BOOK REVIEW 111 宮本輝『青が散る』

ISBN 978-4-16-734802-1青が散る
宮本 輝
文藝春秋 1985-11-25
[文春文庫 み-3-2]

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今月、文春文庫より宮本輝の名作『青が散る』が新装版として復刊された。
新装版 青が散る 上
新装版 青が散る 下

実はこの物語、私が今まで読んできた文学作品の中でも1、2を争うほどのお気に入り作品なのだ。
青さと切なさが交錯する二度とは巡ってこない青春の一ページを見事にパッケージングし、
圧倒的なスケールと絶妙なストーリー展開で構成された世界観は他作品の追随を許さない。
大学生ならば絶対に読むべし一冊を今日はここにご紹介しよう。

大阪の新設大学へ入学することとなった主人公の燎平が
入学手続の時に偶然出会った夏子に一目惚れをするところから物語は始まる。
やがて燎平はテニス部に入部し、そこで出会った仲間たちと様々な経験を重ね、
時には泣き、時には怒り、時には絶望しながらも夏子への想いを日に日に募らせていく。

夢、サークル、仲間、恋愛、学問、死、性、旅立ち...
人生80年と言われる中で20歳前後という極めて短い時期にしか経験することのない悦びや傷み。
過ぎ去ってしまってから初めて気付く己の愚かさや可能性の限界。

この物語には青春の一コマを単にオモテだけなぞって描出するようなチープさが全くなく、
人間の最も醜いところや生々しい欲望や感情をも深層部から抉り出しているのが実に魅力的だ。
栄光ばかりが青春じゃない。だけど挫折ばかりも青春じゃない。
若者特有の揺れ動く心理をここまで絶妙な筆致で表現されているのは見事としか言いようがない。

主人公の燎平もかなり奥手なオトコで、いつまで経っても夏子をなかなか奪おうとはしない。
他の登場人物ならばとっくに奪い去っているところなのに、彼は一歩も踏み出さない。
その潔癖すぎるほどのピュアさがもどかしくもあり美しくもあるわけだが、
そんな燎平が最後の最後にとった行動には衝撃を受け、読んでいて身震いを止められなかった自分がいた。

私がこの本と最初に出会ったのは16歳の頃だ。
あれからずいぶんと時が流れ、今では私もいい年をした大人になった。
タイトルの『青が散る』という言葉の意味が今ならば痛いほどよくわかる。
そして物語に出てくる老教授が言っていた言葉も胸に深く沁みてしまう。

「若者は自由でなくてはいけないが、もうひとつ、潔癖でなくてはいけない。
 自由と潔癖こそ、青春の特権ではないか」 (p337)

いつの日か振り返ったら青春なんて目を覆いたくなるほど馬鹿げた時代なのかもしれない。
でも青春なんてそんなもの。実直なほど馬鹿でいて何が悪い。
そんな小説が新装版で復刊されたことを心から喜ばしく思う。

あなたの心を熱くさせ、気がつけば頬から涙が滴り落ちているだろう一冊。

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