BOOK REVIEW 38 姜尚中『愛国の作法』

ISBN 978-4-02-273101-2愛国の作法
姜 尚中
朝日新聞社 2006-10-30
[朝日新書 1]

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『美しい国へ』という本が昨年ベストセラーとなった。
私は未だに「美しい国」がどんな国のことを指すのかがよくわからないのだが、
後に総理大臣に登り詰めた著者は今年も「美しい国」作りに邁進するらしい。

「情緒的なフレーズ+政治的なフレーズ」は実に狡猾な文字コラボで、
そのうち「かっこいい経済」とか「きれいな憲法」とか言い出してきて
国民に甘い飴を突きつけてくるに違いない。

確かに桜は美しい。富士山も綺麗だ。
たくさんの自然遺産や「もののあはれ」という独特な感性にも恵まれ、
人々の規律も諸外国と比べれば頗る倫理的であり、
そういった意味で私は日本がとても好きで今風に言えば「愛国者」だ。

が、そういった「美しさ」の対象は歴史的な統一体としてのnationであり、
決して統治機構としてのnationのことを指してはいない。
「国」と表されたとき、その「国」とは「エトノス」としての民族国家なのか
それとも「デーモス」としての国民国家なのか。
ここを意図的に混同させてしまってるのが『美しい国へ』の著者および政府で、
これは国民を欺く大変危険なレトリックであると感じている。

悠久な歴史や自然遺産に触れて好きと思うのは感性的なことであって、
ここに理性が入り込む余地はなくそれこそ「生理的」な次元の問題だが、
政治の場合全く違うことはわざわざ例示して説明するまでもない。
感情や情緒で政治を動かすなんて論外であるし、
「生理的」に行政が進められ、それによってもたらされた悲劇は数知れない。

なのに昨今の愛国心を巡る議論では国を構成する要素である
[自然]と[作為]をごっちゃにしてしまっており、
愛国の定義が重々しくダークに歪められてしまっている。

長所短所を全部受け止めてありのままの国の姿をしなやかに理解し、
それをしたたかに改善していこうという思いは愛国心ではないのか?

本書では今世の中を席巻している「愛国心」にスポットを当て、
国の正しい愛し方、つまり「愛国の作法」について丁寧に解きほぐしている。
著者は冷静な口調でひたすら理路整然と語る姿が印象的な姜尚中氏だ。

文章は敬体であるものの『美しい国へ』と違って難解な言葉が羅列されており、
政治思想の入門書としても拝誦することができる。

中でも印象に残ったのは
「いま澎湃として沸き立ちつつある愛国心や愛することで気がかりなのは、
 この政治的リアリズムが急速に失われつつあるように
 思えてならないことです」 (p127)

の一節だ。

つまり現実社会を見据えた上で具体的にどういったカタチで
持続可能な発展をさせていくかというビジョンが
今の政治家には微塵も感じられないのである。

教育基本法を改正したところでいじめ問題が解決するわけでなく、
再チャレンジ政策が決定的にニートを減らすわけでもない。
年金に代表される福祉の分野では未だ決定打が出せずにいる。

政治腐敗が毎日のように新聞の一面を飾り、
モラルやセーフティーネットがこれほどまでに荒廃に近づいてきているのに
逆に「愛国心」や「愛国者」といった言葉が一般社会に延焼しているのは
いかに政治的リアリズムが欠如した"国の間違った愛し方"を
今までの政治家がしてきたかということの現れだろう。

痛みがない愛なんて愛ではない。
快楽だけの愛なんて毒でしかない。
ただナルシスト的に自分を誇示しても相手は逃げていくだけだ。

どうやら私たちは国の愛し方までをも間違えてきてしまったようだ。
本当の愛し方を取り戻すために本書をおすすめしたい。
最後に著者が読者に"警告"したこの一文を。

「軽蔑すべき日常性から逃れるために
 自分の人生を馬鹿げた概念の型に嵌め込もうとする大衆が
 増えつつあるようにみえます」 (p141)

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コメント(2)

安倍さん、期待してた割にはなんともねというのが正直な感想。
一方で「朝生」なんか見てるとこの本の著者も「なんだかなぁ」と思うようなこと結構言ってると思ったり。

まあぶっちゃけ俺が思想的に右に寄ってるのかもしれないけど。

今回の教基法改正は愛国心を子供たちに「持たせるようにする」ためというよりも、愛国心を子供たちに「持たせまいとする」一部の教育者側への締め付けだと思ってるよ、俺は。
まあ愛国心の解釈もそれぞれなワケだけど、嫌いで仕方ない国に無理して住む必要は無いのになんてガキくさいこと言ってみたり・・・愛国心を押し付けてない国なんか無いわけだし。

こうして折に触れて議論すればいいんじゃない?ってのが結論(笑

いつも書き込んでくださってどうもありがとうございます。

>一部の教育者側への締め付けだと思ってるよ、俺は。

そうなんです。まさに著者が主張したいのはそこなんですよ。
基本法を変えてこんな日本にしよう、という視点ではなくて
とりあえず臭いものにはまず蓋をしてしまおうというやり方が、
書評でも指摘したように政治的リアリズムに欠いているということなんです。

事情あって日本に住まなければならなくなった在日外国人の方にとって
「愛国心」というのは非常に難しい問題であると容易に推測できます。
単純論では決して割り切れませんし、ある程度は配慮しないといけません。
僕がヨーロッパへ住むことになって、その地でその国の「愛国心」を鼓舞されたら
たとえ国籍がその国にあっても正直本能的に複雑な心境に陥ると思うので、
ここは日本人らしく「したたかに」「柔和に」考えていきたいものです。

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