BOOK REVIEW 84 江國香織『東京タワー』

ISBN 978-4-10-133921-4東京タワー
江國 香織
新潮社 2006-03-01
[新潮文庫 え-10-11]

by G-Tools


今、巷では年上女&年下男ブームが再燃している。
街をぶらついているお姉さま方は年齢を感じさせないくらいキレイな女性が多いし、
本来は"益荒男"であるはずの現代の若者たちもどんどん年上女に溺れていく。

20代前半の男からすると同年代の女の子はcuteで初々しくて一緒にいると楽しいけれども、
会話にもコーディネートにも腰の動きにもどこか奥深さというものが足りない。
それに対して年上女(特に30over)は酸いも甘いも知り尽くしているだけあって、
行為の一つ一つが"魔力"そのものと言わざるを得ない。年上女はまさに毒薬[Poison]だ。

今回ご紹介するのは年上の(しかも人妻)に魅了された2人の大学生の恋愛模様を綴った物語で、
透-詩史と耕二-喜美子の対称的な愛のカタチが交互に流れるように描かれている。

よく昼下がりのドラマにあるようなドロドロな不倫関係を描写しているわけではなく、
「恋愛」を「家庭」から切り離してまるで子犬を弄ぶかのように年下男と恋を楽しむという
(これは子どもがいないからこそできるセレブな遊びだとは思うのだが)
どこかクールで爽やかな感じがする実に不思議な読後感を抱く物語だ。

透-詩史はココロとココロが求め合っている純愛カップルであるのとは反対に
耕二-喜美子は蠱惑的なベッドの上で果てしなく肉欲に溺れていく。
しかも耕二は由利という同年代のかわいい恋人がいるのにも関わらず、
喜美子との情事を優先させていて(二股をかけている時点でサイテー野郎ではあるが)、
30代だからこそ出せる瀟洒な肉体に狂おしいほど耕二は酔いしれていた。

しかし一見幸福そうな恋人達も"哀しき懸想"な運命[さだめ]から逃れることは出来ない。
二人の間にはどんなに愛を捧げ合っても見えない壁が大きく直立していて、
そんな厳然としたリアルな問題の前に主人公の大学生は辟易としてしまう。

「このひとと自分は、ずっと、別の場所で生きているのだ」 (p194)

双方とも相手の世界を壊してまでも力尽くで奪い去ろうとは思っていないし、
いつまで経っても幸福になれない恋愛であることはわかっている。
普通ならばあって然るべき向こう岸へのレールがないのである。
だけども一秒でも長くこの恋物語に落ち続けていたい。

「一緒に暮らしてはいなくても、こうやって一緒に生きてる」 (p246)

甘くて苦い"若気の至り"が痛いほど前面に出ているピュアな恋愛小説、ここにあり。

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