![]() | 星々の悲しみ 宮本 輝 文藝春秋 1984-08-25 [文春文庫 み-3-1] by G-Tools |
昔、通った某予備校に一人の現代文の先生がいた。
その先生は独特のイントネーションを持った大阪弁が印象的で、
私なんて当時はしょっちゅうモノマネをしていたものだ。
ある日、講義が始まるや否や先生は私たちにこう言い放った。
「今日はこのプリントをやろかと思ってるねん。ほな今から配るなー。」
大手の予備校ではプリントなんてほとんど配られないので、
何をやるんだろうと興味津々に待っていたら見覚えのある文章が目に入ってきた。
「今から読むのはー宮本輝さんの星々の悲しみという小説やねんなー
毎年この時期にはこのプリントで講義をしてんねん。」
ちょうど春が過ぎようとしていて、辺り一面に緑が茂ってきた時期だった。
私はすでに宮本輝は知っていたし、この作品も読んだことがあったのだけれども、
予備校の教室でこの文章を読むと妙に世界観がジャストフィットしてしまった。
というのもこの『星々の悲しみ』は大阪の予備校生の物語なのである。
受験勉強に嫌気がさして図書館(=中之島図書館)に行って毎日小説ばかり読んでいた主人公は、
大学生のお姉さんに恋をして、仲間達と人生や青春や恋愛について共に悩み、
ある一つの絵画に思いを寄せていく...
約60ページの短編ながら濃厚なストーリー展開で、
あっと驚く結末があるのであえて深くはここに書かないけれども、
予備校という独特のモラトリアム文化を見事に表現している一作であると今でも思う。
私自身、あの場所で過ごした時間は今思うと無駄だったような気もしないでもないが、
そこで得たエッセンスは今も確実に自分を構成する一つのファクターとして全身を流れ続けている。
その後もこの先生はテキストの問題を頻繁にプリントに差し替えて、
宮本輝の作品を講義の題材としていた(聞いたところによると大ファンだとか)。
実はその先生から個人的に書籍を何冊かいただいたことがあって、
先日部屋を整理していたら数年ぶりに偶然見つかった。
そして独特のイントネーションと共に『星々の悲しみ』が頭の中に浮かび上がってきた。
そんな経緯もあってか今日はこの本をみなさんに捧げたい。
今、この時期に読むのもなかなか味があるものだ。
本書には表題作以外にもいくつかの短編が収載されているので
そちらも併せて楽しんでいただければと思っている。


この短編集は印象に残る作品ばかりだったね。僕もお気に入りの一冊です。
そうですね。どの作品も人生というものを深く考えさせてくれます。
数ある短編集の中でも『星々の悲しみ』はかなりオススメです。