![]() | きよしこ 重松 清 新潮社 2005-07-01 [新潮文庫 し-43-7] by G-Tools |
言いたいことが言えずに悔しい思いをしたこと...私にはたくさんある。
正義心から「やめろよ」と言いたかったのに臆病が邪魔して言えなかったこと。
好きで好きでプレゼントまで用意したのに最後まで「好き」と言えなかったこと。
この物語に出てくる主人公のきよしも言いたいことが言えない。
さらに少年は吃音というハンデも幼き頃から背負っていた。
しゃべるときに「カ行」と「タ行」がどうしてもつっかえてしまう。
「こここここここここんにちは」などとドモってしまうので実にかっこ悪い。
小学校低学年のクラスメイトたちはそんなきよしをバカにする。
だから国語の時間に本読みをするときは憂鬱極まりない。
父親の仕事の関係で毎年のように転校した。
転校すれば自己紹介をしなければならない。
どもる。また笑われる。仲間はずれにされる。その繰り返しだ。
なので少年はひとりぼっちになることが多かった。
でも友達は欲しい。なのに気の利いた一言がドモりを気にして言えない...
だけど少年は野球が得意だった。そして作文も得意だった。
それらの才能が自然と武器になって、徐々に友達の数も増えていった。
「いっしょに話す相手のいない思い出なんて、
いくらたくさん持っていたってしかたない」 (p139)
小学校の卒業記念として演劇の脚本を書くことになった少年は
転校生であるが故に思い出をあまり共有できていない現実を目にする。
そんな自分の境遇を嘆き悲しんだこともあった。
もちろんいつまで経っても治ることのない吃音のことも。
中学校へ進学しても吃音は変わらなかった。
そんな吃音のことをストレートに指摘してくる不良がいた。
勝手に「親友」と呼ばれ、腐れ縁のような仲が日々続いたが、
彼とその周りの人間関係に触れていくうちに
寂しいのは自分だけじゃないんだという事実に気づいていく。
友達が射止めていた野球部のレギュラーの座を転校生が奪っていった。
仲間は一斉にブーイングだ。でも実力で奪ったのだから転校生は悪くない。
周囲に圧倒されて言いたいことを言えない転校生を庇うように
少年は仲間に怒った。過去の自分を見ているようで我慢できなかった。
大学受験のときになっても吃音は変わらなかった。
そんな少年をとても好きになってくれた女の子がいた。
「言えん言葉は無理して言わんでもええんよ、
うちがぜーんぶ通訳してあげるけん。
うち、白石くん(=少年)の言いたいことがちゃんとわかるように
がんばるけんね」 (p263-264)
だけど少年は言いたいこと、いや、言わなければならないことを
最後の最後まで彼女に伝えることはできなかった...
...読んでいると自分の小学生・中学生・大学受験時代を思い出し、
たくさんの青くて恥ずかしい記憶がよみがえってきた。
子どもや少年少女は「柔らかい存在」だ。
少しの傷でも深く傷つくし、sensitiveな感情が自我を支配する。
大人は何かと利害で物事を処理しがちだが、
彼らにとっては今感じている世界が"All of the world"。
そんな思春期のココロの移り変わりを絶妙に表現しているのが本書だ。
ページを経る毎に少年は成長していく。
が、特に何か事件が起こるというわけではない。
そこで描かれているのは長い人生のうちでも
思春期でしか体験することのできないかげがえのない「思い出」の数々だ。
それは同時に「言いたいことが言えずに悔しい思いをした」出来事でもある。
たくさんの人との出会いを通して少年は一人の大人へと成長していく。
「君はだめになんかなっていない。ひとりぼっちじゃない。
ひとりぼっちのひとなんて、世の中には誰もいない」 (p43)
ひとりで悩んでいる思春期のキミとクラスメイトに贈る一冊。


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