![]() | 鎖国してはならない 大江 健三郎 講談社 2004-12-15 [講談社文庫 お-2-12] by G-Tools |
ノーベル文学賞作家でもある著者が様々なテーマについて
国内外で行った講演を活字化した一冊。
社会科学という現代では動脈硬化を起こしつつもある学問分野を
文学者の視点から鳥瞰する本書は底流に"想像力"を据えている。
例えば「象徴」という言葉を考えてみよう。
この言葉を聞いて日本人がまず思い浮かべるのは
日本国憲法第一条にある日本国の「象徴」についてだ。
しかし「象徴」という二文字に含有された意味を
"なんとなく"はわかっても深く知っている者はそういない。
憲法の起草に関わった者でもそこまでは考えていないだろう。
この二文字が曖昧な定義のまま憲法によって
政治的な思惑で文体化(stylized)され、
そのことが日本人の想像力に決定的な制約を加えてしまう。
「公」という言葉を目にすると日本人はタテの線を思い浮かべがちだ。
しかし上意下達なこの線が日本古来の「公」の概念ではないし、
別にワールドワイドに普遍的な概念でも決してない。
むしろ福澤諭吉は"ヨコのつながりこそが「公」だ"とも説いた。
また「戦後民主主義」を虚妄とする風潮が近年強いが、
仮に虚妄とするならば今の日本はどんな姿で佇んでいると想像できるか。
右に習えの付和雷同で想像力の萌芽に水をかぶせてしまう
今を生きる日本人に本書は警鐘を鳴らしている。
言葉の断片だけを捉え、短絡的に一義的なレッテルを貼ることは
想像するという人間の知的活動から逃避行しているに等しい。
イラク戦争後を巡る情勢が混迷の一途を辿っているが、
この情勢を対岸の火事として捉えるのではなく、
自らの痛みとして捉える、つまり想像することができなければ
「こと」の本質はいつまで経っても見えてこない。
想像力は文学的な範疇を越え、
社会的にも重要なファクターであることは疑う余地もないだろう。
よく考える態度(the prudential)を持つ日本人であるために。
想像力を働かすことのできる人間になるために。この一冊を捧げたい。


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