BOOK REVIEW 73 桑田佳祐『ただの歌詩じゃねえか、こんなもん '84-'90』

ISBN 978-4-10-135302-9ただの歌詩じゃねえか、こんなもん '84-'90
桑田 佳祐
新潮社 1990-07-25
[新潮文庫 く-8-2]

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先日ご紹介した『ただの歌詩じゃねえか、こんなもん』には実は続編がある。
その続編が本書であり、1984年から1990年までに発表された曲の「歌詩」が収載されている。
(ただし一部の楽曲と『ONE DAY』以外のKUWATA BAND名義の曲はカット)

時期的には最初で最後の監督を務めた映画『稲村ジェーン』公開直前の頃で、
シングル『真夏の果実』も発売され、桑田が"躁"期に入った時期でもある。

『稲村ジェーン』に関しては『平成NG日記』という著書があるのでここでは言及しない。
が、ここで着目すべきなのは映画をクランクアップさせてやっと公開まで漕ぎ着けたという高揚感が
妙な自信となって桑田に跳ね返ってきていて、攻撃的な発言が目立っているところだ。
本書でも当時のバンドブームや音楽評論家に対して桑田は皮肉を交えながら辛辣に批評している。

また前作では桑田自身による作品毎のセルフライナーノーツがあったのだが、
今作ではそれがなくなってインタビュー形式へと構成が完全に変わってしまった。
その上「歌詩」とはそれほど関係のないテーマでトークが展開されているため、
タイトルに冠されている割には「歌詩」にあまりスポットライトが当たっていない。

前作刊行から今作発表までの間にはいろんな出来事があった。
サザンオールスターズの長期間活動休止、KUWATA BAND結成、メリークリスマスショーの放送、
ニューヨークでのレコーディング、桑田ソロアルバム発表、10周年目のサザン復活...
目まぐるしく変わる日々をくぐり抜けてきて、考え方や心境にはやはり変化が生じたようだ。

「"たかが歌詞じゃないか"と腹くくってたつもりが、
 目にくる、ビジュアルにも影響するという現実に、
 俺はかなり遅ればせだけど気がつきましたね」 (p193)

本書刊行からすでに16年以上も経過しているにも関わらず未だに次作が刊行されないのは
上述のように桑田自身の歌詩観が大きく変化したことが一つの要因であるといえるだろう。
その考え方の変化を踏まえた上でさらに桑田は次のように自らの見解をまとめている。

「歌詞だけをひっぺがしてこうして並べてる本ってのは、いったい何になるのかな......、と。
 まして歌詞の文脈だけで何だかんだやったところでアホではありませんか。
 そんなことしながら歌を作ったところで、ロックやポップスになどなるわけないので、
 俺の場合はひたすら日本語の隠し持つフレキシビリティーを暴くには、
 サウンドの力をお借りしているわけです」 (p196)

その後、桑田の歌詩は年を追う毎に更に緻密になっていき、
今度は逆に「ミクロ至上主義」的な弊害が出てくるわけだが、
この歌詩観の変遷を今の桑田がどのように受け止めているかはファンの一人として非常に興味がある。

歌詩の本なのにインタビューと内容がリンクしておらず、分断されてしまっているのは残念でならないが、
1990年の桑田佳祐がどういったココロの状態で音楽活動をしていたかがわかる貴重な一冊。

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