BOOK REVIEW 82 保阪正康『医学部残酷物語』

ISBN 978-4-12-150025-0医学部残酷物語 もう医者にはなりたくない
保阪 正康
中央公論新社 2001-11-25
[中公新書ラクレ 25]

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法学部、文学部、経済学部、工学部...
大学にはいろいろな学部があるが、一つだけ別世界な学部がある。

それは医学部だ。

もちろん入学試験や学費、カリキュラム的にも他学部とは区分けが付くのだけれども、
医学部の構造そのものが他学部とは圧倒的に違うのである。

最も顕著なのは「教授」の存在感の違いであろう。

教授は大学の教員ヒエラルキーの頂点に位置する職階だが、
一般学生にとってはせいぜい"勉強を教えてくれるおっさん""近所のおっちゃんおばちゃん"で、
大学院へと進まない限りは実社会において教授の影響を被ることはない。
ましてや就職先の人事にまで介入してくる教授はいないし、そんな権利まで教授にはない。

ところが医学部の教授は違う。泣く子も黙る絶大な政治的権力を有しているのだ。
学生(又は研修医)の人生は教授に一任されたも同然で、就職先も教授によって強制的に決められる。
就職先の人事や薬・医療機器の使用に至るまですべて教授が掌握しており、
教授に楯突くことは学生にとって医師生命の終わりを意味するといっても過言ではない。

それもこれも医局講座制という封建的な制度が未だに根強く残っているからだ。
本書はそんな医局講座制を基軸とした現代の医学部にスポットを当て、
現代の医学部に蔓延る問題を洗い出し、よりよい医学部のカタチを模索した意欲作である。

内容はほぼ全編にわたって医学部の構造(特に医局)批判を中核に据えている。
実は本書が執筆された2001年と2007年では医局を巡る問題の方向性が随分と変わった。
(よって本書の主張を咀嚼する際には現在の状況を勘案しなければならない)
2001年の時点ではそれこそ医局は鉄の結束を誇った"知的マフィア集団"だったが、
名義貸し問題や研修医の過重労働などの医局を巡る社会問題が噴出して、
この制度そのものに国民的な批判が集中し、その後医局の崩壊はすでに現実のものとなっている。
(医局そのものをなくした大学も実際にある)

2004年度から新研修医制度が始まったことも医局離れを促進させたが、
逆に医局が弱体化することによって地域病院の診療科が閉鎖されてしまうといった副作用が出ているのも事実だ。

かと思えば京大病院心臓血管外科のように医局ポストを巡る醜い争いで
数ヶ月も患者が手術できないという異常事態も現実に起こっていて(今月に手術再開)、
旧態依然とした"医局講座制"が一体善なのか悪なのか、今の時点では明確な答えは誰にもわからない。

一方で著者は医学部で学ぶ医学生に対しては熱いエールを惜しみもなく送っている。
医学生は医学のみならず自然科学、時には人文科学のプロフェッショナルな知識が厳しく要求され、
並外れた向学心を持つオールラウンドなプレイヤーでないとその職責を果たすこと出来ない。

「学力低下が著しいとか、まったく勉強しない大学生がふえているという時代、
 医学部学生に限ってはそのような時代とは一線を画する生活を
 送ることを余儀なくされている」 (p49)

そんな優秀な人材を現在の制度では生かしきれているのか否か。
医学部の未来のためにも本書を用いてじっくりと腰を据えて考えてみたい。

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