BOOK REVIEW 103 市川拓司『そのときは彼によろしく』

ISBN 978-4-09-408160-2そのときは彼によろしく
市川 拓司
小学館 2007-04-11
[小学館文庫 い-6-1]

by G-Tools


"運命"を感じる瞬間が私にはある。

どうしてこの人とは今でもつながっているのだろう?
あのときなぜ自分はこの人を選んだのだろう?
このタイミングでこの人と再会する意味って何なのだろう?

こんなことロジカルかつ明晰に説明することなんて僕にはできない。
ただ、決して見えることのない"何か"がDNAレベルで連鎖反応し続けていることには間違いない。

私たちはそのファンタスティックな現象のことを"運命"と呼んでいる。

「この世界には、物理学の教科書にも載ってない強い力が一つある」 (p381)

この物語はそんな"強い力"にまつわる時空を超えたファンタジーだ。

アクアプラント・ショップを営む智史の前にある日突然一人の女性が現れた。
その美しい女性は日本中に名の知れたモデルであり、
どうしてこんな地味で辺鄙なお店へ来たのかと智史は思わず首を傾げてしまう。

が、このときすでに運命は二人の糸を急速に紡ぎ始めていた。
彼女の正体が幼き頃に楽しき時間を共有した仲間:花梨だということがわかったのだ。

---時は遡って13歳の頃、智史と花梨ともう一人の仲間である佑司はいつも放課後に行動を共にしていた。
ゴミの山から使えそうなものを探索して、ジャングルのような未知の世界を探検したり、
「ヒューウィック?」と鳴く犬のトラッシュと遊んだり...
人付き合いが苦手な智史も絵が上手でコステロ眼鏡をかけている佑司や
ボーイッシュでミステリアスな美少女である花梨には不思議と心を開くことが出来た。

泣いたり笑ったり悲しんだり怒ったり...何をするのもどこへ行くのも3人いっしょ。
永遠にこの瞬間が続けばいいのに。ずっと3人だけで時が進めばいいのに。
しかしヒトは永遠に少年少女ではいられない。いつかは必ず大人になって別れの時がやってくる。
この3人も例に漏れず離ればなれになってしまい、それぞれの人生を歩んでいた。

たとえ物理的に繋がっていなくても、運命は見えないところで回っているから人生っていうのは不思議なものだ。
この物語では"運命"を媒介としていろんな出会いが奇跡的に舞い、人々の心を潤わせていく。

老齢の境に達した智史の父、智史の店で働くイケメンの夏目くん、
智史が結婚紹介所で知り合った美咲さん、突然お店にやってきた花梨、
物語中に存在と謎が明かされる花梨の姉である鈴音、そして...佑司...

みんなどこかで絆が繋がっている。嘘のようで本当のオキテ。
智史が花梨に恋心を抱き、彼女とのファーストキスの味を十数年も忘れられず、
大人になってやっと「好き」と打ち明ける...これも"運命"ですべてが規定されていた。

そして"運命"が呼び寄せた驚きのクライマックスとは--

「誰もが誰かと誰かの触媒であり、世の中は様々な化学反応に満ちている。
 それがきっと生きているってことなんだと思う」 (p442)

ね、生きることって素敵でしょ?
温かな心に包まれる不思議な質感のするファンタジー、ぜひあなたにも心からオススメしたい。

【映画化決定!】

長澤まさみ主演の『そのときは彼によろしく』が2007年6月2日(土)より全国東宝系にてロードショー!
そのときは彼によろしく ~オフィシャルサイト~

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