BOOK REVIEW 113 東野圭吾『手紙』

ISBN 978-4-16-711011-6手紙
東野 圭吾
文藝春秋 2006-10-10
[文春文庫 ひ-13-6]

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もしあなたの大切な人や家族が何者かに殺されたらあなたはどう思うだろうか。
「罪を憎んで人を憎まず」という孔子の言葉があるけれども、
それでも犯人を憎み、相応の罪を償って欲しいと思うのは人として当然の気持ちだろう。

ではあなたの周りに殺人犯の親族がいたらあなたはどのように接するだろうか。
確かに親族が殺人を犯したわけではない。親族に罪がないと言われればそうだ。
しかし実際に接するとき、あなたは平然としていられるだろうか。
いや、そもそも平然と接して良いものなのだろうか。

そんな重い問いを突き詰めた作品がここにある。

都会の片隅に、バイトで稼いだわずかながらのお金で苦しい生活を営んでいる兄弟がいた。
高校生の優秀な弟(=直貴)をなんとか大学へ行かしたいという思いから懸命に働く兄(=剛志)。
しかし明日の生活すらも苦しく、両親を早くに亡くしてしまって頼るべき存在となる人もいない。
そこで絶望感に駆られた剛志は衝動的に強盗を決意し、結果として被害者を殺めることとなる。

強盗殺人---

何の落ち度もない被害者を殺して金品を盗むという卑劣な犯行。
人間社会に対する重大な背信行為でもあり、断じて許すことはできない。
懲役15年を言い渡された剛志は塀の向こうで刑に服することとなった。

が、剛志が服役すれば話がすべて終わりというわけではない。
残された直貴は「人殺しの弟」という重い十字架を背負いながら生きていかなければならないからだ。

直貴が幸福を掴もうとするたびに、幸福が逃げてゆく。
進学、恋愛、夢、就職、結婚、子育て...
人生における様々な場面で弟はこれでもかと言うほどの醜い仕打ちに遭う。
「兄は強盗殺人犯」という消せない過去が直貴の人生を大きく狂わせる。
幸福になりたいのに、剛志の存在が幸福を遠ざけてしまう。

それでも刑務所からの剛志の『手紙』は毎月律儀に直貴の元へ届いてくる。
剛志にとって直貴への『手紙』は生きがいそのものであり、
元はと言えば直貴のことを思うがあまりに罪を犯してしまったわけだ。
そんな兄のことを見捨てるのは弟としていかがなものか--

それでも日を増すごとに剛志の存在が憎悪に満ちてきた。
兄さえいなければ...兄さえいなければ...兄さえいなければ...
自分はどれだけ素晴らしい人生を歩んできたことだろう。こんなに苦しむこともなかったはずだ。

大学を卒業して苦労して見つけた就職先でも差別は止まらなかった。
兄は殺人犯であると会社に知られた途端、弟は売り場から倉庫へと配置転換される。
そんなとき、社長は直貴にこう呟いた。

「差別はね、当然なんだよ」 (p317)

どんな人に対してでも絶対に差別はあってはならない。
私たちは学校で先生からそう教わったはずだ。直貴もそう疑わなかった。
しかし社長はさらに話を続ける。

「君が兄さんのことを憎むかどうかは自由だよ。
 ただ我々のことを憎むのは筋違いだといっているだけだ。
 もう少し踏み込んだ言い方をすれば、我々は君のことを差別しなきゃならないんだ」 (p319)

世間から差別されること...それも"刑"の一部だというわけだ。
それほど殺人というのは重い罪なのであり、自分は免罪だと思うこと自体が「甘え」なのだ、と。
つまり直貴が社会から差別されることは当たり前のことなのであり、
それを踏まえながら直貴は強く生きていかなければならないことを社長は直貴に説いたのだ。

謝って済むならば殺人犯を重罪にする必要なんてない。
謝っても済まないことだから殺人犯は時に自らの命を持ってして償うわけなのだ。

殺人事件の分だけ絶望感に苛まれる被害者家族がいる。そして加害者家族がいる。
加害者家族を前にして私たちは何を思いどんな行動をとれば良いのだろう。

加害者家族とは何かを改めて考えさせられる名作。

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