![]() | 海辺の扉 上 宮本 輝 文藝春秋 2005-07-10 [文春文庫 み-3-18] by G-Tools |
![]() | 海辺の扉 下 宮本 輝 文藝春秋 2005-07-10 [文春文庫 み-3-19] by G-Tools |
「いつか、その不幸を幸福ってものに転換していくのが、
つまるところ、生きるってことじゃないのか?」 (下巻 p108)
宇野満典はある不幸を十字架に背負いギリシャに身を寄せていた。
10年前、2歳だった息子の晋介を予期せぬ過失で殺めてしまったのだ。
たまたま打ち所が悪くあっけなく逝ってしまった愛する息子...
執行猶予付きの有罪判決も出され、突然襲った不幸は彼の人生を狂わせた。
妻の琴美と離婚し、会社も解雇され、日本に居場所がなくなってしまい、
彼は何もかもを捨てて異国の地であるギリシャへと旅立つ。
現地人ですらまともな定職に就けないギリシャで、
日本人が生計を立てるためには闇の世界で生きる以外に術はなかった。
シーラという美女を妻にしたのもすべては生きるためだ。
が、あれから10年が経過して心境に変化が生じてきた。
早く日本へ帰りたくなったのだ。そこに怪しげな仕事が舞い込んでくる。
--豪華客船に乗って怪しい物をトルコからミコノスへ流してほしい--
成功すれば大金、しかし失敗すれば自分の身が危ない...
クルージングの最中に起きる数々の不可解な事件、
琴美からの手紙、揺れ動く愛憎、晋介が死んだ意味...
ギリシャを舞台として男と女が繰り広げる壮大なロマンを
神韻たる筆遣いで炳焉と描ききった珠玉の作品がここにある。
物語の舞台となったのはヨーロッパでも南東に位置するギリシャだ。
かつて文明が栄えたいわゆる「古代ギリシア」を我々はイメージしがちだが、
この物語に出てくる現代のギリシャは実に焦臭い。
政治的混乱の痕や多民族が入り交じる風景などは
私が抱いていた観光的なギリシャのイメージとはかなり乖離していた。
しかしやはりそこはソクラテスを生んだ国。
生きるための智慧が次々と登場人物から語られる。
そして満典はある一つの点へと物語のラストに到達する。
『一瞬、一瞬が、永遠だ、と。』 (下巻 p238)
「過去」と「今」と「未来」は実は一つの概念であるということ--
「死」は「現在」であり「生」は「未来」でもあるわけだ。
読み終えた後、時間軸について深く考えてしまう一冊。



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