BOOK REVIEW 74 原成男『酒と涙と男と天ぷら』

ISBN 978-4-87645-368-9酒と涙と男と天ぷら 横濱好日・天吉日和
原 成男
神奈川新聞社 2005-10-10

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JR関内駅(横浜市中区)を降りてすぐのところに『天吉』という創業明治5年の老舗天ぷら屋がある。

このお店、実はサザンオールスターズ:原由子の実家であり、
サザンファンにとってはちょっとした名所となっているのだ(私も何回かお邪魔させていただいた)。
『今宵あなたに』(1978)という曲には「あなた悲しや天ぷら屋だけども~」という歌詞があったり、
天吉名物の『しじみのお味噌汁』はそのままコンサートのタイトルになったりするなど(1993年)、
サザンの世界を楽しむにあたって『天吉』は非常に重要な意味を持っている。

そんな『天吉』を切り盛りするのが原由子の実兄にあたる5代目店主:原成男だ。
本書は神奈川新聞に連載された25編のエッセイに書き下ろしのエトセトラをプラスして、
さらには天ぷらの揚げ方から原由子の寄稿に至るまでSpecialなEditionを施した一冊である。

非常に気さくな文体で、読んでいると思わず頬がゆるんでしまう。
「横浜経済研究会(通称YKK)」が姫路へ豪遊した話や親バカ的マスター*ピースな話など
心の底からほんわかとした気分になれる素敵なエッセイの数々には脱帽だ。
ご本人のお人柄や幅広い交友関係が実に良く文章に滲み出ていて、
生粋のハマっ子ということもあってか横浜の街に対する「愛」が随所に埋められているのも嬉しい。

また門外不出(!?)のおいしい天ぷらの揚げ方が本書に収録されているのもポイントだ。
恥ずかしながら私は自分で天ぷらを揚げたことがないのだけれども、
天ぷらというのはタネによって揚げ方や温度が繊細なまでに微妙に違っていて、
改めて「匠の技」の偉大さというのを痛感する。我々はもっと天丼に敬意を払わなければならない。

ラストには実妹の某ミュージシャンによる【兄の背中】という題されたあとがきも付されている。
マイペースでのんびりとしている妹の性格のルーツはやはり兄や両親の存在にあったようだ。
......この妹に、この兄あり......

読後感がとても爽やかですごく幸福な気分に浸ることが出来た。これも著者だからこそ成せる業。
老舗天ぷら屋の5代目店主の素顔が垣間見られる一冊で、横浜を愛する人たちにぜひ本書を捧げたい。

【おまけ:個人的な御礼メッセージ】

私が闘病生活を余儀なくされていたとき、ある方を経由してこの本が病室に届けられました。
ページを開けてみると著者直筆の力強いメッセージが刻まれていて非常に励みになったものです。
お忙しい中、粋な計らいをしてくださり本当にありがとうございました。
この場を借りて、厚く御礼申し上げます。

最後に天吉へ足を運んだのはちょうど改装された直後の2004年の年末のことでした。
あいにくの雨模様でしたが、お腹がすいたときに食べる天丼というのは絶品で、
非常においしくランチを楽しむことができた記憶があります。

あつあつの「しじみのお味噌汁」と「天丼」が口にできる日のことを思うと今から楽しみでなりません。
今年はどうやら天吉と私にも縁がありそうな気配がしますので、暖簾をくぐりに行く日も近い!?

お身体にはくれぐれもお気をつけて。また素敵なエッセイを届けてくださるのを楽しみに待っております。

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