておいたらすぐに死ぬほど人間は柔な存在ではない。

「生」は人間の本能が有している根源的な欲求であり、
だからこそ「死」という現実に人は脅え、「死」の存在は心を錯乱させてしまう。
そしてややもすれば「死」は人生の軌道修正をも迫らせる...

中でも強く印象に残ったのは最後に収載されている『追伸』という物語だ。
主人公が6歳の時に病気で母は亡くなってしまい、数年後に新しい母が家にやってくる。
しかし感受性豊かな主人公はどうしても新しい母と馴染めなかった。

「僕はあのひとから生まれたのではないし、あのひとに育ててもらったのでもない。
 僕の「お母ちゃん」は、この世に、一人きりしかいない」 (p326)

新しい母に子どもができる。でもその子の母と主人公の母は違う。
だから新しい母のことは決してお母ちゃんとは呼ばない。
どれだけ醜い仕打ちに遭っても絶対に呼ばない。
反抗に反抗を塗り固めたような毎日が過ぎてゆく。
気がつけば新しい母の存在を完全に消していた主人公がいた。

そして大人になって...初めて気付く「母」の思い。自分の愚かさ。
亡き母との「卒業」、新しい母との「卒業」。
重いテーマなのに妙に温かい読後感が心に沁みる。

ぜひ本書を読んで「卒業」について深く考えてみて欲しい。
そう、やがてやってくる大切な人との別れの時までに。

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