BOOK REVIEW 115 朝日新聞特別報道チーム『偽装請負』

ISBN 978-4-02-273143-2偽装請負―格差社会の労働現場
朝日新聞特別報道チーム
朝日新聞社 2007-05-30
[朝日新書 43]

by G-Tools


「失われた10年」が過ぎ去り、景気回復の声もちらほらと聞こえるようになってきた。
中でも大企業の好調振りは目覚ましく、失業率も9年振りに3%台へと改善して、
一見すると日本の経済は統計上何の問題もなく成長しているかのように見える。

しかしこの好況を支えている屋台骨が今、大変な社会問題となっているのだ。
驚くべきことだが、日本中のあらゆる企業グループで違法な労働実態が蔓延していて、
皮肉にもその違法な労働実態こそが表向きの日本経済を支えている現状がある。

もちろんそれで良いわけがない。環境を無視した経済成長が地球に壊滅的打撃を与えたように
労働環境を無視した経済成長も長く続けば人々が暴発し社会が大混乱に陥るのは歴史が証明している。
そして日本もかなり危ないところまで来ているというのを本書は鋭く示唆しており、その報告は実に衝撃的だ。

違法な労働実態の正体とは...『偽装請負』である。

本書はこの『偽装請負』の実態を朝日新聞特別報道チームが徹底的に暴いた渾身のルポだ。
正直言ってここまで実態はひどいのか、と私は読み終えてから行き場のない怒りに駆られてしまった。

喩えるならば偽装請負は「21世紀型奴隷制」だ。

形態は「請負」なのに実質は「派遣」なので、企業は労働者派遣法の制約を免れることができる。
ということは正社員に登用する必要もなく、好きなだけ残業させることが可能で、労災が起きても責任は一切問われない。
また保険に加入させる義務もなく、おまけにいつでもクビを切ることが出来るのだ。
まさに企業側にとってものすごくおいしいシステムで、使い捨ての労働者は人間扱いされていない。
こういった労働者がいわゆる「ロストジェネレーション」世代に最も多く、
国家的な中長期ビジョンから見ても非常に深刻な事態であると言わざるを得ない。

「「偽装請負」は将来的に若年世代の成長を阻害し、
 結果的に社会の活力を失わせる可能性さえ否定できないのだ」 (p105)

しかもこのような派遣コストすらケチる非人道的な違法行為が
日本を代表する企業であるキヤノンや松下電器産業などで平然と行われているのだ。
そして正義感を持った"やる気のある"労働者が勇気を持って内部告発をすると、
すぐさま大企業による露骨な嫌がらせが始まり、しまいには存在が葬り去られてしまう。
本書ではその一部始終が実名で描かれていて、冷酷な社会の一端を知ることができる。

こんな絶望的な状態からどうやって自力で抜け出せと言うのか。
どう考えても個人のチカラで抜け出すのは限りなく不可能に近いのではないか。
埋もれている才能や能力がこんな歪なカタチで開花しないとしたら日本経済にとっても悲劇である。
キヤノンの工場にて偽装請負として酷使された労働者は国会公聴会で悲痛な訴えを起こした。

「私たち請負、派遣の労働者は生身の人間です。
 正社員と同じ仕事をしているのであれば、同じ賃金をもらいたい」 (p95)

そんな叫びを嘲笑うかのように経団連会長(キヤノン会長)の御手洗富士夫は記者会見で次のように語った。

「全然、矛盾はないと思っておりますけれども。
 というのは、うちの社員じゃありませんからね」 (p101)

自らの保身と利益のために偽装請負という違法行為を散々犯しておきながら、
「うちの社員じゃないから関係ない」と言い放つ偉い人が永田町で「美しい国」を説いている。
自分たちだけが良ければそれで良い---それが日本的経営の姿なのか。

『偽装請負』の病巣が根深いことを思い知らされる迫真の一冊。

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