BOOK REVIEW 56 真野俊樹『入門 医療経済学』

ISBN 978-4-12-101851-9入門 医療経済学 「いのち」と効率の両立を求めて
真野 俊樹
中央公論新社 2006-06-25
[中公新書 1851]

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医療は経済学的に「市場の失敗」と言われている。
経済における諸原則が医療という市場には機能しないのだ。

医療は独占市場であり、全国一律に診療報酬が定められている。
また基本的に供給側(医師)主導でサービス(診療)売買が進められていく。
特に治療方針や薬剤の選択は需要側(患者)の選択権がないに等しい。

さらに医療とカネを過度に結びつけるのは道徳的に何か後ろめたく、
そのせいか病院では表向きには金銭[げんなま]色が掩蔽されている。

マクドナルドに行けばメニュー表が上に掲げられていて、
「ビッグマック 280円  コーラS 100円」などと値段が表示されているが、
「初診料 2700円(ただし夜間の場合は7500円)」などと 
おしながきの如く受付で標榜されている医療機関はまず見当たらない。
(ちなみに初診料の診療点数は270点。
 1点=10円なので270×10=2700円  3割負担だと2700×0.3=810円)

本格的な高齢社会の到来で医療費が財政を逼迫しつつある。
医療費をいつまでも美声の下に聖域視することはもうできない。
いくら人命を扱う仕事といってもやはり企業並の「効率」や
自立した「経営計画」が必要なのではないだろうか。

本書は「医療経済学」という耳慣れない学問から
現代医療のおかれた経済的状況を深くアプローチしていく。
タイトルに「入門」とあるものの内容はかなりハイレベルで
教養書の範疇を越えてすでに専門書の域な感がある。

前半は医療経済学を理解するための経済学の基礎理論が書かれ、
中盤では最新の経済学に沿って医療経済学の輪郭を描出し、
後半になって初めて医療経済学の本質に触れることとなる。

日本は世界で最も恵まれた医療制度(国民皆保険など)が敷かれた国だ。
骨髄移植は自由診療だと軽く1000万円は超えるが、
公的な保険制度と高額療養費制度によって随分負担は軽くなった。

なので医療サービスを受けているときのコスト意識はあまりない。
現行の診療報酬制度では検査や投薬をすればするほど病院が儲かり、
かつ患者も喜ぶというWIN-WINな構造なので、保険財政は火の車である。

そこでいわゆる定額支払い制であるDPCが大学病院などで導入されたが、
これが吉と出るのか凶と出るのかはしっかりと分析せねばならない。
一番始めに述べたように医療自体が「市場の失敗」なので
経済学の手法を用いて分析するのは決して容易ではないのだけれども、
本書では様々な分析法が模索され、医療経済学の未来を切り開いている。

「いのち」と「効率」の両立が必要な時代の一冊。

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