![]() | ヴェネーツィアと芸術家たち 山下 史路 文藝春秋 2005-08-20 [文春新書 457] by G-Tools |
イタリアの北東部にヴェネーツィアという水の都がある。
今でこそイタリアの一地域に過ぎないが、
かつてはヴェネーツィア共和国として地中海に君臨していた。
(シェイクスピアの『ヴェニスの商人』は共和国最盛期に描かれた作品)
水上都市だけあって街には車が一台も通っておらず、
小さな島と島の間には無数の細い運河が流れており、
"華麗なる一族"の匂いが漂う建物もあちこちに建立されている。
別に現在進行形の何かがあるわけではない。
悪く言えばいつまでも過去の栄光に縋る時代遅れの退廃的な街だ。
しかしこの街が持つ美しさはたくさんの人々を魅了し続けてきた。
中でも芸術家にはこの街に完膚無きまで魅せられた人が多く、
この街の存在が彼らの人生や作品に多大なる影響を及ぼしてきたことは言うまでもない。
本書は世界的に著名な8人の芸術家たちの足跡を辿り、
芸術家たちとヴェネーツィアの関係を当時の時代背景と共に再検証し、
この街が持つ魅力を改めて考えてみようという意欲作だ。
ひとえに"芸術家"といっても人生のカタチは人それぞれである。
イタリアの画家:ティツィアーノのように順風満帆すぎる人生を送った者もいれば、
ドイツの文豪であるゲーテのように波乱に満ちた女性遍歴を重ねた者もいる。
音楽の天才:ワーグナーに至っては人格が完全に崩壊しており、
死ぬまで周囲に迷惑をかけ続けた"偉人"であったことを私は本書で初めて知った。
「8人の芸術家達の知られざる伝記集」としても本書は充分におもしろい。
この8人がどのようにヴェネーツィアを愛したかはぜひ読んで確かめていただきたいが、
私だって本書で非日常空間であるヴェネーツィアに大きな憧憬を抱いたものだ。
自分の存在を切りつめて創作に勤しむ芸術家たちがこの水都に惹かれるのも
考えてみれば至極当たり前のことなのかもしれない。
他のヨーロッパ諸国と違ってイタリアは底抜けに開放的な風土が遺伝子レベルで根付いている。
イタリアは"ナンパの国"と揶揄されることもあるように
自由で開放的で快楽志向を持つ美的感覚に優れた国だ。
日本とイタリアを幾度となく往復し続ける著者はこの街に住む人についてこう評している。
「また、いつまであるかないか分からないような未来を計画することより、
今という瞬間を非常に大切にする人種のようである。
生き切ることがとても得意な人々に見える。
ヴァカンツァを大切にし、一回しかない人生を思う存分謳歌するのも、
その表われではないか。」 (p148)
人生は楽しんでナンボ。笑ってナンボ。思い出を作ってナンボ。
今宵はピザでも食べながら水都ヴェネーツィアに思いを馳せてみるのはいかがだろう。


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