![]() | 働きすぎの時代 森岡 孝二 岩波書店 2005-08-19 [岩波新書 新赤版963] by G-Tools |
入院中、私を担当していた研修医が注射の処置をしながらこう言葉を発した。
「僕ねー、当直明けなんですけどまだ休めないんですよー。
給料なんて時給に換算したらセブンイレブンに負けてますもん。」
研修医と言えば奴隷のように長時間働かされる上に
雀の涙ほどの給料しか出ないという劣悪な労働環境で有名だったが、
近年の制度改正によって一時期よりも随分と環境は改善された。
しかしそれでもなお労働と対価が極端にアンバランスな現実には変化がない。
いくら仕事に使命感を持っていたとしても
度を超えた「働きすぎ」は次第に疲労やストレスが蓄積されていき、
個人の尊厳ある時間も奪われ、最悪の場合は過労死へと至ってしまう。
「Karoshi」は今ではすっかり世界で通用する言葉となってしまった。
それは個人の悲劇の範疇に留まらず社会全体における多大なる損失である。
そんな「働きすぎ」の原因を探り、「働きすぎ」への処方箋を示したのが本書だ。
本書では働きすぎの原因を 「高度資本主義の4つの特徴」 (p20)
「グローバル資本主義」「情報資本主義」
「消費資本主義」「フリーター資本主義」
に依拠し、最新データや図表を交えて労働環境の現状を詳説している。
終章では現状分析を踏まえての積極的な政策提言も成されているので、
労働についてきちんと考えたい人には必読の書といってよいだろう。
「働きすぎ」というのは別に日本に限ったことではなく今や世界的な潮流だ。
これだけ情報通信技術が発達して24時間国境なき経済活動が可能な現代、
どこの国のどんな人々も覚醒時間と労働時間はほぼイコールとなってしまった。
しかしこれは飽くまでも「文明」が招いた所産なのであって、
政策や権力で状況を一変させることは難しい。
が、「社会制度」に依拠する「働きすぎ」となると話は別だ。
中でも深刻なのは必然的に「働きすぎ」にならざるを得ない
現代日本の"使用者天国"とも揶揄される杜撰な労働制度であって、
これは政治のチカラで状況を改善させることが早急に求められる。
一例を挙げればサービス残業の存在だ。
何がサービスなのかとその造語センスに一言物申したくもなるが、
教科書にも載っている天下の労働基準法もいわゆる"三六協定"によって
「残業規制に関しては、まったくのザル法」 (p155)と化してしまい、
事実上無制限に残業させられ放題という憂うべき現実が根強く残っている。
さらに言えば
「正社員をパート・アルバイト・派遣社員・契約社員・個人請負などに
置き換える雇用戦略」 (p123)
が「規制緩和」という美名の下でどんどん推し進められており、
偽装請負の問題に至っては今年になるまで顕在化してこなかったというのが
その労働者軽視の風潮の病根の深さを何よりも物語っている。
派遣社員がどんなにスペシャリストな仕事をしようが
給料は一向に上がらない上に雇用保険も完備されないし退職金ももらえない。
契約が更新されなかったらそれですべては終わってしまうのである。
そんな夢のない労働制度で働いて社会が良くなるなんてとても思わない。
報われない「働きすぎ」は憎悪の連鎖を産んで社会不安の弧を描くだけだ。
果たしてこのままの状態をそのまま放置していてそれで良いのだろうか。
この他にも労働に関する問題は今にも崩れそうなほど山積している。
本書でその実態をぜひ確かめて欲しい。


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