![]() | 天国で君に逢えたら 飯島 夏樹 新潮社 2007-01-01 [新潮文庫 い-82-1] by G-Tools |
『末期ガンに襲われた世界的ウィンドサーファーが綴る、奇跡の純愛小説』
出版社の広告戦略が生々と色濃く踊る本書の帯コピーを書店で見て、
私はてっきり「セカチュー」のような物語を頭の中にイメージしていた。
が、実際に読んでみるとその予測は良い意味で外れていたことに気付く。
確かに末期ガンの患者が病魔に襲われる悲劇を描いた物語ではあるものの、
全体のトーンとしてはそれほど暗くなく、かといって読者に感動を押しつけているわけでもなく、
むしろユーモアがたっぷりと含有されていて、私は著者の人間性が凝縮されたこの世界観に好感を抱くことが出来た。
ふとした経緯から国立がんセンター中央病院の19階に設置された『手紙屋Heaven』。
ここで繰り広げられる精神科医:純一とガン患者たちとの交流の描写がこの物語のメインに据えられている。
『手紙屋Heaven』では患者の心の叫びやメッセージを精神科医が手紙に代筆するサービスを行っている。
ガンは時として命を脅かす病のため、不幸にして罹ってしまった患者の心はどうしても不安定になりがちだ。
(最近ではサイコオンコロジー(Psycho-Oncology)という学問体系も確立しつつあり、発展が望まれている)
さらに末期ガンともなると患者の心はより一層不安定な状態へと陥ってしまう。
現代医学ではこれ以上の治療が望めず、その先に刻一刻と迫ってくる「死」をただ待つのみ---
その姿はまるで死刑囚そのものではないか。存在を全否定されてるに等しいではないか。
この物語に登場してくるガン患者も皆一様に「死」への不安を抱えている。
だけど医者や看護師にはなかなか心の闇を晒したぶっちゃけトークなんて出来ず、ついつい自分を繕ってしまう。
やがて仮面の自分が体内に堆積されて、堆積された"毒"がさらに心を暗澹と浸食していく。
周囲の好意を敵意としか受け取れない自分に嫌悪感を抱きつつ、己の運命を呪っている自分の醜い為体。
そんな自分をありのままに受け止めてくれる場所が『手紙屋Heaven』だった。
「ガン患者だって、プライドや人格はあんだよ。それを野良犬扱いしやがって」 (p173)
その叫びが非常にリアルで、これも著者の飯島さんが実際に病と闘っておられたからこそ結実した文章だからに違いない。
飯島さんはワールドカップにも毎年出場するほどの世界的プロウィンドサーファーで
実業家としても波に乗り始めたときの若くしてのガン発病はさぞ無念だったであろう。
あまりのショックで飯島さんは当時うつ病などの精神疾患にも悩まされていたようだ。
ただ、壮絶な現実を前とした著者の生き様に関しては文体からも充分に伝わってくるのだけれども、
生意気ながら正直申せば文学作品の「質」としては疑問符を付けざるを得ない。
もちろん執筆事情は充分に勘案している。職業作家ではないのだから「質」を求めるのも少々酷かもしれない。
しかし散漫かつ唐突なストーリー展開となってしまっているので、物語の核が埋没されてしまっていて、
伏線と伏線が実にわかりにくいカタチで最後にまとめられてしまっているのである。
もうちょっと深く『手紙屋Heaven』での人間模様を描出し、プロットの枠をもっと強固に囲んでいれば、
さらに良い作品になっていたであろうと思うと歯がゆい気持ちに駆られてしまう。
残念ながら飯島さんは2005年2月に妻と子ども達を残し天へと旅立っていかれた。
そして2007年8月、著者が愛してやまなかったサザンオールスターズ・桑田佳祐の歌声と共に、この物語がスクリーンに蘇る。
夏に向けて読んでおきたい一冊。


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