BOOK REVIEW 102 中江兆民『三酔人経綸問答』

ISBN 978-4-00-331101-1三酔人経綸問答
中江 兆民/著  桑原 武夫 島田 虔次/訳・校注
岩波書店 1965-03-16
[岩波文庫 青110-1]

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憲法が施行されて今年で60年を迎える。
この60年間、一度たりとも戦渦に巻き込まれることがなく、
未曾有の経済発展を享受できたのは紛れもなく今の憲法が存在したからであり、
そこは日本人として深く認識してもっと感謝しなければならないところだ。

ところで憲法は国家の大枠を規定した最高法規である。
日常生活において憲法を意識することはまずないが、
(それが理想の状態ではある)
憲法なしで我々のありとあらゆる生活が円滑に成立することはない。

それだけに憲法を変えるときは慎重に慎重を重ねて議論する必要がある。
一部の人たちの独りよがりな利益ではなく、全国民が人生を楽しむことが可能な憲法...
なかなか理想を現実とするのは難しいが、国民レベルでの熱い議論が放棄されては決してならない。

ところで今からちょうど120年前の明治20年。国家のあるべき姿を論じたある思想書が話題となった。
今回ご紹介するのはその政治思想書で、著者は明治の思想家:中江兆民だ。

タイトルからしてわかるように、3人が酒を交わしながら自らの思想を問答し合うという
思想本としてはかなり粋な設定となっているのが特徴的な本である。
明治中期の本を今さら読んで一体何になるんだ、と思う方もおられるかもしれないが、
政治思想書の体裁をとっていながらも文学的なおもしろさがここに加味されており、
そのユーモアさと今日の日本を予測したかのような先見の明は現在でも全く色褪せていない。

とにかく理想、理想で理論を精緻に適用する紳士君。
行け行けどんどん日の丸帝国と言わんばかりに、とにかく攻めの姿勢を崩さない豪傑君。
そしてその2人を現実的な視点から見つめ直して教導する南海先生。
この3人が自らの理想とする国家観を正面からぶつけ合っていて(但し酔っぱらい)、
読んでいると思想書らしからぬダイナミックな筆致を感じることが出来る。

実際にその後日本はどういった道を辿っていったのかというと、
豪傑君の思想のようにあれよあれよと言う間に野蛮な国へと変貌していき、
結果としてかなりの汚点を歴史上に残すこととなってしまった。

その反省が日本もそうだが世界の他の国にも生かされているかどうか...
「喉元過ぎれば熱さを忘れる」で今日もどこかで爆弾が鳴いている。
理想ばかり追い求めて厳しい現実を見ようとしない政治姿勢は問題だが、
現実ばかりを直視して過去を軽視し、理念なき政治利益だけを追求し続けるのもまた問題だ。

「天下の事は、皆理と術との別有り。力を議論の境に逞しくする者は、理なり。
 効を實際の域に収むる者は、術なり」 (p187)

「術なり」...つまりは大衆を奮起させ、善導していくリーダー的資質のこと。
そんな資質が今の総理大臣に果たしてあるのか否か。私には疑問に感じてならない。

ここで一つ思ったのだが、日本もこの本の紳士君の思想のように、
オンリーワンな文化立国を目指していったほうがいいのではないだろうか。
日本の文化は世界でも類い希なる「柔」な文化なのだから、
その特色を世界へアピールして、人々が世界中から癒しを求めるために日本へやってくる...

そんな国って魅力的かつ素敵だと思わない?

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