BOOK REVIEW 21 松田浩『NHK』

ISBN 978-4-00-430947-5NHK-問われる公共放送-
松田 浩
岩波書店 2005-05-20
[岩波新書 新赤版947]

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今、政府の規制改革・民間開放推進会議では
NHK受信料制度の見直しが論題に上がっている。

一連の不祥事によって不払い世帯が激増し、
受信料の「契約義務制」の制度そのものも色褪せてきて、
NHKの経営や存在自体を直撃するようになってきている。

一人暮らしをし始めたとき、毎月必ず来訪してくる人がいた。
NHKの受信料を徴収する通称"フローラルスタッフ"だ。

最初の3ヶ月間はテレビそのものを持っていなかったので、
「テレビは家にありません」とスタッフに伝えて帰ってもらっていたのだが、
テレビを所有してからはその言い訳が通用しなくなり、
たまたまテレビをつけているときにスタッフが来訪したこともあって、
渋々と払うことを決意した。
ちなみに学生の場合は4ヶ月の免除期間があるそうだ。

「みんな払ってるから払った」わけでは決してない。
私は普段テレビ自体をほとんど見ることがなく、
家で食事をしているときにBGVとしてスイッチを入れている程度なのだが、
その時のチャンネルはいつもNHKであり、
それなりの義理をいつも肌身に感じているからだ。

何か大事件・大事故が起こった場合には
無意識的にNHKにチャンネルを合わせているし、
教養番組のクオリティも民放と比べて突出していると実感している。
「これからも信憑性のある報道をしてほしい」
「もっともっと含蓄溢れる番組を作って欲しい」
そういった"期待"を込めて学生の自分にとって決して安くはないお金を
いわば"投資"としてNHKに払ったわけである。

NHKの受信料は視聴料ではない。
テレビを持っていればNHKを受信できる環境が整うというわけで、
放送法によって受信料の支払い義務が発生する。
しかし払わなくても罰則規定は存在しないし、
NHKが見られなくなることも決してない。

今までは日本特有の"世間の眼"システムによって
こういった曖昧模糊なシステムでも一定の受信料収入は確保され、
不払い世帯の存在が経営を直撃することも考えられなかった。

が、相次ぐNHK幹部の不祥事により不払い世帯が急増し、
長らく屋台骨を支えていた受信料制度の根幹が今揺らごうとしている。

ならば今の時代に合うように法を整備して有料化にしてしまえばよいではないか。
英国のBBCだって「支払い義務制」を敷いていて不払いには罰金が科せられ、
しかも日本より高い受信料を視聴者に強いている。

しかし本書を読めばこれがいかに愚策であるかがよくわかるだろう。
単に経営面から刷新したとしても報道機関としてのNHKは何ら変わらない。

本書では過去にNHKがいかに政府・与党からの圧力を受けてきて、
「公共放送」ではなく「準国営放送」として権力に対する監視を結果的に放棄し、
言論機関として限りなく"死"に等しい状態に陥ってしまった現状を暴き出している。

災害情報や歴史・自然・文化・芸術などの
直接利害に抵触しない当たり障りのない報道においては
確かにNHKは素晴らしい番組を数多く制作してきた。

しかし政治や経済といった複雑な利害がリアルに絡み合う
時事問題に関しては拍子抜けするくらいにトーンダウンしてしまう。
「ジャーナリズムの本質は「インデペンデント」(自立・独立・不羈)」 (p91)
という理念が決定的にNHKには抜けているからだ。

この点に関して本書では同じ公共放送の英国・BBCとの比較をしている。
BBCはイラク戦争時にその大義をめぐって政府と鋭く対立し、
言論の独立・権力からの干渉を死守した。
さらには「イラク戦争の報道に関するガイドライン」を策定し、
国家に媚びないジャーナリズム機関としての態度を鮮明にした。

それに比べてNHKはどうだろうか。
イラク戦争への反戦集会はニュースで一切流さず、
単に政府の情報を垂れ流しているだけという
もはやジャーナリズムを捨てたとしか言いようのない
病巣に侵食された言論機関の姿が浮かび上がってきた。

BBCのような中立的な報道を行うと、
政府・与党から「偏向報道」として糾弾され、
実際に2003年に放送予定だったイラク戦争の真実を伝えるドキュメンタリーは
圧力によって放送中止にされている。

もちろんBBCのようにポリシーや説明責任なんてこれっぽっちもない。
それどころかNHKは権力とべったりくっついて
与党翼賛放送局と化してしまった。

「「編集権」は「人事権」と一体だからこそ、
 オールマイティーとして威力をふるう。
 だが、そのような力による支配が、
 いかに職場から民主主義と自由闊達な空気を失わせ、
 人々の間に閉塞状況とモラルの退廃を生み出していったか」 (p180)

NHKの番組改編問題に関連して
3月15日に行われた衆議院総務委員会で
就任したばかりの橋本元一会長はこのように答弁した。

「お伺いを立てるやり方でなければ、事前説明自体は問題ない」

1989年に起こった坂本堤弁護士一家殺害事件では
TBSがオウム真理教に"事前説明"としてVTRを見せ、
そのことが結果として教団幹部による一家殺害へとつながっていった。

「取材源の秘匿」というのはジャーナリズムの基本中の基本で、
自ら取材源をバラして相手方に伝えるのは自殺行為に等しい。
だからこそTBSは1996年に社会的に激しく非難を浴びたのだ。

そんな基本中の基本を国政の場で堂々と否定する
NHKの会長にジャーナリズムを一任するわけにはいかない。
こんな国策推進放送局だったら
お金を払ってまでも見る必要は全くないといわざるを得ない。

幹部の顔を変えれば済む問題でもないし、
そう簡単に組織の膿を出し切れるとも考えがたい。
またNHKを取り巻く放送法も制定から半世紀が経ち、
時代との乖離も目立ってきた。

NHKは"公共放送"であって"国営放送"ではない。
だからこそ求められている"公共放送"の姿とは一体何なのか。
そして受信料制度は本当に必要なのか否か。

混沌とした情勢を呈してきたからこそ
国民レベルで"公共放送"の青写真を構築していきたいものだ。

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