![]() | 雨にぬれても 上原 隆 幻冬舎 2005-04-30 [幻冬舎アウトロー文庫 O-40-3] by G-Tools |
「人生、下手に生きるのも悪くない-。」
この文庫本に包まれた帯コピーに私は惹かれた。
ある物事に対して「上手」と「下手」という
二つの尺度があるのならば、
「上手」であることに越したことはない。
「上手」な技術を持つ医者と「下手」な技術を持つ医者が
仮にいれば誰だって自分の命を「上手」な医者に託すであろう。
しかし人生において必ずしも「上手」に生きる必要はあるのだろうか。
「下手」な人生にはそれなりのリスクが伴う。
職業や収入が不安定になったり、先行きも不透明に陥ったり、
時には周囲から不名誉なレッテルを貼られることもあるかもしれない。
だが「上手」な人生を歩んでいては絶対に得ることの出来ない
貨幣とは代替不可な人間臭い経験ができることも事実だ。
本書は普通の人の日常を描いたオムニバス・エッセイで、
ここにサクセスストーリーなどは一切描写されていない。
どこか不器用で、何か一臂の力を貸したいほど
人生の支点が不安定な人たちが全般的に描かれている。
夜間中学で学ぶことそれ自体に楽しみを見いだす老人、
夫からの理不尽なDVと対峙し続ける妻、
駅前で50年間ずっと靴磨きをし続ける職人…
登場人物に華麗なステージネームなどはない。
特にドラマチックな展開があるというわけでもない。
そこらじゅうに瓦礫のように落ちているようなごく普通の光景だ。
しかしそういった"普通さ"を特に脚色させることもなく、
ただ単調に書き綴っているわけでもなく、
市井の人たちの本質を探り出そうとする
著者の鮮やかな筆さばきはまさに絶妙の一言に尽きる。
本書のp197から「とりあえずの幸せ」というタイトルの物語がある。
舞台は都内の駅前にある大衆食堂。
時間はまだ朝で平日なのにも関わらずお店は大盛況だ。
著者はカウンターの隅に座って、
客と店主とのやり取りを時の過ぎゆくままにずっと観察している。
別に話しのネタになるほどの取り立てたやりとりなんてない。
このお店はビールや一品料理も安ければ
"超高級"と銘打った活〆のはた刺しだって千円だ。
チャージ料だけで数千円とられ、
超高級のドンペリとなると十数万円もする夜の繁華街とは世界が違う。
経済至上社会という名の網をこのお店に被せれば
夜勤明けで朝っぱらから飲んだくれてる彼らは
「負け組」の範疇に入ってしまうかもしれない。
それでも彼らは「とりあえずの幸せ」を求めて生きている。
ちっぽけな幸せでもいいじゃないか。
名誉や財産、地位とは無縁なピンスポットの当たらない世界に身を浸していても、
今、ここに生きている事実こそが何よりの幸せじゃないか。
本書のあとがきの最後で著者はこう記している。
「失恋しても、失業しても、
病気になっても、自信を失っても、
人は生き続けているということ。
この単純な事実に私ははげまされている」 (p259)
さぁ、明日も勇気を出して生きてみよう。


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