BOOK REVIEW 33 鎌田實『あきらめない』

ISBN 978-4-08-746044-5あきらめない
鎌田 實
集英社 2006-05-25
[集英社文庫 か-39-3]

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「後ろ向きではなくせめて前を向いていてほしい。
 あきらめないでほしい。」

この言葉は今からちょうど半年前、
闘病中の私を見舞いに来てくれた大学の友人が贈ってくれた言葉だ。
神妙な面持ちで言葉を掛けてくれた彼の励ましに
私はベッドの上で涙をこらえることができなかった。

あまり良くない血液データが手元にやってくる。沈む。我が人生を憂う。
でも友人の言葉を聞いて以来は「あきらめない」と歯を食いしばるようになった。
できるだけ周囲にも泣き言を言わないように心がけた。

だがもし仮に私が治る見込みのない末期がん患者だったらどうだっただろうか。
果たしてそれでも「あきらめない」と歯を食いしばる自信はあるだろうか。

現実問題として頑張ってもほぼ100パーセント報われない世界である。
大金を叩いてもどんなにいいことをしても「死」は避けることができない。
そんな状況でも人間はあきらめずに生きることができるだろうか。

大半の人は死に対して「あきらめて」、残された最後の時間を心ゆくまですごす。
もちろんこの場合の「あきらめる」というのは名誉ある諦観である。
病気で傷つけられた尊厳を回復し、せめて死の間際までは平穏に過ごしたい...
しかしどんなに切羽詰った状況でも「あきらめない」人がいた。

この本の最初と最後に登場してくる人たちがそうだ。
余命を宣告され、その後なんと7年も生き抜いた男性はこう語った。

「以前と違って、桜の花の季節を迎えるたびに、
 なんとか来年も桜を見たいと、生きることへの望みを、
 強く意識するようにもなりました」 (p22)

生きることを「あきらめない」ってどういうことなんだろう。

本書は様々な事情を抱えた「あきらめない」主人公たちを描いたエッセイ集だ。
「現代医療が推し進めてきた、効率よく、
 病んでいる臓器だけを診る医療ではなく、病気をもつ一人の人間全体や、
 その人がいっしょに生活する家族や地域に心を注ぐ医療」 (p212)

を著者は実践しており、ご存知の方も多いかもしれない。

中盤では著者の知られざる人生を述懐していて、
タイトルにもなった「あきらめない」生き方の原点を垣間見ることができる。
著者の医療に対しての有り余る信念を行間からたくさん読み取ることができ、
医療者ではない私も、日常生活でこういった信念を持ち続けたいと思ったものだ。
教科書では絶対に教えてくれないダイナミックな「いのち」のカタチがここにある。

今、中学生や高校生の自殺が多発している。
ありとあらゆる手を尽くして徹底的に戦い抜いたのならまだしも
現実の壁に圧倒されていきなり「死」へとジャンピングするのは
厳しいようだが私には「生」への冒涜のように感じてならない。

少し立ち止まって考えてみてほしい。
そう簡単に生きることをあきらめないでほしい。

最後に帯コピーにある著者からのメッセージをここに記しておくことにしよう。

「命のある限り、あきらめないで。」

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