BOOK REVIEW 6 上田紀行『生きる意味』

ISBN 978-4-00-430931-4生きる意味
上田 紀行
岩波書店 2005-01-20
[岩波新書 新赤版931]

by G-Tools


今さら言うほどのことでもないが、日本は世界に冠たる経済大国である。

街を歩けば至る所に24時間営業のコンビニがあり、
食糧や水に困ることはこの国ではまずありえない。
識字率もほぼ100%で誰もが高度文明社会を享受することができ、
携帯電話は一人一台持っていて当たり前の世の中だ。

しかし諸外国から見ればものすごく恵まれているこの国の人たちは
なぜこんなにも自分を見失っているのだろうか。
そしてなぜこれほどまでにも心を病んでしまっているのであろうか。

そんな日本人が抱えている数々の"病理"を紐解き、
現代人に求められている「生きる意味」の構築を試みたのが本書だ。

昭和30年代~50年代にかけて日本は歴史上に類を見ない
驚異的な経済成長を遂げ、米国に次ぐ世界第2の経済大国に君臨した。

「経済成長教」という新興宗教を人々はこぞって信仰し、
カネがあれば、名誉があれば必ず自分は幸福になれると確信していた。

自分という人間を出さなくても、世間の風に乗っていれば
年功序列や終身雇用に代表される日本独特のシステムで
それなりの水準の生活は維持できたし、
周囲に合わせておけばいいのだから、波風が立つ心配もない。

子ども達はと言うとテストで出来るだけ良い点数を取り、
出来るだけブランドのある学校へ進学し、
世間様に顔を見せれるような会社へ就職する…
それこそが一番の幸福なのだ、と世間体を気にしながら
自己喪失感に嘖まれる親から教えられてきた。

しかしよく考えてみたい。
お金をたくさん持ったから…だから何?
名誉をたくさん手に入れたから…だから何??
テストで100点とったから…だから何???
というかそもそもなんで世間の眼をそこまで気にしなければいけない??

要するに「数字」や「恥」の概念があまりにも先行しすぎて、
ことの本質、つまり「中身」が空疎な存在と化してしまい、
そのことが「生きる意味」を見失わせてしまっているのではないか
と著者は論拠づけているわけだ。

この書においては他にもグローバリズムや経済理論からも
「生きる意味」の本質に舌鋒鋭く追求しており、
最後では「生きる意味」を構築するための
コミュニティーの新しい"かたち"を様々な角度から模索している。

特におもしろいのは文化人類学者である著者が
構造改革の実効性に正面切って疑問を呈しているところだ。

構造改革によって既得権益が崩れ、
誰にでも平等に機会が与えられる自由な競争社会が実現する----

一見すると人々に希望の活路を見いだし、これこそがQOLを上昇させ、
世界平和にもつながる"神の手"のようにも思えるが、
しかしそれでは人々の「生きる意味」の進展には貢献しないというのだ。
逆に構造改革が進めば進むほどどんどん人々は
「生きる意味」を見失っていくと著者は明言している。

その理由は本書へバトンタッチするとして、
非常に印象に残ったセンテンスをここで引用したい。

「自分自身を、そして社会の構造を効率化し、
 経済化すればするほど強い人間になり強い社会になるというのは
 全くの誤りだ。それは一見強そうでいて、
 実は極めて脆弱な人間と社会を作り出す」 (p181)

ビジネスライクを極限まで追い求めることこそ
人生の充実につながると考えているあなたに捧げたい一冊。

もうお金と名誉の時代は終わりましたよ、ニッポンの皆様。

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