![]() | 命に値段がつく日 所得格差医療 色平 哲郎+山岡 淳一郎 中央公論新社 2005-06-10 [中公新書ラクレ 181] by G-Tools |
生涯の内で医療に一度もお世話にならない人というのはまずいないだろう。
逆に言えば誰しもが医療と何らかの関わりを持ち、その頻度は齢を重ねるにつれて高まっていく。
だからこそ私たちは未来の自分のためにも医療問題に対してもっと敏感にならなければならない。
勤務医の激務振り、産婦人科医・小児科医が都市部でも不足しているという現実、
逆に多すぎる歯科医師の存在(私の家の周りではコンビニよりも歯科医院のほうが多い)、
大病院と診療所の連携、医局と関連病院の関係...
医療を取り巻く社会的な問題はどれも喫緊の課題であり、このまま放置しておくことはもはや許されない。
本書は現在、医療現場で起こっている数々の社会的な問題を羅列し、
言うならば『医療社会学』の観点から医療の未来を見据えたジャーナリスティックな一冊だ。
若干構成が雑ではあるものの、全体で何が問題になっているのかという一通りの知識は身に付く。
中でも特に力を入れて詳説されているのはいわゆる「混合診療」をめぐる問題だ。
これは小泉構造改革の一つであり、一時期は新聞の社説欄を毎日のように賑わせていた。
混合診療とは保険内と保険外の治療を組み合わせることで、
現在日本ではこの行為を行うと患者が全額負担となってしまい、事実上禁止されている。
小泉改革では「混合診療」を全面解禁する方向で動いているが、
もし仮に混合診療を認めるとなると金持ちに圧倒的に有利な医療制度が確立されてしまい、
国民皆年金を支える平等性が収奪され「命に値段がつく日」がついに日本でも到来することになる。
が、そうは言っても「高度先進医療」制度の存在で混合診療は部分的に解禁されているのも事実だ。
(心臓移植などの高度先進医療は保険適用外だが、例外的に混合診療が事実上認められている)
またいわゆる「差額ベッド」も「特定療養費」制度の存在で認められていて、
「命に値段」とまではいかなくともそれに近い状態に近づいていることは誰しもが認めるところであろう。
果たして経済力によって治療や療養環境が選別されるのは国民にとって良いのか悪いのか。
株式会社が病院に参入して市場原理の下で経営していくのは医療にとって吉か凶か。
その答えは今は誰にもわからない。本書はその答えを見いだすための一つの道標だ。
ただ肝心の内容がやや散漫になってしまっているのが残念でならない。
タイトルに『命に値段がつく日 所得格差医療』とあるように、
格差を助長させてしまう元凶である「混合診療」の問題に目を向けているのはいいのだが、
他の章では長野モデルや医療教育について長々とページが割かれており、
結局この本で著者が一体何が言いたいのかという"核"がピンぼけしてしまっている。
さて本書では最後に次の言葉で締め括られているのでここに引用してみたい。
「米国に学ぶ面も多いのだろうが、こと医療制度に関しては、
WHOの指標を持ち出すまでもなく、日本のほうが優れている。
自信をもっていいはずだ。」 (p215)
日本では無料が当たり前の救急車も星条旗の国では一回あたり数万円。
なんやかんや言っても日本の医療制度は世界的に見れば充実している。
でも充実=問題なしというわけではない。驕らず高ぶらず冷静に医療問題を処していきたい。
命に値段がつく日に備えて読んでおきたい一冊。


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