BOOK REVIEW 37 井上栄『感染症』

ISBN 978-4-12-101877-9感染症 広がり方と防ぎ方
井上 栄
中央公論新社 2006-12-20
[中公新書 1877]

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日本は世界一とも言って良いくらい清潔な国だ。
上下水道や各種の生活環境が整備されたおかげで
かつて多数の死者を出したコレラや天然痘は征圧され、
結核の流行も現代では発生しなくなった。
(ただし結核は現在でも罹患しうる病である)

人々の清潔志向も年々高まっていき、
あらゆるものが無菌化され、街には抗菌グッズが溢れている。
しかし毎年のようにインフルエンザが猛威を振るい、
昨年にはノロウイルスが全国的に大流行した。

このクリーンな社会でどうして感染は広がってしまったのか。
その絡繰りを詳説し、実効性のある予防策を提言したのが本書だ。

我々の一般的感覚からするととにかく清潔にしてさえすれば
感染症にかかることなんてないのではないかと思いがちなのだが、
実際は決してそういうわけではない。

過度の抗菌は人体には無害な微生物までをも除去してしまう。
が、この微生物こそが免疫力を刺激して抗体を作るのであって、
少しは汚い状態とも接していなければいざ病原体が侵入した時に為す術がない。
ここに清潔社会の落とし穴が存在すると著者は指摘している。

インフルエンザについては「政府が無料マスクを国民全員に配る」 (p158)
ことを政策提言しており、ワクチンに頼る医療体制に警鐘を鳴らしている。
たかがマスクと侮ってはならない。マスクは低コストで絶大な効果をもたらすのだ。
私は骨髄移植によってすべての免疫がリセット(=赤ちゃんと同じ)され、
免疫抑制剤の影響もあって免疫が一般人に比べて総じて低いのだが、
きちんとマスクを着用することによって一度も感染することなく過ごせている。

本書では最後に性感染症についても触れている。
「環境の清潔化をいくら進めても、その伝播をおさえることはできない」 (p164)
のが性感染症の特徴で、この脅威には人智で対抗せねばならない。

かといって本能である性欲を抑制することは難しい上に、
エイズに至っては有効なワクチンが未だにないので、
コンドーム着用があらゆる観点から見ても有用であると結論づけている。

感染症に対峙するために必要なこととは一体何なのか。
本書と共に考えてみるのもいいだろう。

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